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時論公論

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時論公論 「中国権力構造の変化と日中関係」

加藤 青延  解説委員

今晩は。時論公論です。中国では、いま、渤海湾に面した避暑地・北戴河で、恒例の秘密会議が開かれ、汚職で摘発した最高幹部の処分や、外交をはじめとする今後の重要政策について、習近平指導部と、引退した長老との間で、話し合いが行われているものと見られます。ただ、現役指導部と長老との力関係は、これまでとはだいぶ変わってきたように思います。そこで今夜は、習近平政権誕生後、大きく変わった中国共産党内の権力構造の変化と、それが今後の日中関係に及ぼしうる影響について考えてみたいと思います

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まず、「中国の権力構造の変化とは何か」これを一言で申し上げますと、習近平国家主席への「権力の集中」、そして、それまで圧倒的な力で共産党を牛耳ってきた、江沢民元国家主席のグループの「衰退」ということになると思います。習近平指導部は、二年近く前の発足以来、内政、外交の両面で、次々と強硬な政策を打ち出してきました。とりわけ、中国共産党内部を震撼させたのが、徹底した反汚職キャンペーンです。

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「虎もハエも同時に叩く」。つまり、「大物幹部も末端の下級官僚も容赦せずに摘発する」という大胆なスローガンを掲げ、およそ二週間に一人の割合で、大臣か次官クラスの高官を検挙。これまでに摘発された汚職官僚や党員の数は、上から下まであわせると、5万人以上ともいわれています。

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そして最近、二年前まで絶大な権力を握ってきた最高指導部の元メンバー、周永康元政治局常務委員の摘発にも踏み切ったのです。周氏は、江沢民元国家主席の庇護の下、石油開発の利権で絶大な富をなし、警察・公安を一手に仕切る、大物中の大物でした。
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中国では、ここ二十数年来、「刑は、常委に上らず」つまり、「党の最高指導部である政治局常務委員経験者は、刑事罰を問えない」という不文律が貫かれてきました。しかし、今回の「虎もハエもたたく」方針は、その聖域さえも突破することになりました。

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反汚職キャンペーンは、こうした党の聖域だけでなく、軍の聖域にもおよび、6月末には、軍の前の制服組ナンバー2、徐才厚前軍事委員会副主席も、摘発されました。

(スタジオ)
党や軍の実力者の摘発は、これで打ち止めという見方がある一方、いやいや、まだこれから摘発される大物、たとえば「江沢民派の重鎮」や「引退した軍高官」などの捜査がすでに始まっているという情報も一部で伝えられています。
どこまで、やるか。そして、すでに摘発された大物幹部に対してどのような最終処分を下すかをめぐって、今まさに、江沢民氏ら長老と、現指導部との間で、綱引きが行われているものと見られます。ここで、ひとつ大きな疑問が浮かび上がります。末端はともかく、上の方を見ますと、どうして江沢民派に近い個人や組織ばかりが摘発されているかという点です。

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たとえば、高速鉄道の利権の巣窟と言われ江沢民氏の影響力が強く及んでいた鉄道省。習近平氏は、去年の春、省自体を解体してしまいました。そして、石油資源開発の利権を手にしてきた国有企業や政治家ら石油閥といわれてきた人たち。さらに、周永康氏とつながりの深い警察、そして軍の中で江沢民氏とのつながりを背景に抜擢された幹部など、摘発の対象になったのは、ほとんどが、江沢民派といわれる人たちでした。

(スタジオ)
このため、これはもはや、江沢民派を狙い撃ちにした権力闘争だという見方もあります。しかし、それとは逆に、汚職に手を染めていた人の多くが結果的に江沢民派だったという見方もあり、これについては、さらに見極める必要がありそうです。いずれにしても、結果的に習近平指導部が、それまで絶大な力で共産党を支配してきた江沢民派の支配体制を崩壊させ、中国共産党の権力構造を大きく変えてしまったことだけは、間違いありません。問題はなぜそれができたのかということです。ここで、習近平氏が最高指導者の候補として抜擢された7年前を思い出してみましょう。

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当時トップにいた胡錦涛国家主席は、自分の出身母体、共産主義青年団の後輩、李克強氏を自分の後任にしたかったといわれていました。これに対して、江沢民元国家主席や江沢民派の重鎮、曽慶紅元国家副主席らが、習近平氏を担ぎ出して対抗し、結局、ナンバーワンの地位に押し込んだといわれています。

(スタジオ)
だとすると、いま習近平主席は、自分を担ぎ上げてくれた支持勢力を、自分の手で崩壊へと追い込んだことになります。それなのに、なぜ、習近平氏は、なお絶大な力を発揮できるのでしょうか。そこでいま、習近平氏を支持しているのは一体誰なのかを考えてみます。
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まず考えられるのは、▼太子党と呼ばれてきた二世の政治家の人たち。最近は自ら、建国の功労者の二代目の世代を意味する「紅二代」と名乗り、習近平氏の下に結束を強めています。次に、▼習近平氏が若いころ生活した内陸部の陝西省、そこで生活した経験のある人たちがつながりを強めている可能性です。政治局常務委員7人の中で、陝西省と関わりのある人は3人もいます。さらに政治局員や軍の最高指導部の主要ポストも、陝西省とかかわりのある人が結構いて、新たな派閥になりうる情勢です。そして三番目が▼人民解放軍です。習近平氏は、大学卒業後しばらくは、軍事委員会の秘書長を務めた軍幹部の秘書をしていました。その時に連絡を取り合った仲間の多くは、いま、中央や各軍区のリーダー的地位にあるのです。

(スタジオ)
しかし、このようなグループだけで、絶大な権力を握っていた「江沢民派の天下」をひっくり返すことは難しかったでしょう。そこで私は、かつては最大のライバルであった、

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胡錦涛前国家主席に代表される共産主義青年団のグループが、習近平氏支持に回ったことこそが、習近平氏が大きな権力を掌握できた最大の要因ではないかと推測しています。つまり、このまま、共産党内の汚職腐敗が進めば、共産党の支配体制はもう長く続かない。そのような危機感を募らせた人たちが、習近平氏の下で一つにまとまり、挙党一致体制を作って、腐敗幹部を排除にかかったと見るべきだと思います。その陰の仕掛け人こそが、今は、政治の表舞台から身を引いているはずの胡錦涛前国家主席ではないかと私は推測しています。

(スタジオ)
さて、そうなると今後の日中関係はどうなるのでしょうか。重要なことは、日中双方の首脳同士がどこまで強い指導力を発揮し腹を割って話し合えるかにかかっていると思います。中国側についていえば、私は、習近平氏のもとで、今、形成されつつある挙党一致体制が、どこまで盤石なのか。そして、今後、どこまでその結束力を維持できるのかにかかっていると思います。

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当面、注目されるのは、ことし十一月に北京で開かれるAPEC首脳会議です。もし、この場で、両国の首脳の間に、何らかの意思疎通が可能になれば、流れを変えるきっかけになるかもしれません。一方で、尖閣諸島の問題や歴史認識など日中間を取り巻く懸案は、依然として、そう簡単に消え去るとは思えません。

(スタジオ)
中国がことし秋に向けて外交面で、柔軟路線に転じるのか、それとも強硬路線を維持するのか、それはまさに今、中国で行われている習近平指導部と長老たちとの間の秘密会議の大きなテーマになっているはずです。場合によっては、この夏が、ひとつの潮目になる可能性も十分あり得ると思います。そうした意味からも、北戴河の秘密会議の結論をもとに、ことし十月開かれる、中国共産党中央委員総会に向けて、私たちも、その動向をしっかりと見極める必要があると思います。

(加藤青延  解説委員)
 

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