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時論公論 「もたつく 消費の回復」

今井 純子  解説委員

  消費税率が8%に上がって5カ月がたちました。増税直後、流通業界からは、「消費は、6月か7月ごろには、元の状態に戻る」という強気の見方が聞かれました。しかし、8月が終わった今になっても、消費の回復には、力強さが見られません。GDPの60%を占める個人消費の動向は、安倍総理大臣が消費税率を10%に引き上げるかどうかを判断する時の、大きな材料にもなります。消費の回復は、なぜ、もたついているのでしょうか。その背景には、家計をとりまくアベノミクスの構造的な問題があるようにも思えます。今夜は、この問題について考えてみたいと思います。
 
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【今、消費はどうなっているのでしょうか?】
 まず、消費の現状を見てみたいと思います。
 
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▼ こちらは、家庭の消費支出の推移です。物価の変動を除いた、実質の数字です。駆け込み需要で、3月に、大きく膨らんだあと、増税後の4月からマイナスが続いています。7月は、一年前と比べて、マイナス5.9%と、6月と比べても、落ち込みました。エアコンなどのほか、パック旅行、あるいは外食といった、かけこみやその反動とは関係のない項目でも、大きな落ち込みが目立ちました。
 
【8月は、まだら模様】
では、8月はどうだったのでしょうか。まだ、全体の消費を示すデータはでていませんで、こちらは、
 
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▼ 全国のデパートの売り上げです。
8月分は、大手4社の速報の段階ですが、増税後、初めて、4社そろって、去年の実績を上回りました。
 
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▼ 一方、新車の販売を見てみると
8月は、一年前と比べて、9.1%のマイナス。消費増税の後、もっとも大きく落ち込みました。
 
【現場からは、明暗両方の声】
 消費の現場からは、
▼ 「数十万円する腕時計の売れ行きに、好調さが戻ってきた」「涼しくなった8月後半に、秋モノの服の売れ行きが伸びた」という明るい声が聞かれる一方
▼ 「デパートの売り上げがよかったのは、去年の8月と比べて、客足の多い日曜日が多かったからではないか」「売れる商品の単価は上がっているが、お客さんの数が減っている」「特に、地方の回復が遅れていて、まだ本格的な回復とは言えないのではないか」そういった、慎重な見方もでています。
 
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【回復は遅れているのでしょうか?】
消費をめぐっては、当初、流通業界、そして政府からも、「4月、5月の落ち込みは、想定内で、かけこみが大きかったことを考えると、むしろ、思いのほか堅調だ」「ボーナスが増える6月、遅くとも7月には、消費は、元の状態にもどって、本格的に回復する」と、いう声が聞かれていました。それから考えると、消費は、回復のペースがもたついていて、8月以降も、まだら模様が目立つ形になっています。日銀の黒田総裁も、きのうの記者会見で、一部、消費の戻りに弱いところがあるのは事実だという見解を示しました。
 
【なぜ、回復が遅れているのですか?】
なぜ、消費の回復は、もたついているのでしょうか。
 
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▼ 天候
 多くの人が指摘をするのは、天候の悪さです。
 7月、8月は、西日本を中心に、台風や大雨の日が多く、気温も低く推移しました。特に、客足の多い週末に雨が降ることが多く、買い物に出かけるお客さんが減った、また、エアコンなど夏ものの売れ行きが悪かったというのです。

▼ 実質賃金の減少
ただ、民間のエコノミストの間からは、天候の悪さだけではないのではないか。消費者の間で、財布のひもを締める動きが広がっているのではないか。そういった懸念の声も上がっています。
その背景にあるのは、実質賃金が減っていることです。名目の賃金から、物価の影響を差し引いた賃金のことです。
確かに、大企業を中心に、賃金やボーナスが増える動きは見られます。
特に、7月は、ボーナスが大幅に増えて、働く人一人当たりが受け取った、平均の給与は、前の年と比べて、2.6%と大幅に増えました。それでも、アベノミクスによる円安の影響や、消費増税の負担で、物価は、それ以上に上がっています。このため、物価の影響を差し引いた、実質賃金は、マイナス1.4%と、依然、減り続けている状態です。
 
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増税から、時間がたつにつれて、一か月ごとの家計の収支が厳しさを増したり、預貯金の残高が減ったりしている、という実感が重みを増して、消費を絞る動きが広がっている懸念があるというのです。
 
【今後はどうなるのでしょうか?】
 今後はどうなるのでしょうか。
 食料品の値上げが続いていますし、円安・ドル高が再び進んでいることから、物価はもう一段、上がる可能性もあります。
ただ、雇用をめぐる状況は、改善が進んでいます。
このため、消費は底堅く、一気に冷え込む心配はないというのが、政府や日銀の見方です。流通業界からも、天候が回復すれば、9月こそ、消費が本格的に戻るのではないかと期待する声も聞こえてきます。
しかし、エコノミストの中からは、実質賃金の減少が続いていることを考えると、消費の回復は、まだ遅れるのではないか。そういう見方もでてきています。もし、消費の回復が遅れ続けると、企業の生産計画に影響がでて、景気の足を引っ張る懸念もでてきます。そうした事態を避け、消費の回復のスピードを上げるには、物価の上昇に追いつくよう、賃金やボーナスを継続的に増やしていくことが、やはり必要ではないかと思います。
 
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【家計は二極化】
その際、気になるデータが、2つあります。
 
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▼ まずは、こちら。安倍政権が発足した、おととし12月以後の、一世帯当たりの収入の伸び率を、地域別に見たものです。東京都区部や政令指定都市などの大都市では、物価の影響を除いた実質で、平均0.2%増えているのに対して、人口5万人未満の市町村では、4.2%減っています。

▼ もうひとつ。今度は、年収別に、この先の収入の見通しを聞いたアンケート調査の結果です。
 
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赤い線が年収1200万円以上の世帯。青い線が、年収300万円未満の世帯です。安倍政権の発足までは、差はあっても、同じような動きをしていました。
ですが、安倍政権の発足後は、年収1200万円以上の世帯では、このように、収入が改善していくとみる割合が一気に増えたのに対して、年収300万円未満の世帯では、逆に、悪くなっていくとみる割合が増える方向で、格差が広がりました。
 
【弱者への配慮が、消費底上げのカギ】
このように、家計の二極化を示すデータからは、大企業が多い都市部や株価上昇の恩恵を受けやすい富裕層と比べて、小さい企業が多い地方部や非正規社員など所得の低い世帯には、景気回復の恩恵が行きわたらず、そのため、増税の影響をより大きく受けている姿が浮かび上がってきます。デパートで高級腕時計の売れ行きが回復している一方、客足が減っている。地方の売れ行きが悪い。消費の現場でのちぐはぐな動き、そして、全体的に消費の回復が遅れている背景には、こうした収入の二極化という、アベノミクスの構造的な問題があるように思えてなりません。これを放置したままでは、消費全体の底上げ、そして、本格的な景気回復にはなかなかつながらないのではないでしょうか。
 
【まとめ】
おととい、第二次安倍改造内閣が発足しました。予定通り、消費税率を来年10月に、10%に上げるのか。7月から9月の経済の動向をみて、安倍総理が年末までに判断するとしています。それが、改造内閣の当面の大きな課題になります。その際には、足もとの景気のデータだけでなく、アベノミクスの恩恵を受けていない弱い立場の人たちに、どのような影響があるのか。そして、どのように配慮し、対処していくのか。それもあわせて、慎重に検討して、判断することが大事ではないかと思います。
 
(今井純子 解説委員)
 

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