解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

時論公論 「脱法ドラッグを許さない」

寒川 由美子  解説委員

こんばんは、時論公論です。
脱法ドラッグを使ったことによる事件や事故が相次いでいます。
政府は今週、脱法ドラッグの問題に各省庁をあげて取り組むよう指示しました。規制が追いついていない現状に、対応を迫られた形です。
今夜は脱法ドラッグをなくすため、どうしていったらいいのか、考えます。

j140712_mado.jpg

 

 

 

 

 

 


今週火曜日に(8日)開かれた、薬物乱用対策の関係閣僚会議で、安倍総理大臣は、脱法ドラッグの規制の見直しを検討することや、取り締まりの徹底を指示しました。
j140712_01.jpg

 

 

 

 

 

 

その理由は、脱法ドラッグを吸って車を運転し、事件や事故を起こすケースが後を絶たないからです。
ことし6月には東京・池袋で車が暴走し、8人が死傷したほか、7月に入ってからも東京・北区で車が暴走して2人がけが、おととい(10日)には立川市で車が電柱に激突し運転していた男性が死亡しました。
いずれも、運転者が脱法ドラッグを吸っていたとみられています。
同じような事件や事故は去年1年間で38件にのぼっています。
こうした事態を、政府は「深刻な社会問題」ととらえ、指示を出したのです。
j140712_02.jpg

 

 

 

 

 

 

問題となっている脱法ドラッグとはどんなものか。
乾燥させた植物の葉っぱに、覚せい剤や大麻に似せて人工的に合成された薬物をまぶして作られています。脱法ハーブとも呼ばれています。
j140712_03.jpg

 

 

 

 

 

 

液体や粉末のものもあり、これらを総称して脱法ドラッグといわれています。
販売店は都市部を中心に全国に広がり、厚生労働省の調査では28の都道府県で250店にのぼっています。インターネットでも売られています。
「脱法」ということで、罪の意識を持たずに気軽に手を出す人も多く、若者を中心に急速に広がっています。
しかし、覚せい剤や大麻に似た成分を含むため、幻覚や妄想、意識障害などを引き起こす大変危険なものです。使ううちに、やめられなくなる依存性もあります。呼吸困難で死亡する人もいます。
 
では、なぜそんな危険なものが「違法」ではなく、「脱法」とされているのか。
実は、規制してもすぐにそれをすり抜けて新たなものが登場するという、「いたちごっこ」が続いているからです。
国は、ある化学構造の薬物を含む脱法ドラッグを、規制の対象となる「指定薬物」に指定して取り締まっています。
j140712_04_01.jpg

 

 

 

 

 

 

規制を強化しようと、去年からは、似たような構造の薬物をまとめて規制する「包括指定」という制度を導入しました。
j140712_04_02.jpg

 

 

 

 

 

 

これによって、2年前に68種類だった指定薬物は、一気に1300種類以上に増えました。
また、製造や販売の禁止に加えて、この4月から、購入したり持ったり使ったりすることも禁止されました。違反すると罰則が科されます。
j140712_04_03.jpg

 

 

 

 

 

 

しかし、捜査当局が、販売店で売られている脱法ドラッグを調べたところ、
指定薬物が含まれていたのは、わずか5%で、大半の脱法ドラッグは
規制が及ばないものだったといいます。

実は、脱法ドラッグの原料となる薬物は、中国など海外の化学工場で製造されていると捜査当局はみています。
それが国内に持ち込まれて、脱法ドラッグが作られているといいます。
脱法ドラッグは世界各国で出回っていますが、比較的高い値段で取引されている日本が、海外から狙い撃ちにされているという指摘もあります。
日本が規制をすると、それを免れる薬物が次々に作られ、いたちごっこが続いているのです。
j140712_05.jpg

 

 

 

 

 

 


では、脱法ドラッグをなくすには、どうしていったらいいのでしょうか。

まずは、今の制度の枠組みでできること。
そのひとつは、いかに効果的に規制するかです。
いまの規制の方法は、まず、脱法ドラッグに含まれる薬物の化学構造や毒性を調べます。これに1~2ヶ月かかることもあります。
そして2~3ヶ月おきに開かれる有識者による審議会(薬事・食品衛生審議会)にかけます。ここで、指定薬物にすると判断されれば、国民からの意見、パブリックコメントを募集します。その上で、指定薬物にするのですが、効力を持つのはさらに30日後です。
その結果、規制までに半年以上かかることもあり、規制したときには新たなものが登場しているという「いたちごっこ」を許しているのです。
j140712_06_01.jpg

 

 

 

 

 

 


そこで、このサイクルを短く出来ないか。
実は、法律では、「緊急の場合には審議会もパブリックコメントも省略できる」とされています。また指定してから施行までの期間に特に決まりはありません。
これらをすべて省略すれば、短期間での規制も可能です。
厚生労働省は、いままさに、期間短縮を検討していますが、現状を待ったなしの事態ととらえ、すみやかな規制につなげてほしいと思います。
j140712_06_02.jpg

 

 

 

 

 

 


もうひとつは、取り締まりの強化についてです。

警察と厚生労働省の麻薬取締部は、連携を強化して、購入した人や使用した人の捜査から販売店へと摘発を進め、さらに製造元の取り締まりや輸入ルートの解明につなげたいとしています。税関などとも協力し、大もとの取り締まりにつなげてほしいと思います。

薬物の種類をすみやかに特定する方法の開発も必要です。
規制されている薬物かどうか分からなければ、摘発できないからです。
脱法ドラッグは種類が多く、覚せい剤や大麻のように簡単に特定できる器材が
開発されていません。
警察などは、現場に持ち運びが出来る、簡易型の器材の開発を進めています。
実用化できれば、現行犯逮捕などに役立つとされています。

規制される前に、別の方法で取り締まることも考えられます。
体内に取り入れると体や神経に影響があるものは「医薬品」とされ、承認されていない医薬品を販売することは禁止されています。
そこで脱法ドラッグを「承認されていない医薬品」ととらえ、販売店を取り締まるのです。
j140712_07.jpg

 

 

 

 

 

 


ただ、いずれにせよ、今の制度の枠組みでできる規制や取り締まりは、個別の薬物をターゲットにしたもので、次々に別の種類が登場する脱法ドラッグに対しては限界があります。
ここは、発想を転換して制度を抜本的にみなおし、新たな枠組みを作る必要があるのではないでしょうか。
 
例えば、種類は違っても、幻覚や興奮作用など、似たような作用を引き起こす薬物をすべて「有害ドラッグ」などとして、まとめて取り締まる法律を作る、といったことです。

これには先例もあります。
▼アメリカやカナダでは、似たような作用を体に及ぼすのであれば、ひとまず規制し、摘発する制度がとられています。薬物の危険度については、裁判できちんと審理するのです。
また、
▼イギリスでは、早い段階でとりあえず製造や販売を禁止する「一時的禁止」という制度が導入されています。仮処分のようなものです。それから毒性などを調べて、危険だと分かれば改めて規制するのです。
j140712_08.jpg

 

 

 

 

 

 

新たな制度や法律を作るには、様々な問題があり、時間もかかるとは思いますが、今の制度に限界がある以上、早急に手を着け、その一歩を踏み出すことが必要だと思います。
 
さて、規制や取り締まりも大事ですが、社会として脱法ドラッグを許さない風潮を作ること、これが最も重要かもしれません。

池袋の事件があった東京・豊島区では、住民など1000人が参加して、脱法ドラッグ撲滅を訴える集会が開かれました。区は、不動産業者と連携して販売店を閉め出すといった、新たな条例づくりも検討しています。
この問題を、まちづくりとして、とらえていこうというのです。

脱法ドラッグは、20代の若者を中心に、高校生などにも広がってきています。
脱法ドラッグの恐ろしさを認識し、絶対に手を出さないことはもちろん、子どもや若者に、危険性を教えるのも大人の役割です。

わたしたち一人一人がこの問題を自分たちの問題としてとらえ、何が出来るのか考えていくことが、脱法ドラッグを許さない社会につながると思います。


(寒川 由美子 解説委員)

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2016年04月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
RSS