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時論公論 「エボラ 拡大を防ぐには」

谷田部 雅嗣  解説委員

日本では熱帯性の感染症であるデング熱の流行が注目を集めていますが、世界的にはエボラ出血熱への関心がますます高まっています。
西アフリカで流行しているエボラ出血熱は拡大を続け、WHO・世界保健機関は「世界最大の健康上の問題」として協力をよびかける、異例の事態となっています。
治療薬がなく、感染した人の半数以上が死亡するというエボラ出血熱。なぜ、流行が拡大しているのか。流行は収束するのか。日本には影響がないのか。エボラ出血熱流行の現状と、これからについて考えます。
 
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流行の現状
 
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流行が起きているのはアフリカ西部のギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリア、セネガル。
WHOが発表しているデータは毎週増え続け、最新のものでは感染者の数が疑い例を含めて合計3707人、このうちおよそ半数の1848人が死亡しています。
また、アフリカ中部のコンゴ民主共和国でも、別個に流行が起きているという情報もあります。
 
エボラ出血熱とは
 
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原因はエボラウイルスです。
電子顕微鏡でようやく見える小さなものですが、細長いひも状の形が大きな特徴です。

致死率は50%から90%。
実用化された治療薬やワクチンはありません。
 
エボラ出血熱の症状
 
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感染してから症状が出るまでの潜伏期間は2日から21日。
発症すると突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに始まり、その後、嘔吐、下痢、発疹など起きます。
増殖速度の速いウイルスで、症状が悪化すると内臓や皮膚などから出血が起きます。

実用化された治療薬はないので、点滴で水分や栄養を補給し、抗生物質でほかの感染症を抑えるなどの対症療法しかありません。
 
エボラウイルスの感染力
エボラウイルスはどのようにして感染するのでしょうか。
 
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エボラウイルスは発症した人の血液や分泌物、下痢やおう吐で出る汚物に含まれています。
これに直接触れることによって感染が起こります。
ノロウイルスなどのように感染や空気感染はしません。
潜伏期間では感染の危険はないとされています。
また医療従事者が患者に使った針をあやまって自分の体にさしてしまうという事故などからも感染が起きています。
 
感染拡大を防ぐには
拡大を防ぐ対策ははっきりしています。
感染した人や感染の恐れのある人をほかの人と接触させないように隔離することです。
火災では初期消火が大事なように、この恐ろしい感染症も初期対応がうまくいけば、流行を小さな規模で収束させることができます。
しかし、初期消火に失敗し、簡単に火を消せるような状況ではなくなってしまいました。
 
拡大してしまった理由
西アフリカで流行が拡大してしまったのは、感染者を隔離し、ウイルスを封じ込めることを難しくする要因がたくさんあるからです。
 
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主な要因をあげてみます。
今回の流行は人口密集地で起きました。
感染が広がりやすく、感染者を見つけて隔離することが難しくなっています。
そして、知識の不足です。
今回の流行地域では、これまでエボラ出血熱の流行がなかったために、国の専門家にも知識や警戒心がなく、流行に気づきにくく、対策が遅れたという要因があります。
住民の場合、エボラ出血熱に対する知識は勿論、感染症ついての基礎的な知識も充分ではありませんでした。
食事の前には手を洗うというような衛生意識も高くはありません。

医療体制が貧弱であることも原因です。
医師の数で比較すると日本の100分の1以下。
感染を防ぐための手袋や防護服も不足していました。

そしてこの地域の風習の問題もあります。
死者を弔う際に、体を洗い清め、葬儀では別れを惜しんで、顔や体に触るというものです。
家族が一生懸命看病し、手厚く葬ることが、感染拡大の要因になってしまったのです。
 
国際的な対策の遅れ
対応が遅れた大きな要因は、国を越えて対策を進める要となるWHOや専門家がエボラ出血熱がこれほどの規模で流行することを想定していなかったことがあります。
 
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エボラ出血熱は40年ほど前に現在の南スーダンで初めて確認され、これまでアフリカの中央部で20回以上の流行を繰り返してきました。
一回の流行で、感染者の数は300人前後。
流行した地域は人口密度が低く孤立しており、流行の広がりが限られていました。
 
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今回の流行地域は経済が発展し、人の往来が増えている国境を接する地域です。
人口密集地ということから、先にあげたように、感染が広がりやすく、感染者を見つけにくいということもあります。
しかも、国によって流行を抑えるためにとられた措置が違い、国境を越える流行に十分に対処できませんでした。

そこをまとめて対策を進めるのがWHOの大切な役割ですが、想定を超えた事態に、対策は後手後手になってしまいました。
感染者は3000人を越え、増え続けています。
 
収束させるには
WHOは今後の見通しとして、感染者数は2万人を越え、収束までには6カ月はかかるだろうとしています。
しかし、世界が協力して、資金提供は勿論、医療スタッフや公衆衛生などの専門家の派遣などを増やさなくては収束はもっと先になります。
 
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日本も新たな資金提供を示し、WHOなどの呼びかけに応じて、人的な協力も進めてはいます。
大事なのは収束に向けて先手を打つことです。
さらに協力体制を強化していく必要があります。
 
日本への影響
 
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日本にもエボラウイルスが入り込む可能性はあります。
そこで、空港で流行地から入国した人に聞き取り調査をするなど、水際での対策を強化しています。
もし、感染した人が見つかった場合、隔離して治療する施設が全国45か所に整えられています。
日本などの先進国では、西アフリカのように感染が拡大するという恐れはありません。
 
今後の対策
開発中の治療薬やワクチンを未承認の治療薬やワクチンを使用する試みも始まっています。
しかし、効果や副作用などが充分にわかっていないこと。
製造量が限られています。
効果があるとしても、多くの人に投与できなくては、流行を抑えることはできません。
優先順位を決めるなど、倫理的な問題もあります。

そもそもエボラ出血熱は40年も前に見つかった病気であり、これまでにもワクチンや治療薬の研究は行われてきました。
しかし、途上国の限られた地域の病気ということで、本格的な開発には至りませんでした。
理由はいくつかありますが、臨床試験など開発に必要な資金を補うだけの利益が見込めないことが大きな要因です。
アフリカで流行しているエイズの場合、先進国にも多数の患者がいたため、治療薬の開発は速やかに行われました。
しかし、流行の中心であるアフリカでは、価格の面で治療薬が使えないという状況が生まれました。

今回のように予想もしなかったような大流行が起きてみると、こうした先進国のワクチンや治療薬の開発に対する基本的な姿勢が問われます。
地域限定で流行してきた感染症も、環境の変化で影響力の大きなものにかわります。
日本では熱帯地方で流行するデング熱が国内感染し、注目されています。
感染症は思わぬ形で突然流行が起きます。
流行の規模の大小や、地域の重要性だけで判断することは危険であると、今回の事態は示しています。
人道的にも先進国が開発する力を持ちながら、これを発揮しないということは許されません。
温暖化による影響も、感染症の流行には大きくかかわってきます。
これからの国際社会は、予測できない感染症の流行に備えて、治療薬やワクチンの開発を進めていく必要があります。
基金のような形で資金を集める仕組みを新たに作らなくてはなりません。
また、今回の教訓として汲み取らなくてはいけないのは、治療薬やワクチン以上に重要なのが、途上国の医療水準を上げ、公衆衛生や感染症に関する意識を向上させるという点だということです。
 
(谷田部雅嗣 解説委員)

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