解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

時論公論 「"地方創生" 何が必要か」

城本 勝  解説委員

安倍政権は、地方創生を最重要課題と位置づけ、来週からの臨時国会で本格的な取り組みを始める方針です。ただ、地方を活性化させるために具体的に何をするのかは、まだはっきりしていません。中央集権的な今の仕組みを変えて、若者も高齢者も豊かな生活を送ることができる地域作りに何が必要か。今夜の時論公論は、この問題について考えます。

j140926_mado.jpg

 

 

 

 

 

 

 

安倍総理は、今度の臨時国会を「地方創生国会」にするとしていますが、なぜ、いま「地方」なのでしょうか。

ことし五月に元総務大臣の増田寬也さんら有識者のグループが発表した「自治体消滅の危機」が大きなきっかけでした。
増田さんらのグループは、独自の試算結果から、このまま少子高齢化と人口減少が続けば、地方では仕事がないことなどから若い人の東京への流入が加速し、その結果、30年後には20代、30代の女性が半減。機能維持が困難になる「消滅の恐れがある自治体」が896にも上ると発表しました。

j140926_01_1.jpg

 

 

 

 

 

 

都道府県別に見ますと、秋田県や青森県、島根県など、24の道と県で、半数以上の自治体が消滅する恐れがあるというのです。
もちろん自治体が消えて無くなる訳ではなく、試算の方法も極端すぎるという批判も出ていますが、このままだと、高齢者を支える若者が極端に減り、公共サービスが維持できなくなるという危機感は、多くの人に共有されました。

安倍政権も菅官房長官らが素早く反応し、先の内閣改造では、新に設けた地方創生担当大臣に石破前幹事長を起用、「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げました。
ただ、私は、そこには政治的な狙いもあると思います。

j140926_02.jpg

 

 

 

 

 

 

▼その1つは、アベノミクスを成功させること。安倍総理自身が認めているように、アベノミクスの恩恵が十分に地方に行き渡っているとは言えません。むしろ、地方経済が更に厳しさを増しているために景気回復が遅れる恐れが出ています。そうなれば、安倍政権に対する国民の不満も広がりかねません。地方の活力を取り戻すことは経済政策上も重要だという考えです。

▼もう一つは、来年の統一地方選挙です。安倍政権の成長戦略は、大企業・大都市に偏っているという不満が、自民党の地方組織からも出ています。「統一地方選挙で勝ってはじめて政権奪還が完成する」として、地方を細かく歩いてきた石破さんを担当大臣に起用した背景には、そうした地方選挙への対応の必要があったことは間違いありません。

では、地方創生で何を目指すのか。
安倍政権は、大きく三つのポイントを示しています。
 
j140926_03.jpg

 

 

 

 

 

 

(1) 若者の就労、結婚、出産の支援。(2)東京への一極集中の是正。(3)地域の特性の尊重。
注目したいのは、若者の就労や結婚の支援と東京一極集中の是正をセットで打ち出したことです。
 
j140926_04.jpg

 

 

 

 

 

 

内閣府がインターネットで行ったアンケート調査では、東京から地方に移り住んでもいいという人が4割に上りました。住宅など生活費が安く、通勤時間も相対的に短い。東京での生活より余裕ができるのなら地方に移ってもいいというのです。
一方で、不安や懸念材料として、多くの人が▽働き口がない▽買い物など日常生活や▽公共交通が不便では、と感じていました。
逆にいうと、働く場を創り公共サービスを充実させるなどの環境を整えれば、人口流出を食い止める可能性があるわけです。地域の特性を生かすのもそういう意味があります。

ただ、安倍政権は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの成功を大目標としていますので、東京一極集中の是正とどうバランスをとるのか。これは簡単なことではありません。

また、実現のための課題も少なくありません。
▼安倍総理は「タテ割りやバラマキは断固排除する」と繰り返していますが、これが実現できるか。従来、地方の活性化というと、企業や工場の誘致が中心でした。それでうまくいかないと、公共事業で一時的な雇用対策が繰り返されてきました。一方、地方の側も、国の補助金に頼って、用意されたメニューに従って仕事をすることに慣れきっていました。タテ割りやバラマキを排して、地域の特性に沿って、例えば地場産業などを育成する。保育所や学校を整備する。つまり自治体の創意工夫によって、自分たちの地域に必要なことに取り組むには、中央集権的な仕組みを根本的に変えて、地方分権を進める以外にありません。

▼そのために何が必要か。
1つのやり方は、思いきって地方に財源を渡すことです。
石破大臣は「予算を積み上げる従来のやり方はしない。自治体側が自主的に計画をつくり、国はそれを支援する。ただ、やる気のない自治体は支援しない」と述べています。
そのために使い道を自治体に任せる「一括交付金」の創設も検討する方針です。しかし、地方側が求めている「若者の結婚支援のため出会いの場を用意する」といった事業は、財務省などが「税金で婚活パーティーをやるわけにはいかない」と難色を示しています。国が口出しをせずに地方の判断に任せられるか。これも霞が関のやり方を根本から変える必要があります。
▼地方側も自主性を発揮できるかが課題です。
1700余りの市町村には、人口370万人を超える横浜市のような大都市がある一方で、人口数千人という小さな自治体も数多くあります。多くの自治体では自主的に考えろと言われても、それを担当する人材さえ不足しているのが実情です。石破大臣は、「各省職員を地方に派遣する」という考えを示していますが、地方の体制作りには相当時間がかかりそうです。
 
j140926_05_0.jpg

 

 

 

 

 

 

創生本部でも成功例として取り上げられた島根県海士町は、町が前面に立って、特産の海産物の販路を開拓し、加工場などを整備。肉牛のブランド化に取り組み、新たな雇用をつくりました。町に移り住む若者も増えています。小さな自治体でも、地元の特性を生かして知恵を絞れば地域を活性化できるという可能性を示す例として注目されています。
ただ、こうした取り組みが広がるためには、自治体が十分な財源と人材を持つことが必要で、それこそが地方分権の考え方でもあります。
安倍政権の「地方創生」は、経済政策の側面が強いように思えますし、政府主導で地方を引っ張っていこうという色彩が目立つようにも思えます。地方の自主性を最大限尊重する「地方分権型」の改革になるのかどうか。これも取り組みが成功するかどうかのカギになりそうです。
 
j140926_05_1.jpg

 

 

 

 

 

 

安倍総理は、臨時国会に「まち・ひと・しごと創生法案」を提出し「地方創生国会」にすると意欲を示しています。ただ、法案は、地方創生の理念を示したもので具体的な施策は年内にまとめる方針です。この国会で具体的な対策が議論される訳ではありませんが、見てきたような問題で具体的な方向性を示せないと、国民の期待も高まらないように思います。本当の意味で、地方を活性化できるのか。安倍政権の本気度が問われているように思います。
 
(城本 勝 解説委員)

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2016年06月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
RSS