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時論公論 「小保方リーダー 博士学位問題の意味」

中村 幸司  解説委員

STAP細胞の研究をめぐる論文不正の問題では、理化学研究所の小保方晴子研究ユニットリーダーが早稲田大学にいた当時の博士論文にも、問題点が指摘されています。
調査を行った早稲田大学の調査委員会は、博士論文について「妥当性、信ぴょう性は著しく低い」としましたが、博士の学位については「取り消すことはできない」とする報告書をまとめました。
小保方リーダーの学位をどうするか、大学の最終決定はこれからですが、これを取り消せないとした報告書には、博士という学位の信頼にも関わる問題だとして、大学の内外の研究者などから異論や批判の声が上がっています。
小保方リーダーの博士の学位をめぐる、こうした議論をどう考えたらいいのかみてみます。
 
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小保方リーダーが早稲田大学で博士の学位を取ったのは2011年3月です。そのすぐ後に、理化学研究所(理研)の客員研究員になり、今年1月、ネイチャー誌にSTAP細胞の論文が掲載されました。
 
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博士論文は、体の組織にある万能性を持つ細胞を見つけるという研究で、これがのちのSTAP細胞の研究につながります。
 
ネイチャーの論文に不正などが指摘される中で、博士論文についても問題点が指摘されました。
このため、早稲田大学の調査委員会が調査を行い、2014年7月、調査結果を公表しました。
調査報告書によりますと、
▽論文にある実験は実際に行われたと認定しています。
▽しかし、文章の盗用といった著作権の侵害や意味不明な記載、整合性がない箇所など、20か所以上の問題点を指摘しています。
その上で調査委員会は「内容の妥当性、信ぴょう性は著しく低いと言わざるをえない」と結論づけています。
その一方で、博士の学位については「取り消すことはできない」としています。
 
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論文の問題点について、厳しく言及しているにもかかわらず、なぜ取り消すことができないのでしょうか。
その理由として早稲田大学の規則をあげています。
調査報告書によりますと、規則では、学位を取り消すには、
▽不正が行われたこと
▽その不正が学位授与に重大な影響を与えたこと
の2点両方に該当することが必要だとしています。
 
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1点目の「不正」について調査委員会は、著作権侵害などにあたる「6か所の不正」があると認定しました。しかし、これらの不正について「いずれも学位の授与に重大な影響を与えたとは言えない」としました。
これにより要件を満たさず、博士の学位取り消しはできないという判断になりました。
 
この結論には疑問を感じざるを得ません。
不正とされた部分で具体的に見てみます。
これは、NIH・アメリカの国立衛生研究所のホームページの文書と“ほぼ同じ“と指摘された記述の一部です。
 
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オレンジ色の部分は、博士論文とNIHの文章が同じところです。単語が違うのは、3か所だけで、ほとんど「丸写し」のようにみえます。
およそ4500語、論文の第1章のうち、ページ数にして80%が「ほぼ同一」だということです。
 
調査委員会は、これほど広い範囲にわたって記述がほぼ同一であることなどから、不正であるとしましたが、第1章は導入部分であって、第2章以降の研究結果の記載に比べれば重要性はやや劣るなどとしました。その上で、学位授与に重大な影響を与えたとまでは言えないとして、学位取り消しにあたらないとしたのです。
 
しかし、どうでしょうか。研究がもつ意義や背景などを示す第1章は、論文の構成上、重要な部分といえないでしょうか。また、これだけ広い範囲が、ほとんど「丸写し」のような記述があるということがわかっていれば、審査を通らないか、書き直しなどの対応がとられるのが普通ではないでしょうか。
学位授与に与えた影響を「重大とまで言えない」という判断には疑問を感じます。
 
なぜ、この論文に数多くの問題点があるのか。
実は、小保方リーダーは、博士論文を取り違えて提出したと主張しています。「完成版を製本したのではなく、誤って作製初期段階の草稿を製本して提出してしまった」というのです。
博士課程3年間の集大成の論文で、そのようなことが起こるのかと首をかしげたくなりますが、調査委員会は論文を仕上げていく途中で行われたはずの修正が、製本された論文では修正されていなかったことなどを根拠に、初期の草稿だとする主張を「信用できる」として受け入れました。
 
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そして、小保方リーダーは、本来提出しようとしていた「完成版」とする博士論文を調査委員会に提出しています。「完成版」とする論文が2011年2月に行われた審査の直前に作られていたものと確認されれば、小保方リーダーの主張は一定の説得力を持ちます。
調査委員会には「完成版」の論文がデータの形で送られてきました。しかし、このデータは送られてくる1時間前に書き換えられていて、ファイルの更新日は2014年6月24日です。「完成版」がいつ作製されたものなのか、データからは確認ができなかったということです。
 
このような問題のある博士論文をどう取り扱うのか。その影響は、単に小保方リーダーの問題にとどまらない可能性があります。
博士という学位は、国の内外を問わず、大学の教員や研究所に所属する際の条件になることが多く、研究者が研究活動を進める上で大変大きな意味を持ちます。
調査委員会の調査報告書については、早稲田大学の内部だけでなく、外部の研究者などからも異論や批判が上がっている背景には、こうした思いがあるからだと思います。
「日本の博士という学位に対する信頼が損なわれる」「このようなことが認められれば、日本の研究者が海外で活躍する機会が減ってしまうのではないか」という心配の声も聞かれます。
 
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ただ、早稲田大学としての最終決定は総長が行います。鎌田薫 総長は「どういう対応が最善なのか検討していきたい」と話していて、調査委員会の報告書を尊重しながらも、異なる結論になる可能性もあるとしています。
博士という学位は、長い間の研究や審査を経て与えられるものですから、それを取り消すかどうかの判断は慎重に行われなければなりません。同時に、その判断が博士の信頼性に大きく影響する可能性があることも忘れてはいけません。
早稲田大学で、どのような議論が行われ、総長が判断するのか注目されます。
 
さて、こうした論文がなぜ学位の審査を通ったのでしょうか。
調査報告書では、小保方リーダーを指導した研究室の教授に「非常に重い責任」があるほか、大学の学位審査の体制にも運用上の欠陥があると指摘しています。
不正とされた行為について、小保方リーダーは調査委員会に対して「許されるものと思っていた」という趣旨の発言をしているということです。
研究者としての基本を学ぶ重要な時期に、十分教育されていなかったことが、後に書かれたSTAP細胞の研究論文の不正にもつながったとみられます。
 
早稲田大学では、今回の問題をきっかけに、小保方リーダーが所属していた研究科をはじめ、大学全体で過去の博士論文に問題がなかったかどうか、調査が行われています。
調査を進める上で、不正に対しては徹底して調べ、厳しく対処する。こうした姿勢を貫くことが、信頼回復に向けた第一歩だと考えます。
 
(中村幸司 解説委員)

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