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時論公論 「ガザ地区 歯止めなき悲劇」

出川 展恒  解説委員

■パレスチナ暫定自治区のガザ地区を舞台に、
イスラエル軍とイスラム組織「ハマス」との間で続く戦闘は、
双方の犠牲者が急増し、歯止めがかからなくなっています。

イスラエル軍は、ガザ地区を、空と地上から容赦なく攻撃し、
これまでに、パレスチナ人500人以上が犠牲になりました。

一方、ハマスによる攻撃で、イスラエルの市民2人が犠牲になったほか、
イスラエル軍の兵士18人が死亡しました。

双方とも、攻撃の手を緩めるつもりはなく、
このままでは、パレスチナ人1300人以上が犠牲になった
5年前の軍事衝突を上回る悲劇になる恐れもあります。
 
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■戦闘がこれほどまでエスカレートしてしまったのは、
いったいなぜでしょうか。
イスラエルとパレスチナの和平が挫折し、敵対的な空気が広がったこと。
そして、イスラエルとハマスを説得し、
停戦に導ける調停役がいないことが最大の問題です。
 
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■ハマスは、イスラエルの占領に抵抗する武装組織として、
27年前、ガザ地区に生まれました。
エジプトの「ムスリム同胞団」の流れをくむイスラム組織です。
パレスチナ難民の暮らしを支える福祉活動で支持を拡げ、
8年前の選挙で勝利し、ガザ地区を実質的に支配してきました。
アッバス議長率いるパレスチナ暫定自治政府とは激しく対立し、
パレスチナの分裂状態が続きました。
今年に入って、アッバス議長と和解し、統一内閣をつくりましたが、
イスラエルの生存権を認めず、
武装闘争を続ける姿勢を変えていません。
 
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■一連の戦闘のきっかけは、先月、ヨルダン川西岸地区で、
イスラエルの3人の若者が誘拐され、殺害された事件です。
イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスの犯行と断定し、
メンバーを大量に逮捕しました。

これに対し、ハマスが、ガザ地区からイスラエルに多数のロケット弾を撃ち込み、
イスラエルは、激しい空爆で応戦しました。
 
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■ここで、エジプトが停戦案を示しました。
▼イスラエルとハマスの双方が、「すべての攻撃を停止し」、
▼その後、双方が、「長期的な停戦」に向けた協議を行うというものです。
 
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イスラエルは、停戦案を受け入れましたが、
ハマスは拒否し、ロケット弾攻撃を続けました。
このため、イスラエルは、ガザ地区への地上作戦に踏み切りました。
 
■ネタニヤフ首相は、この際、
ハマスの攻撃能力を徹底的に破壊しておきたいと考えているようです。
ハマスが、ガザ地区とイスラエルの境界線の周辺に建設した地下トンネルと、
ロケット弾の発射施設を壊滅させると宣言しています。

地下トンネルは、ハマスが戦闘員をイスラエルに侵入させたり、
武器を隠したりする目的で作られたもので、数十本あるとされます。

ロケット弾は、以前のものより、射程が大幅に伸び、
イスラエルの領土の3分の2に達するようになっています。

イスラエルは、「鉄のドーム」と呼ばれる、ハイテク防御システムを配備し、
ロケット弾を空中で迎撃・破壊し、被害を最小限に抑えています。
 
■イスラエル軍の攻撃は苛烈を極め、パレスチナ人の犠牲者の多くは、
ハマスとは関係のない一般市民で、子どもがおよそ100人です。
イスラエル政府は、
ハマスのロケット弾から国民を守る自衛権の行使だと主張していますが、
国際社会からは、「行き過ぎた武力行使」だと、強い非難の声があがっています。
 
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国連のパン・ギムン事務総長は、20日、
「この残虐な行為を強く非難する。
イスラエルは、市民の犠牲が出ないよう、最大限自制しなければならない」
と述べました。
 
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■一方のハマスも、エジプトの停戦案を拒み、ロケット弾攻撃を続け、
パレスチナの一般市民を「人間の盾」のように扱っているとして、
厳しく批判されています。

ハマスとしては、これだけ多くの犠牲者が出た以上、
具体的な戦果を挙げずに、停戦には応じられないと考えているようです。
拘束されたメンバーの釈放と、ガザ地区の経済封鎖の解除を、執拗に要求しています。
 
■国連のパン事務総長やアメリカのケリー国務長官が、
イスラエルとパレスチナ、中東諸国への訪問を始め、調停に乗りだしましたが、
事態打開の見通しは立っていません。
最大の原因は、調停役の不在、
とくにハマスを直接説得し、抑え込むプレーヤーがいないことです。
 
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▼2年前、ガザ地区で起きた同様の軍事衝突では、
エジプトの調停が実を結び、停戦が実現しました。
当時、エジプトの大統領は、「ムスリム同胞団」出身のモルシ氏で、
同じイスラム組織のハマスに対し、強い影響力がありました。
ところが1年前の政変で、モルシ氏は大統領の座を追われ、
軍出身のシシ大統領の政権となりました。
シシ大統領は、ムスリム同胞団を徹底的に排除し、ハマスとも敵対関係にあり、
停戦案の受け入れを直接働きかけることができません。

▼また、これまで中東和平で、重要な仲介役を果たしてきたアメリカは、
和平交渉が決裂したことで、影響力が著しく低下しました。
同盟国イスラエルが主張する自衛権を容認する一方、
ハマスを「テロ組織」とみなし、直接対話をする意思はありません。

▼そして、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長も、
ようやくハマスと和解し、統一内閣を作ったものの、
ハマスの行動を全くコントロールできない状態です。
 
■これまで、各当事者が、ハマスとの対話を断ってきたこと、
プレーヤーとして扱って来なかったことが、
停戦の大きな障害となっているのです。
事態打開の道はあるのでしょうか。

▼エジプトが示した「停戦案」、すなわち、
「イスラエルとハマスの双方が、すべての攻撃を停止し、
そのうえで、長期的な停戦に向け話し合いを行う」という案が、
依然として、重要な足がかりとなると考えられます。
 
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エジプトの仲介がうまく行かない場合、
ペルシャ湾岸の国、カタールの役割が注目されます。
カタールは、ハマスの最高指導者マシャル氏を受け入れるなど、
ハマスに支援を与えており、
関係国との対話の仲介役となる可能性があるのです。

実は、ハマスは、アラブの政変の影響で、それまで後ろ盾となっていた
シリア、イラン、エジプトなどとの関係が著しく悪化しました。
それだけに、カタールの動きが焦点となっており、
国連のパン事務総長も、今回の中東歴訪で最初にカタールを訪問しました。

▼次に、停戦を維持するしくみをつくることが不可欠です。
たとえば、国際部隊を現地に派遣し、停戦を監視しなければ、
すぐに壊れてしまうでしょう。

▼そして、今、何よりも重要なのは、
ガザ地区で暮らす180万の住民の命を守ることです。
すでに8万人以上が住む家を追われ、
病院はどこも、けが人で一杯の状態で、医薬品も底をついています。
長い間、厳しい経済封鎖に置かれてきたガザ地区は、
深刻な「人道危機」に陥っており、
必要な食料、燃料、医薬品をできるだけ早く運びこまなければ、
非常に多くの犠牲者が出てしまいます。
けが人が、外国で治療を受けられるようにすることも緊急の課題です。
 
■そして、本質的な問題は、
中東和平交渉をできるだけ早く復活させ、パレスチナ問題を解決に導くことです。
長年にわたるイスラエルの占領と、
「巨大な監獄」とも呼ばれてきたガザ地区の経済封鎖に、終止符を打たない限り、
このような悲劇が、今後も繰り返し起きることは避けられません。
すべての当事者が、一般市民の犠牲に真剣に向き合い、
暴力の連鎖を断ち切るよう、勇気ある一歩を踏み出して欲しい、
そう願わずにはいられません。
 
(出川展恒 解説委員)

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