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時論公論 「"イスラム国"の脅威にどう対処するか」

出川 展恒  解説委員

■自らを「イスラム国」と名乗る過激派組織が、
イラクとシリアで急速に勢力を拡大しています。
アメリカの2人のジャーナリストに続いて、イギリスの援助関係者も殺害され、
世界に強い衝撃と危機感を広げています。

アメリカのオバマ大統領は、
先週、「イスラム国」に対する新しい戦略を発表し、
これまでイラクに限定してきた空爆作戦を、シリアにも拡大するとともに、
国際的な包囲網をつくる考えを明らかにしました。

一方、イラクでは、宗派対立を悪化させたマリキ前首相に代わって、
アバディ首相の新しい連立政権が、ようやく発足しました。
「挙国一致」の体制で「イスラム国」の脅威と戦い、
イラクを分裂の危機から救うことはできるのかを考えます。
 
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■「イスラム国」は、スンニ派の過激派組織で、
欧米中心の世界秩序に挑戦し、イラクとシリアの国境を無視して、
支配地域を広げてきました。
異なる宗派や宗教の人々を虐殺し、誘拐や略奪を繰り返し、
イラクの領土のおよそ3分の1を支配しています。
豊富な資金とITを駆使した広報戦略で、組織の規模を急速に拡大させており、
戦闘員の総数は3万人を上回ると推定されます。
 
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■まず、オバマ大統領が発表した新しい戦略は、
▼「イスラム国」を弱体化させ、壊滅させることを目標としています。
そして、具体的な方法として、
▼空爆作戦を拡大し、イラクだけでなくシリア領内も対象とすること。
▼アメリカの主導で、「イスラム国」に対する「国際的な包囲網」をつくること。
▼「イスラム国」への資金源と外国人戦闘員の流れを断ち切ることを
あげています。
 
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■そのうえで、オバマ大統領は、
「イラクやアフガニスタンでの戦争とは異なる」と述べて、
大規模な地上部隊を現地に派遣する考えがないことを改めて強調しました。
さらに、「アメリカ単独での戦いではない」と述べて、
同盟国や周辺国と連携して、「イスラム国」の脅威と戦うことを強調しました。
 
■しかしながら、アメリカ軍が、空爆の対象をシリアにも広げても、
劇的な効果は期待できません。
 
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シリアの内戦は、現在、
アサド政権、反政府勢力、「イスラム国」による三つ巴の戦いとなっています。
 
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そして、アサド政権は、「許可なく空爆を行えば、主権の侵害だ」として、
「事前の完全な調整」を求めています。
しかし、オバマ政権としては、アサド大統領が大勢の国民を殺害したとして、
退陣を要求してきたいきさつがあり、
「空爆作戦について、アサド政権と事前に調整することはない」としています。

地上からの正確な軍事情報がなければ、誤爆の危険性も高まり、
空爆の効果は非常に限られたものになります。
何より、オバマ政権にとって、「イスラム国」を軍事攻撃で叩くことは、
アサド政権の存続を助けることになり、大きなジレンマです。
 
■次に、「イスラム国」に対する「国際的な包囲網」について見て行きます。
 
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▼オバマ大統領は、今月、NATO・北大西洋条約機構の首脳会議で、
直接、加盟国に参加を働きかけたのに続いて、

▼ケリー国務長官が、先週、サウジアラビアで、
GCC・湾岸協力会議の6か国、ヨルダン、エジプトなど、
スンニ派の周辺国と対応を協議しました。
 
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そして、これらの国々が、「イスラム国」に対する軍事作戦に参加・協力すること、
「イスラム国」に資金と戦闘員が流れるのを阻止することで一致しました。

いくつかの国が、アメリカの空爆作戦に参加する意向を伝えているほか、
サウジアラビアは、アメリカ軍が、
シリアの比較的穏健な反政府勢力に対し、
軍事訓練を行うための場所を提供する方針です。

▼フランスのパリでは、15日、
「イスラム国」への対策を話し合う国際会議が開かれ、
欧米や中東など、およそ30の国や国際機関が参加し、
「イスラム国は、国際社会全体の脅威」という認識で一致しました。

▼さらに、ニューヨークで開かれる国連総会に合わせて、
アメリカ政府は、今週と来週、
安全保障理事会の外相級と首脳級の会合を開いて、
対応策を協議する方針です。
 
■このように、
「イスラム国」に対する危機感が国際社会で共有されつつあるものの、
具体的にどう対応するかについては、
当事者の間で、意見や利害の対立があり、足並みが揃っていません。
 
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たとえば、
▼NATOの加盟国トルコは、
国内の基地を空爆作戦に使用することを拒否しています。
「イスラム国」に外交官らを人質にとられていることが影響しているとみられます。

▼アサド政権と関係が深いロシアは、
国連安保理決議を経ないシリアへの空爆には反対しています。

▼シリアでの地上戦で、アメリカが頼りにしているシリアの反政府勢力は、
「イスラム国」よりも、アサド政権に対する戦いを優先する姿勢です。

▼そして、シーア派の大国イランは、
アメリカやスンニ派のアラブ諸国との対立を抱えており、
アメリカ主導の国際的包囲網への参加を拒否しています。
 
■次に、先週発足したイラクの新政権について見て行きます。
オバマ大統領は、
イラクに「挙国一致」の新しい政権を発足させることが、
問題解決への絶対条件であると強調してきました。

シーア派を優遇し、スンニ派を排除してきたマリキ政権に対しては、
本格的な軍事支援を差し控えてきました。

8日に発足したアバディ政権が、宗派や民族の対立を乗り越え、
「挙国一致」の体制で、
「イスラム国」の脅威に立ち向かうことができるかが注目されます。
 
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新しい連立政権の顔ぶれは、首相と副首相を含む27人の閣僚のうち、
シーア派が15人、スンニ派が6人、クルド人が3人と、
シーア派が過半数を占めています。

軍と警察を統轄する国防相と内相のポストがとくに注目されています。
マリキ政権時代、シーア派が軍と警察を掌握し、
反対勢力を力で排除したことが、スンニ派の人々の強い反発を招き、
スンニ派の過激派組織「イスラム国」の台頭を許すことになったからです。

アバディ首相は、国防相と内相のポストを空席にしたまま、
いわば「見切り発車」で政権を発足させました。
この2つの重要なポストが、まだ決まっていません。
 
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■「挙国一致」の体制をつくるうえで、最も重要なのは、
これまで冷遇されてきたスンニ派の勢力を、どこまで取り込めるかです。
多数派のシーア派に偏らない、
すべての国民のための政府と軍に刷新することが必要です。
そして、「イスラム国」に対する戦いでは、スンニ派の地元部族の協力をとりつけ、
掃討作戦に参加させることができるかがカギを握ります。
 
■もうひとつの課題は、クルド人勢力の処遇です。
クルド自治政府は、「イスラム国」との戦闘の混乱に乗じて、
支配地域を「クルド人自治区」の外にまで拡大させており、
イラクからの分離独立も視野に入れた動きを見せています。

アバディ首相としては、
クルド人勢力をイラクに引き留めておくためには、
クルド自治政府の権限や支配地域の拡大をどこまで認めるか、
話し合いによって解決しなければなりません。
 
■「イスラム国」については、急速な勢力の拡大に加えて、
今後、化学兵器などの大量破壊兵器を手に入れ、
攻撃に使用する危険性も指摘されています。

これに対し、イラクのアバディ政権はようやく発足したばかりで、
「イスラム国」と本格的に戦う態勢ができるまで、時間がかかりそうです。

「イスラム国」は、もはや、
「世界全体にとっての差し迫った脅威」ととらえる必要があります。
関係各国は、これまでの対立やしがらみを乗り越え、
強力な包囲網とイラク政府への支援態勢を
速やかに築くことが求められます。
 
(出川展恒 解説委員)

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