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時論公論 「動くか、安倍対ロシア外交」

石川 一洋 解説委員 / 岩田 明子  解説委員

安倍総理が自らの最大の外交課題の一つと考えているのが、実は日ロ関係の打開と北方領土問題の解決です。しかしウクライナをめぐる米ロの厳しい対立の中で、対ロシア外交は安倍政権にとって、日ロ関係を強化し日本の戦略的立場を強化することと価値観を共有するアメリカとの協調という二つの柱をどのように両立させるか、まさに日本外交の試金石となっています。きょうはロシア担当の私と安倍外交を取材してきた政治担当の岩田委員とともに、安倍対ロシア外交について考えてみます。

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石川)岩田さん、ウクライナ東部では親ロシア派との戦闘が続き、アメリカはロシアを厳しく非難しています。米ロ関係がこれほど厳しい中で安倍総理は、本当にこの秋のプーチン大統領訪日は可能だと考えていますか?

岩田)安倍総理はプーチン大統領の秋の訪日を絶対実現させると、その意欲は全く変わっていません。
 
石川)日ロ関係とウクライナ情勢は大いに関連しています。そのウクライナを今週岸田外相が訪問します。日本はウクライナ情勢安定化に向けてどのような働きかけをしていますか。

岩田)岸田外相は、ウクライナの安定化に向けた積極的な経済支援を表明する見通しです。同時にウクライナにもロシアとの対話を促し、国際社会の中での仲介役として役割を果たしたい考えです。実は日本は様々なルートでロシア側と水面下で接触を続けています。
ロシア側には、「日ロ関係を進めたい。そのためにもウクライナ情勢の安定化が必要だ」という安倍総理の真意を大統領に伝えています。ウクライナの安定化を進め、大統領訪日につなげたい考えです。
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石川)プーチン大統領は安部対ロシア外交の独自性を見極めているでしょう。さて、日本、アメリカ、ロシア、日ロ関係には日米関係が絡み合い、そして米ロ関係の状況も直接影響します。これから安部対ロシア外交の中で日本、ロシア、アメリカの思惑がどう関係するのか見ていきます。ではそもそも安倍総理はなぜ日ロ関係の打開に執念を持っているのですか。
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岩田)一つは政治家としての強い思いがあります。父・安倍晋太郎氏の存在も大きいと思います。この写真をご覧ください。
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石川)これは91年4月ゴルバチョフ大統領訪日した際、安倍晋太郎元外相との会談ですね。

岩田)安倍総理は、去年、モスクワでプーチン大統領と会談した際、病身を押して日ソ関係の打開に尽力した父の活動を紹介し、その思いを引き継いでいることをプーチン大統領に伝えました。
 
石川)プーチン大統領は人情肌ですから心を動かしたかもしれません。ただ思いだけでは動きません。

岩田)国際社会のパワーバランスの変化も影響しています。安倍総理の「地球儀を俯瞰する外交」にとってロシアとの関係は重要です。
アメリカが世界の警察だった時代は違い、今は日米同盟だけに頼っていても、国際社会の中で生き残れなくなっていると安部総理は考えています。
複雑化する国際情勢の中で、良好な日ロ関係が、安倍政権にとって世界各国との外交交渉の重要なカードとなり得るからです。
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石川)地政学的な観点からの日ロ関係強化が必要という考え方ですね。とくに北東アジアが焦点ですね。

岩田)そうです。北東アジアでは中国とロシアは戦略的パートナー、中国の海洋進出に日米は警戒を強める、米ロは相互に不信感を抱く冷たい関係。しかし友好的な中ロ、日米でさえ利害の対立があります。国際情勢は利害関係が複雑化し、先が読みにくくなっています。平和条約すら締結できていないロシアとも友好関係を築くことで、日本の足場を固めたい、それが中国やアメリカに対するお互いの立場を強め、安全保障上、利益になると安倍総理は考えています。
そしてこの秋のプーチン大統領の日本公式訪問に向けて首脳交渉を重ね、懸案の北方領土問題の打開につなげる、それが安倍総理の戦略です。
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石川)逆にプーチン大統領は、海洋国家日本との関係強化は、中国、アメリカとのバランスを取る意味で重要だと見ているでしょう。

岩田)一方で「法の支配」や「自由と民主主義」といった基本的価値観を共有する国々、中でもアメリカとの関係をあくまでも優先しなければならないという難しさは、常に存在すると思います。
 
石川)日ロ関係のカギを握るのはアメリカです。もともと米ロ関係はすでに冷ややかでしたが、それでもアメリカも日ロ関係強化に反対しなかったし、むしろ中国をけん制する意味もあるとして歓迎していました。
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しかしこの状況を変えたのがウクライナ危機です。アメリカは、クリミアの一方的併合などロシアの行動は国際秩序に対する挑戦として糾弾、G8から事実上追放、重いコストを払わせるとして制裁にも踏み切りました。アメリカからみれば、プーチン大統領との信頼関係に基づく日ロ関係の打開などとんでもないということでしょう。
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岩田)日本は、「力による一方的な現状変更は認めない」というスタンスで、アメリカやEUと一貫して歩調をあわせています。ただ、安倍総理としては、良好な日ロ関係への影響は出来るだけ避けたいというのが本音。
3月、オランダのハーグでオバマ大統領が安倍総理と短時間の会談をした際、「日本は制裁をためらっているのではないか。これは、ロシアとの関係というより、同盟国との関係だ」と迫りました。
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石川) ロシアに対して日米の行動の一体性を示せというわけですね

岩田)また、先月ベルギーで開かれたG7では、ウクライナに関する首脳宣言を出した後、最終日になってオバマ大統領が突然、ウクライナ問題を取り上げ、アメリカが単独で作ったロシア制裁の統一的な基準を提示し、G7で確認したと発表するよう主張しました。
 
石川)G7会合の議題はあらかじめ決まっていますから極めて異例な行動ですね。

岩田)エネルギーなどロシアとの関係の深いフランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相らからは、困惑の声が上がりました。するとオバマ大統領は、G7の後、予定されていたノルマンディー上陸作戦の式典に出席しないとまで言い、アメリカの強硬な立場を主張したのです。司会のメルケル首相から促され、安倍総理が第三者としてその場をおさめ、閉幕したということです。
このようにG7の中でもアメリカ、ヨーロッパと温度差があり、日本も微妙な立場にあることがうかがわされます。
 
石川)アメリカは、ロシアを2,3年の間に経済破綻に追い込むとまで息まき、強硬な姿勢を崩していません。ロシア大統領府筋は「米ロはこれまでも対立してきたが、これほど一方的な主張を押し付けるアメリカは初めてだ」と話しています。出口戦略を探っているヨーロッパ、とくにドイツとフランスはとてもついていけないというところでしょう。
私はアメリカの対ロシア政策の問題点は、ロシア孤立を強硬に進めようとするが、それがたとえば北東アジアの戦略的状況にどのような影響を与えるのか、総合的戦略、ヴィジョンが全く見えない点です。私はヨーロッパと北東アジアでは戦略的状況が大きく異なり、日本がロシアとの関係を強化するのは十分理由があると思っています。アメリカの意向だけを忖度していてはとても日ロは動かせません。

岩田)日本とアメリカという国同士の関係は、たとえば首脳会談の共同声明に「尖閣諸島が日米安保条約の対象となる」と盛り込まれたことに象徴されるように、良好な状態です。
ただ、両国関係を支えるべき政治・事務レベル双方の人間関係が弱くなっているのが心配です。アメリカ側の知日派が少なくなっています。この中で日ロ関係が進めば日米関係に影響することが懸念されます。
実際、日ロ関係の節目で、日米の軋みが生じる場面がありました。たとえば、3月、東京での日ロ投資フォーラムの開催したときにはアメリカが中止を要請、さらにNSCの谷内局長がロシアを訪問した時にも強い不快感が示されました。
 
石川)ロシアをめぐる軋み、まさに日米の信頼関係の強固さが問われています。ただ米ロもしたたかです。先月モスクワで開催された世界石油会議では、アメリカが制裁リストに加えたプーチン大統領の側近とアメリカの石油メジャーの代表が米ロエネルギー協力の重要性を強調する場を目の当たりにしました。日本はしたたかさに欠けているように感じます。
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岩田)確かに安倍総理は強い意志を持って日ロ関係を進めようとしていますが、必ずしもその意向が政府部内で徹底されているとはいえないようです。戦略的な外交を展開していくためには、日米、日ロ、様々な要因を総合的に分析、判断して、政府としての方針を練り上げていけるのかがカギとなりますが、現状ではそれは不十分です。
 
石川)その中で北方領土交渉ですが、プーチン大統領は先月、4島は交渉が対象だと述べ、双方が敗者とならないような解決法、引き分けを探さなければならないと強調しています。ただ2月以降交渉は事実上ストップ、現状は厳しい。ロシア側にはアメリカの反対を押し切って安倍政権が果たして日ロ関係を進めるのか、冷ややかな見方もあり、ロシア外交筋からは年内の訪日は無理だとの声も出ています。

岩田)確かに、北方領土交渉については事務レベル協議では、ロシア外務省の態度は硬いままです。こうなると、プーチン大統領と安倍総理の首脳同士の信頼関係構築と政治判断が益々重要になります。まだ首脳会談でも本音の話は出来ていません。これから本筋の話をしなければならない地点で交渉が止まっています。どのあたりを落としどころとして決着させるのかは、まだ見えていないのが実情です。
 
石川)ただウクライナ危機後欧米との関係が厳しくなる中で、実はロシアからの対日アプローチはむしろ強まっています。私は今こそ経済が政治を動かすと感じています。
プーチン大統領の側近のセーチン・ロスネフチ社長は私に、「日本企業との協力は、優先事項だ」と述べて、様々なプロジェクトを水面下で日本側に提案したことを明らかにしました。側近のセーチン社長が日ロ経済関係の前面に出てきたことは、日ロ関係打開に対するプーチン大統領の本気度を示しています。ロシアにとってエネルギーなど極東シベリアでの日本との協力は単なる経済関係ではなく、ロシアの安全保障を強化する意味を持っています。それは日本にとっても同様です。安全保障での利益の一致をどのように領土交渉につなげるかがポイントです。

岩田)安倍総理も日ロ関係を発展させることで、領土交渉の進展につなげたい考えです。
安倍総理は、延期した岸田外相のロシア訪問を、プーチン大統領訪日に向けた重要なステップと位置づけており、早ければ9月にも実現したい考えです。また、岸田外相には、経済ミッションも同行し、政府投資委員会を実施することになるので、この委員会で、どこまで具体的なプロジェクトを話し合うことができるのかも鍵になります。
経済エネルギーの分野での協力を具体的に進めることで日ロ関係をさらに前に進める狙いです。しかしその一方で緊密な日米関係を維持しながら、外交を展開していかなければなしません。日本をはじめどの国も外交は内政を反映します。
政権基盤の強さもまた外国からは見透かされるでしょう。国益をかけた外交戦が熾烈さを増す中、舵取りはかつてより難しくなっていることは、間違いありません。
 
石川)きょうは安倍対ロシア外交を見てきたが、それは裏返しで日米関係とも密接につながっています。米ロが対立する中でこそ、日ロ外交は安倍外交の力を試す場と言えるでしょう。ロシアを国際協調の場に引き戻しつつ、北東アジアでの日ロ関係を強化する戦略的な外交の構築が望まれます。

(石川 一洋 解説委員 / 岩田 明子解説委員)

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