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時論公論 「米軍イラク空爆 狙いと効果は」

出川 展恒 解説委員 / 高橋 弘行  解説委員

(出川展恒 解説委員)
アメリカ軍が、イラク北部でイスラム過激派組織に対する空爆作戦に踏み切りました。
2011年末、アメリカ軍がイラクから撤退を完了して以来、初めての空爆で、
イラク戦争を終結に導いたオバマ大統領が、
ついに政策を転換したのではないかという見方も出ています。
今夜の時論公論、空爆の狙いと効果について、
アメリカ担当の高橋弘行解説委員とともにお伝えします。

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高橋さん、今回の空爆は、どんな作戦で、どれだけの効果があったのでしょうか。

(高橋弘行 解説委員)
はい。現時点では、一定の効果は出ています。
 
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空爆は、ペルシャ湾に浮かぶ空母からの攻撃機、また無人機などで、
8日から10日までの3日間連続で、連日数回にわたって、
クルド人自治区の中心都市である北部のアルビル、
また、シリアとの国境に近い町シンジャルの周辺で行われました。
空爆といっても、いずれも1機か2機程度の小さな編成で、
しかも攻撃対象は、過激派組織のトラックや迫撃砲陣地といった、
ごく小規模な標的が多かったのですが、
アメリカ軍は、無人偵察機などで正確に過激派組織の動きをとらえ攻撃しました。

そして、この3日間の空爆の後、過激派組織の
アルビルなどへの攻撃は鈍っています。
また、過激派が、周辺地域で支配していた複数の都市から撤退したという情報もあり、
とりあえず過激派の動きを食い止める効果はあったようです。
 
(出川)
自らを「イスラム国」と呼ぶこの過激派組織は、
2カ月前、イラク北部の都市モスルを制圧し、首都バグダッドに向けて進撃しました。
その後、政府軍も巻き返し、一進一退の攻防となっていました。

イスラム教徒にとって神聖な断食の月「ラマダン」が明けた今月はじめ、
過激派組織は、再び攻勢に出て、北部の町や村を次々と攻略していきました。
ここで注目したいのは、今回、過激派組織が、
少数民族のクルド人が多く暮らす地域、あるいは、
クルド人が新たに支配した地域に攻勢をかけたことです。

そして、キリスト教や、それ以外の宗教を守ってきた住民に対し、
イスラム教への改宗を強制し、これに従わない人たちを殺したり、
住んでいた場所から追い出したりしたのです。
とくに、北部のシンジャルでは、ヤジディ教徒と呼ばれる少数派が、
過激派に集団で殺害され、4万人以上が、近くの山に逃げ込んで、助けを求めました。

さて、高橋さん、
オバマ大統領は、これまで軍事介入には非常に消極的だったと思いますが、
なぜ、イラクへの空爆に踏み切ったのでしょうか。
 
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(高橋)
つまり、これまでの基本方針を覆してでも、
過激派の進撃を止めたかったということだと思います。
その背景としては、
▼まず、攻撃されていた都市アルビルの重要性。
▼アメリカとクルド人の関係。
▼そして、人道危機への対応に迫られたことです。
 
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まず、アルビルの重要性ですが、今回過激派組織が攻撃目標にしていたアルビルは、
アメリカの総領事館があるほか、アメリカが派遣した軍事顧問団が拠点を構えています。
さらにこの地域は原油が豊富で、アメリカの石油大手からも人が派遣されています。
こうした「アメリカにとって重要な拠点を守らなければ」というオバマ大統領の判断は、
2012年9月にリビアのベンガジで起きた事件の反省が
背景にあると言われています。
この事件は、アメリカの領事館が武装勢力に襲撃され、大使を含む4人が死亡。
その後、安全対策に不備があったとして、オバマ政権が大変な批判を浴びた事件です。
この時の反省が、オバマ大統領に限定的ながらも軍事行動を決断させた要因としてあったようです。

また、アメリカにとってクルド自治政府は、
イラク国内の勢力としては、アメリカと最も緊密な関係を保っていることで知られ、
この自治政府側から空爆について要請を受けたことも背景にあります。
 
(出川)
そして、大量虐殺の危機から少数派の人々を救わなければならないという
人道的な理由もあったのでしょうね。
ただ、今回の作戦には一定の効果があったという先ほどの話ですが、
今後、この作戦、どう展開してゆくでしょうか。
 
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(高橋)
確かに現在、一時的に過激派の動きは鈍っています。
しかし、今後、過激派側の反撃など、どう展開していくか全く見通せません。
オバマ大統領自身も、
「空爆作戦には、タイムテーブル=予定表はない」、
「数週間では問題が解決しないかもしれない」
と述べていまして、長期戦も覚悟しているようです。
 
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(出川)
私も、この小規模な空爆では、
ごく限られた効果、一時的な時間稼ぎにしかならないと考えます。
過激派の進撃を、少しの間、押しとどめ、
大量虐殺を防ぐことはできるかも知れませんが、
問題の根本的な解決、すなわち、
過激派の動きを封じ込め、治安を安定させ、
領土を回復することには、結びつかないと思います。

それでは、どうすれば良いか。
それは、オバマ大統領も、各国の指導者も強調していることですが、
イラクのすべての宗派と民族が話し合いによって、
「挙国一致」の新しい政権をつくること。
そのもとで、イラクの軍や治安機関を強化し、
領土を武装組織の手から取り戻すしかありません。
 
(高橋)
しかし、その「挙国一致」の政権の姿は、今のところ、まったく見えてきませんね。

(出川)
はい。残念ながらその通りです。
シーア派を優遇し、スンニ派を排除し、今回の危機の原因を作ってきた
マリキ首相の去就が、最大の焦点です。
国の内外から、退陣を求める声が日増しに強まっています。

そのマリキ首相、10日深夜、テレビ演説し、
「私は議会の最大会派の党首であり、あくまで、首相続投を目指す」
と宣言しました。

これに対し、イラクのマスーム大統領は、先ほど、
シーア派の政治家、アバディ氏を、新しい首相候補に指名し、
新しい内閣を作るよう求めました。

マリキ氏が、これに猛反発することは確実で、
新しい政権をめぐって、各政治勢力の対立がいっそう激しくなりそうです。

さて、高橋さん、アメリカの国民は、今回の軍事作戦を支持しているのでしょうか。
 
(高橋)
支持・不支持がはっきりするのは、これからといったところです。
 
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まず、こちらのグラフをご覧ください。
空爆を実施する前の6月に行われた世論調査で、
「もし、アメリカ軍がイラクに空爆を行うとすれば、あなたは賛成ですか?」と言う質問に、
賛成が45%、反対が46%とほぼ半々でした。
この世論が、今後どう変わるかです。

今のところ、『ニューヨーク・タイムズ』など大手の新聞各紙は、
現地のアメリカ人の安全確保と、少数民族などへの人道支援という理由から、
空爆に一定の理解を示しています。
一部には、さらなる人道支援のため、より積極的な行動を求める論調もあります。

一方、オバマ大統領と対立する野党・共和党は、
「空爆に長期的な戦略性が見えない」、
つまり、オバマ大統領の判断は行きあたりばったりだと批判しています。
ただ共和党は、ベイナー下院議長が、
「空爆の承認は適切」と語るように、
空爆そのものを批判することは避けているようです。

いずれにしても、今回のアメリカ軍の空爆、本当の焦点はこれからです。
つまり、過激派の攻撃が再び激しくなった場合、
アメリカは空爆を続けるのか。強化するのか。
それとも、「あくまで限定的だったから」という理由で、もう攻撃を行わないのか。
今後1週間のアメリカ軍の行動が、たいへん注目されます。
 
(出川)
アメリカのケリー国務長官は、きのう、
「新しくどんな政権ができるかが、イラクの安定のカギを握っている。
マリキ首相は、これ以上事態を混乱させないで欲しい」と述べ、
「挙国一致」を実現するための勇気ある決断を強く促しました。

今回の空爆には、イラクの政治を刷新するための時間を確保する狙いも
込められていたのではないか、私は、そう見ています。

新しい首相に就任するのは、先ほど指名を受けたアバディ氏なのか、
それとも、マリキ氏が、法廷闘争や議会での多数派工作を通じ、続投するのか、
イラクの将来を大きく左右する極めて重要な局面を迎えています。
 
(出川展恒 解説委員/高橋弘行 解説委員)
 

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