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時論公論

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時論公論 『広島土砂災害から1週間』

山﨑 登 解説委員 / 二宮 徹  解説委員

《山﨑》
広島市の大規模な土砂災害は発生から1週間が経ちました。これまでに71人の死亡が確認され、行方不明者は11人にのぼっています。警察と消防、それに自衛隊は今夜も夜を徹して捜索を続けることにしています。今晩は現地を取材した二宮委員とともに、時間を延長して、1週間経ってわかってきたことを整理しながら、土砂災害対策を考えます。
 
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最近にない大災害

《山﨑》 
今回の土砂災害は、1週間経っても被害の全容がわからない大災害です。一つの市町村を襲った大きな土砂災害には、去年、39人が犠牲になった伊豆大島などがありますが、今回の規模は、長崎市内だけで250人以上の人が亡くなった昭和57年の長崎豪雨以来ではないかと防災関係者はみています。

Q・二宮さん、捜索活動が難航していますが、現場の状況はどうなっているのですか?
 
《二宮》
私は発生当日から3日間、現場や避難所を取材してきました。流れ込んだ大量の土砂が、多い所では数メートルも堆積しています。しかも、災害が起きてから、雨が降らなかった日が2日間しかないので、泥が乾かず、常にぬかるんでいます。
また、下水道や用水路にも土砂が詰まっているので、雨が降ると、あちこちで水があふれてきます。
捜索も2次災害を警戒して、たびたび中断するなど、難航しています。
 
ハードとソフト対策

《山﨑》 
土砂災害の対策は、土石流などが下流に押し寄せるのを防ぐために「砂防ダム」などの施設を整備するハード対策と危険箇所や避難場所などを記したハザードマップを整備したり、地域の避難態勢を作るソフト対策が車の両輪のようになって進めることが重要です。
今回の災害を、ハードとソフトの対策の両面からみていきたいと思います。
 
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Q・二宮さん、広島市は土砂災害が起きやすい地質であることが知られていましたが、今回の被災地の地形的な特徴を整理してください?
 
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《二宮》
主な被災地は、大きく分けて4か所です。最も被害が大きかったのが八木地区と緑井地区です。
昭和40年代ごろから開発が進んだ「郊外の山裾に広がる住宅地」です。近くをJR可部線や国道が通る便利さもあって人気が高まり、山際を切り開く形で、住宅地が広がっていきました。
また、被災地には、花崗岩が風化してもろくなった「まさ土」という地質のところが多く、土砂崩れが起きやすい特徴がありました。
15年前の平成11年に、広島市などで31人が死亡した土砂災害では、今回の被災地とはやや離れていますが、同じ安佐北区と安佐南区で6人が死亡しました。
 
《山﨑》
Q・砂防ダムなどのハード対策はどうなっていたのですか?
 
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《二宮》
15年前の災害を受け、国土交通省は八木地区で、9つの砂防ダムの建設を計画していました。このうち2つが工事中だったということです。
残る7つは、まだ調査や設計の段階で、一つも完成していませんでした。
1つ作るのに数億円かかるうえ、過去に災害が起きた地区や公共施設があるところを優先していたことから遅れていたということです。

《山﨑》 
ハード対策が後手に回ってしまったということだと思いますが、全国には崖崩れや土石流など土砂災害の危険箇所が52万5000箇所余りあります。東京都にもおよそ3700箇所、大阪府にもおよそ4300箇所あって、都会だからといって縁のない災害ではありません。
 
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ところが砂防ダムなどが整備されているのは、住宅が5軒以上ある危険箇所に限ってみても20%ほどしかないのが現状です。
 
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高度経済成長の時代を中心に山際まで宅地開発が行われた場所は、全国の都市部で見ることができます。国土交通省や都道府県には、優先順位をつけて、住宅の多い危険箇所などに砂防ダムなどハードの整備を急いで欲しいと思います。
 
ソフト対策 

《山﨑》 
こうしてハードの整備がなかなか進まない中、重要になるのが危険箇所に住んでいる人に危険を知らせて避難してもらうソフト対策です。ところが、広島市では、住民が避難のきっかけにする避難勧告が災害の発生前に発表することができませんでした。

Q・二宮さん、どんな事情があったのですか?
 
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《二宮》
広島市は、午前1時15分に、気象庁が土砂災害警戒情報を出したことから、雨の降り方に警戒はしていました。
市は、土砂災害での避難勧告を出す基準として、72時間に降った雨の量から地中にしみ込む雨などを差し引いた「実効雨量」を使っています。
20日の午前3時に一部で基準を超えましたが、他の地域が基準を超えていなかったことで職員が躊躇したことなどから、最初の避難勧告を出したのは午前4時15分でした。
その間の午前3時21分以降、「2人が土砂に埋まった」、「女性が土石流に流された」などの通報が寄せられました。
市では、「経験したことのない短時間で急激な雨量だった。避難勧告は遅かったと言わざるをえない」として、見直しを検討する考えを示しています。
 
《山﨑》
Q・そうした状況で、住民はどのように避難したのですか?
 
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《二宮》
住民から話を聞くと、部屋の中に土砂や泥水が流れ込んで、慌てて逃げた人が多くいました。
マンションの屋上に上がったり、1階の窓から外に飛び出したり、隣の家やアパートの上の階の部屋に入れてもらったりした人がいました。
ただ、実は、私が聞いた中で一番多かったのは、気付いた時には、猛烈な雨とあふれる水で、外に逃げることができず、ほとんど何もできなかった人でした。
こうした状況で助かった人たちは「運が良かっただけ」と話していました。
避難した集会所の外で流され亡くなった方がいますし、避難せずに家ごと土石流に巻き込まれて亡くなった方もいます。こうすればよかったと断言できる状況ではありませんでした。
ただ、土砂災害警戒情報が出された1時15分の直後だったら、雨はそれほど激しく降っていなかったので、避難できた人も増えたと思います。
 
《山﨑》
土砂災害警戒情報は、気象庁と都道府県の砂防部局が協力して、土砂災害の危険性が高まった際に発表される情報ですが、去年の伊豆大島でも、災害発生の8時間ほど前に、また先日(8月24日)の北海道礼文島でも災害の2時間ほど前に発表されています。
市町村はこの情報を住民の避難に生かすことが重要ですが、実際は違っています。
 
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平成22年に土砂災害で避難勧告を出した市町村に、その理由を聞いた調査をみると、最も多かった理由は「土砂災害が予想されたため」という曖昧な根拠で、2番目が「土砂災害が発生した」からというものでした。
次いで「土砂災害警戒情報が発表されたから」、「雨量が基準を超えたから」でした。
内閣府は今年の春に出したガイドラインで、土砂災害警戒情報を避難勧告の基準の一つに位置づけています。各市町村は、最近の災害の状況などを踏まえて避難勧告の基準を見直しておく必要があると思います。
 
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土砂災害防止法の課題

《山﨑》
ここまでハード対策とソフト対策の現状と課題をみてきましたが、これら2つの対策をバランス良く進めていくために、平成13年に施行されたのが「土砂災害防止法」です。
「土砂災害防止法」は住民の避難体制を整えるとともに、特に危険な場所にはなるべく住宅を建てないように制限して被害を減らしていく狙いがあります。
 
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まず都道府県は土砂災害の恐れのある地域を指定します。指定には2種類あって、住民に土砂災害の危険が及ぶ恐れのある地域は「土砂災害警戒区域」、その中で一段と大きな被害が予測される地域は「特別警戒区域」です。
「警戒区域」では、市町村がハザードマップなどを作って、日頃から危険な場所と避難場所などを住民に知らせておき、避難勧告などを確実に伝えて避難してもらう仕組みを作ります。
また特別警戒区域では、新たに宅地を開発したり、家を建てたりするのを制限する一方、既に住んでいる人が安全な場所に移転する場合には金銭面で支援する仕組みです。

Q・二宮さん、今回の被災地では警戒区域の指定はどうなっていたのですか?
 
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《二宮》
土砂災害警戒区域に指定されていたのは可部東地区だけです。この地区では、ハザードマップを全世帯に配ったほか、住民の避難訓練もしていました。また、町内会の代表の家などに防災行政無線を設置して、連絡網も作っていました。
しかし、八木地区は、警戒区域に指定するための現地調査が9年前から進められたのですが、県が調査を委託した2つの業者で基準が異なっていたことから、いったん棚上げの形になっていました。県はおととし再調査を始め、去年12月に現地調査を終えて、住民に説明する準備を進めていたところだったということです。
 
《山﨑》 
警戒区域の指定が遅れていたということですが、全国に52万箇所あまりある土砂災害危険箇所のうち警戒区域に指定されているのは35万4000箇所余りで、まだおよそ17万箇所は指定されないまま残されています。
 
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土砂災害防止法は、日本の法律としては珍しく、私権、住民の権利を制限する法律で指定のためには住民の理解が欠かせませんが、指定されると土地の値段が下がってしまうといった住民側の抵抗も強いとといわれます。
しかし、住民が自分の住んでいる地域の危険性を知ることが防災の始まりです。古屋防災担当大臣は「今後指定が進むように法律の改正を検討したい」という考えを示しています。都道府県は法律の趣旨を重く受け止めて、指定を急ぐ必要があると思います。
 
《二宮》
今回、広島市は、警戒区域の可部東地区に対して、防災行政無線で警戒の呼びかけなどを流しました。しかし、災害発生までの時間が短かったことや停電したこと、それに、設置されている家の人が避難勧告ではない情報を真夜中に連絡網で回すことを躊躇したことなどから、情報や危機感の伝達という意味ではあまりうまくいきませんでした。
警戒区域に指定するだけでは十分とは言えません。そのあとの具体的な運用も重要です。
一方、住民の側も、自分で積極的に情報を得るようにする必要があります。警戒区域に指定されていない八木地区などでは、自分の住んでいるところが土砂災害の危険箇所だと知らなかったという人が多くいました。
災害に備えるため、自分の住むところでどんな災害が起きる危険があるかを知っておくことは、とても大切です。
たいていの場合、県や市町村のホームページなどに載っていますし、広報誌に載っていることもあります。
土砂災害だけでなく、洪水や津波、地震の揺れなど、どんな危険があるのか、ハザードマップなどで確認し、防災に生かしてほしいと思います。
 
まとめ

《山﨑》
これだけ災害の多い国に住んでいる以上、自分の住んでいる地域の地形や地盤に強い関心をもって、いざというときにどうしたらいいかを日頃からシミュレーションしたり、家族で話し合っておいて欲しいと思います。
今年の夏は連日のようにどこかで雨が降り、いったん降るとすぐに観測史上1位というニュースが流れるような猛烈な雨になって各地で被害がでています。
広島市の大規模な土砂災害の教訓を様々な面から検証して、行政も住民も今後の土砂災害対策に生かしていく必要があります。
広島市では今も捜索活動が続いています。2次災害に十分注意して欲しいと思いますし、避難している人たちには疲れも重なっています。熱中症などにも気をつけて、これ以上の被害がでないようにして欲しいと思います。
 
(山﨑 登 解説委員/二宮 徹 解説委員)

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