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時論公論 「パイロット不足とアジアのLCC」

広瀬 公巳  解説委員

パイロット不足が深刻さを増しています。
低価格を武器に路線を拡大してきた格安航空便・LCCには多くの運休便が生じ、アジアではこれから、20万人近いパイロット不足が生じるものと予想されています。
パイロットはなぜ足りなくなったのか、不足を補うことはできるのか、問題の背景と課題を考えます。
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この夏、格安の運賃で活動の範囲を広げようとしていた多く利用者にとって、LCCの大規模な運休・減便は予想外の出来事だったのではないでしょうか。

中国からの新規参入のLCC「春秋航空日本」もきょうから成田と高松や佐賀を結ぶ便などの運航を始める予定ですが、パイロットの養成に時間がかかるなどとして一部の便については、最初から当面、運休にすることになっています。
なぜ、パイロットが足りなくなっているのか。その背景には、世界と日本固有の二つの問題があります。経済のグローバル化による航空需要の拡大で、2030年には世界で98万人、アジアで23万人パイロットが必要となります。2010年現在で世界には必要数の半分の46万人。
アジアでは今4分の1以下の5万人しかいません。
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一方、こちらは、日本の主要航空会社の機長の年齢構成です。40代を中心とする層にはやがて大量退職の時期が訪れます。
若い年代の副操縦士を確実に機長を育てて行かなければ今の数を維持することもできません。
世界的なパイロット不足がもともと高齢化の問題を抱えていた日本を直撃している形です。
このような状況の中でさらにパイロット不足に拍車をかけているがLCCというビジネスモデルです。

LCCは低価格を実現するため、たとえば従来の旅客機にあったような、機内サービスをなくしたりチケットをインターネットで販売するといったコストカットの経営で事業を拡大してきました。

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パイロットにかかわる部分はこちらです。就航する航空機の機体を一種類に統一。そして短距離の便に特化していることです。エアバスのA320など、今年退役したジャンボジェットの三分の一程度の座席数の機体は軽く、燃費効率がよいためコストを抑えることができます。
しかし小型化、近距離高頻度運航となるとパイロットがより多く必要になるのです。

このような事態が生まれることは予想できなかったのでしょうか。路線や機といったハードの拡大と、それに追い付いていないパイロットや整備士というソフトの育成。双方のズレが生まれた背景にあるのが航空産業の自由化の波です。もともと旅客機は発着枠や、運賃、企業の参入などに厳しい規制がありました。
しかし、アメリカでの航空の規制緩和で格安な運賃の路線が拡大。そしてこれを追う形でヨーロッパでも航空規制が緩和されていきました。
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こうして旅客機は一部の人が使う「特別な乗り物」から。「庶民の足」に変わっていったのです。
これが「空の自由化」です。

今のアジアの空の自由化の流れはこの延長上にあります。広い地域に新興国がひしめくアジアでは、道路や鉄道のインフラがまだ進んでおらず、人の移動が航空便、しかも安いフライトに集中しています。東南アジアでは、全体の輸送量に占めるLCCの割合が50パーセントを超えました。この10年間に10倍以上という爆発的な拡大です。

そのアジアでのLCC拡大の中心的存在として事業を拡大してきたエアアジアは先日、日本の楽天などからの出資を受けて「エアアジア・ジャパン」を。設立する計画を明らかにしました。

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(トニー・フェルナンデス エアアジアCEO)
エアアジアのCEOは日本市場で「低価格のサービス」を拡大することに強い意欲を見せていました。従来の航空大手のサービスか、LCCのビジネスモデルか。選択は利用者の判断にゆだねられています。
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しかし、大切なのは、どちらもパイロットは必要だということです。パイロットの不足が安全に影響を及ぼすようなことは決してあってはなりません。

こちらは2007年に100人以上の乗客乗員が死亡したインドネシアのLCCアダム航空の事故です。パイロットが判断を誤り操縦桿を不必要に引き続けたために墜落。

インドネシア政府は、緊急事態に対応するパイロットの訓練を怠っていたなどとする調査報告書を発表。コストを抑えるために安全性を無視した経営が明らかになり会社は倒産しました。
日本ではことし4月にLCCの重大なトラブルが起きています。那覇空港に着陸しようと降下した機体が海面に異常接近し警報装置が作動する重大インシデントが起きています。機長はアルゼンチン人でした。管制塔との間でどのような交信が行われていたのかなど、当時の状況について詳しいことはまだ確認されていません。

パイロットは、自らが操縦もするフライトの最高責任者です。
安全の確保にもっとも必要なのは信頼できるパイロットの育成ですがその養成は一朝一夕で行えるものではありません。まず小型機操縦に必要な2年程度の基礎訓練。
さらに機体の種類に応じた航空会社での実務的な訓練。そして副操縦士として7年以上の経験を経てはじめてエアラインの機長。つまり10年以上をかけて一人前になる技能です。
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また訓練にかかる費用も一人当たり最低でも数千万円と高額です。
軍に多くのパイロットを抱える欧米と異なり、日本ではパイロットの総数が少ないために人材の確保が難しい状況です。

ではどのようにパイロットを確保していけばよいのでしょうか。定員が70人程度という航空大学の採用枠を拡大できないのか。
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航空会社が独自に行ってきた自社養成は厳しい経営を背景に年々減り続けていますので、40歳前後で現役を退く自衛隊パイロットの転職を容易にしたり、64歳の定年を延長するために健康管理や検査の仕組みをつくっていくことは可能か。また私立大学など養成の方法や機関に幅をもたせること、そして有能な外国人パイロットをうまく活用していくことなどを検討していかなければなりません。

ピーチ、バニラ、ジェットスターの3社ときょう運航が始まる春秋航空日本に、エアアジア・ジャパンが加わろうとしている国内のLCC。
そのLCCと大手にはさまれ経営計画が揺れるスカイマークの問題は、航空業界の厳しい競争の実態を示す形となっています。海外から乗り入れているエアラインも増え航空界はまさに群雄割拠の大きな変化の中にあります。燃料費の高止まりによる厳しい経営の中で、パイロットは慢性的な不足が続く見込みで、人材の獲得競争や引き抜き合戦が内外で激化することが懸念されます。

旅客機が「特別な乗り物」から「庶民の足」にかわっていくとしても、それは優秀なパイロットが十分にいることが大前提です。
安全運航ための長期的な視野にたった対策が必要であることを航空関係者は、今一度、確認しておかなければなりません。 
(広瀬公巳 解説委員)

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