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時論公論 「強まる日米豪関係~アジア太平洋地域の安全保障」

津屋 尚  解説委員

アジア太平洋地域は、中国の台頭などによって安全保障環境に変化が起きています。
きのう(5日)公表された「防衛白書」は、「この地域の安全保障上の課題や不安定要因がより深刻化している」と強い懸念を示しました。政府は、日米同盟だけでなく、アメリカの同盟国であるオーストラリアとの協力を強化しようとしています。今夜の時論公論は、日・米・豪の関係を中心にアジア太平洋地域の安全保障面の課題について考えます。

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(アジア太平洋のシーレーン)
アジア太平洋地域が重視される大きな理由は、中東からインド洋を経て南シナ海を通過するシーレーン=海上交通路の存在です。世界で海上輸送される原油のおよそ3分の2はこのルートで運ばれているとされ、この地域の安定は、世界経済にも大きな影響を与えます。しかし今、中国の軍事的台頭と海洋進出に加え、これまで圧倒的な力を誇ってきたアメリカの影響力の低下によって、情勢が不安定化する懸念が高まっているのです。
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(中国の軍的台頭)
中国の国防費は公表されているだけで、26年前の実に40倍、過去10年間だけでもおよそ4倍に増えていて、アジアにおけるアメリカとの軍事力の差は急速に縮まってきています。 

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発表されたばかりの今年の「防衛白書」は、中国の海洋進出について、「既存の国際ルールと相容れない独自の主張をし、力を背景にした現状変更の試みは不測の事態を招きかねない」などと強い懸念を示しています。
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最近も、南シナ海で、中国当局の船が、対立するベトナムの船にぶつかってきた映像がいくつも公開されるなど、軍事衝突につながりかねない危険な行為を繰り返しています。こうした行為は、責任ある大国の振る舞いには程遠いと言わざるを得ません。
 
(中国はインド洋へも進出か)
さらに中国は、インド洋への進出も狙っていると、多くの専門家はみています。
「真珠の首飾り」と呼ばれる戦略に基づいて、インド洋のシーレーン沿いにいくつもの港を確保しようとしているとされるほか、ソマリア沖の海賊対策を名目に中国海軍の潜水艦などが活動範囲を徐々に拡大させているといわれ、関係国に警戒感が広がっています。

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(日米豪の関係強化)
こうした中、日本が今、関係強化を図っているのが、日本との防衛協力に積極姿勢を見せていたオーストラリアです。これまで「日米」と「米豪」という2つの同盟関係が、別々に機能してきましたが、アメリカの同盟国同士が結びつくことで、「日・米・豪」という強固な三国間協力の枠組みができようとしています。アメリカが国防費の大幅な削減に直面している今、地域や任務を分担するなどして事態に対処する必要があるという共通認識があるようです。

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(豪州の地政学的重要性)
オーストラリアは太平洋とインド洋の両方に面し、南シナ海にも近いという地政学的に重要な位置にあります。

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こうした「地の利」に着目したアメリカは、アジア重視の「リバランス政策」の一環として、オーストラリアに展開させるアメリカ軍の兵力を増やそうとしていて、オーストラリア側もこれに協力しています。北部のダーウィンとその周辺には、すでに1000人を超える海兵隊が駐留しているほか、アメリカ空軍の展開も増える見込みです。また、アメリカ海軍も、インド洋をにらむ西部のパースを拠点にできないか検討を続けているといわれています。
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(日豪は“特別”な関係)
先月はじめ、安倍総理大臣とアボット首相は、「日本とオーストラリアは“特別”な戦略的パートナー」だとする共同声明を発表しました。日本は今や、オーストラリアをアメリカに次いで重要なパートナーと位置づけ、オーストラリア側は日本を「アジアで最良の友人」と呼んでいます。アボット首相は、中国が東シナ海に防空識別圏を設定した際には、明確にこれを非難して見せ、経済関係の深さから「中国に遠慮しがち」といわれた前の政権との違いをアピールしました。

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(日豪協力の中身)
ただ、日豪は、関係を強化したとはいえ、同盟ではありませんから、できることには限りがあります。自衛隊とオーストラリア軍の間で想定されている主な活動は、大規模災害での救援活動やPKO活動です。また、共同訓練をする場合でも、アメリカ軍とは行う具体的な想定に基づいたより実戦的な戦闘訓練は控え、シナリオのない射撃訓練などにとどめています。
この一方で、両国が取り組み始めたのが、防衛装備品の開発に関する協力です。両国が結んだ協定によって、一定の条件を満たせば、共同開発だけでなく、日本からオーストラリアへの武器の輸出も可能になりました。オーストラリアは、広大な海を抱えていながら、海軍力の要となる潜水艦が老朽化した6隻しかないのは心もとないとして、国際的にも評価の高い日本の「潜水艦」の技術に強い関心を寄せています。

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アボット政権としては、日本の協力で潜水艦を増強できれば、自国にとっても重要なシーレーンが通る南シナ海に投入でき、中国をけん制できるのではないかと考えています。今後半年ほどの間に日本の協力の度合いを見極めた上で、来年春ごろには、
アボット政権で初めてとなる国防戦略を発表することにしています。しかし、潜水艦に関する技術は、通常なら国外には出せない高度な軍事機密です。関係強化を約束したオーストラリアに対してどこまで協力の意思を示せるのか、安倍政権は、この半年の間に難しい判断を迫られることになりそうです。
 
(一体化進む米豪軍に日本はどう関わるのか)
さて、オーストラリアについてもう一つ、指摘しておきたいことがあります。
それは、米豪の同盟関係は、軍事的には日米同盟よりも密接だという点です。
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米豪は、第二次世界大戦から現代の戦争に至るまで、アメリカが戦ったほぼすべての戦争をともに戦ってきた歴史があります。今では、アメリカ軍の中に、オーストラリア軍の部隊が組み込まれるケースも目立ち、軍事面の一体化が進んでいます。例えば、横須賀基地を拠点とするアメリカ海軍第7艦隊には去年、オーストラリア海軍の船が一時的に編入され、アメリカ海軍の一部として活動しました。また、アメリカ太平洋陸軍のナンバー2は今、オーストラリア軍の少将が務めています。
一体化が進むこの2つの軍隊は、情報面でも特別な関係にあって、自衛隊には伝わらないアメリカ軍の情報がオースラリア軍には伝えられるということが日常的に起きています。
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日本の政府関係者の中には、日米豪の関係を深化させることで、今まではえられなかった重要な情報にアクセスできるようになることを期待する向きもあります。しかし、そのためには、例えば、南シナ海での警戒監視などこれまで以上の役割が自衛隊に求められる可能性があります。こうした役割の拡大はどこまでが妥当なのか、慎重な議論と国民への丁寧な説明が必要だということを強調しておきたいとと思います。
 
(まとめ)
ここまで、中国の海洋進出を念頭に進められている日・米・豪の関係強化を見てきましたが、こうした動きに対して、中国からは強い反発が予想されます。今の中国とはどの国も経済的なつながりが深く、 かつてのソビエトのように完全な封じ込めは現実的ではありません。日米豪の抑止力の存在を示すことで中国が力を背景に国際の秩序を乱す行為は決して容認しないという強いメッセージを送ると同時に、「アジアの責任ある大国」としての役割を果たすよう促していく、そうしたしたたかな外交が、日本など関係国に求められているように思います。

(津屋尚 解説委員)

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