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時論公論 「動き始めた東京五輪の行方」

刈屋 富士雄  解説委員

2020年の東京オリンピック・パラリンピックにむけて、ようやく大会の行方を左右しそうな大きな
二つの動きがありました。
大会開催まで丸6年、プレ大会の開催を考えると準備期間は事実上5年しかありません。早くも準備の遅れがささやかれる中で、2020年の大会後も、未来への遺産、最大のレガシーになるかもしれないこの二つの動きについて今夜は考えます。
 
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二つの動きというのは、まず一つ目は、大会の開催計画の全面的な見直しが、IOC国際オリンピック委員会の調整委員会に了承されたこと。
 
そしてもう一つは、2020年の組織委員会と、全国552の大学との間で、大学連携協定の締結式が行われたことです。「大学連携協定」・・なんじゃそれはと思われるかもしれませんが、日本のスポーツを劇的に変えるかもしれない凄い可能性を持ったプロジェクトと言えます。
 
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さてまず、開催計画の見直しですが、これを了承したのは、IOCの調整委員会です。その調整委員会との第一回の会議で、日本の組織委員会がいきなり開催計画の全面的な見直しの説明を行いました。
 
日本の組織員会の見直しの理由は、環境問題、建設コストの高騰、運営上の交通問題そして、
施設の大会後の運営問題です。
 
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環境問題は、日本野鳥の会などが環境破壊と指摘してきた葛西臨海公園のカヌー会場のことです。
建設コストの高騰は、招致活動の時、施設の整備費はおよそ4600億円と試算していましたが、
人件費や資材費の高騰で、現在の試算では7000億円を超え、さらに膨らみそうです。
運営上の交通問題では、臨海部の橋の部分の交通渋滞が深刻になりそうだという予測です。
さらに施設の大会後の利用の採算性を試算したところ、運営できない施設があるという結果が出ました。
 
「お金はすでに十分にある。大都市のど真ん中で、コンパクトでダイナミックな大会を開き、未来都市のスポーツの祭典を世界に見せる。」と豪語して招致を勝ち取った東京が、いきなり計画を考えさせてくれでは、なんとなく情けない印象がありますが、実はどのオリンピックでも良くある話で、計画と現実のギャップを調整していくのがまさに調整委員会ということになります。
ですからIOCの調整委員会も特に不快感を見せるでもなく、当然のように見直しの説明を受けました。
 
しかし、見直しは了承したものの、IOCからの要求は実に明確でした。
「大きな見直しは速やかに一回だけ。理念を崩さないこと。そして復興した姿を見せてほしい。」ということでした。
 
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速やかにというのは、第2回のIOC調整委員会との会議は11月、そして最終的な実施計画の提出は来年2月です。それまでに見直し計画を完成させなくてはいけませんが、課題を克服し、都民の理解を得て、競技団体が納得し、その上で、コンパクトで競技者第一という大会の理念を崩さない計画が、はたして立てられるのか。これは容易なことではありません。
さらにただでさえ人手不足が指摘され、復興に当たる人手を取られるのではと建設関係者が心配する中で、復興した東北の姿をどう見せるかです。
 
スポーツの力で復興した姿を期待するIOCは、聖火リレーや球技の予選などの会場として復活した東北の姿を期待しているようですが、その期待にこたえる計画を立てるためにも、一段も二段も計画作成のスピードアップが必要です。
 
さてもう一つの大きな動き、2020年大会の組織委員会と全国の大学との連携協定についてです。日本のスポーツ界を劇的に変える凄い可能性という表現が決して大げさではないということを説明します。
 
今回、連携協定を締結した大学は、全国にある大学のほぼ半数にあたる552校で、全都道府県を網羅しています。今後はさらにその数は増えると予想されています。
 
これによって、まず2020年大会の運営上、ボランティアの確保の目処が立ちました。実際にボランティアとして参加することはもちろん、そのリーダーとしての役目や語学ボランティアの協力など即戦力になりそうです。
 
そして大学の施設が、国内の競技団体はもちろん、来日する各国の選手団の練習拠点になります。大会直前だけではなく、大会までの6年間もキャンプ地として受け入れ、しかも自治体やスポーツクラブ、地域住民との交流も図れば、スポーツの拠点として機能できます。
さらに大学でのオリンピック教育の実施によってオリンピック精神の普及にも貢献しそうです。オリンピック関連イベントを実施すれば広報拠点としても重要な役割を果たせそうです。

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この大学との連携協定は、IOCの調整委員会も強い関心を示しました。それは、長野オリンピックのレガシー・遺産としてIOCが高く評価している「一校一国運動」の拡大版としての期待です。
 
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「一校一国運動」は、長野市内の小中学校が、それぞれ担当する国や地域を決め、研究し、応援し、さらに交流を深めました。オリンピック精神の若い世代への普及と国際交流に大きな成果を上げた画期的な方法として、その後のオリンピックにも継承されました。今年2月のソチオリンピックでも行われ、担当した学校と日本の関係者の交流も報告されました。
 
しかし、長野オリンピックの時には、長野での成果はあったものの日本全国への広がりというところまではいきませんでした。そこで今回は、全国規模に展開し、一校一国にとどまらず、全国の大学が団結してオリンピック・パラリンピックを支えようというものです。
 
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ではこれが大会を支えるだけではなく、なぜ日本のスポーツ環境を劇的に変える可能性を持っているかというと、大会が終わった後、全都道府県を網羅する大学が、各地域のスポーツの拠点として残るからです。
地域スポーツの拠点として機能するようになれば、これまで、学校体育と企業スポーツにおんぶにだっこだった日本のスポーツ環境に変化が期待できます。
さらに国際交流の中でオリンピック精神を学んだ若者たちの意識が変化し、全国にスポーツの指導者として散らばれば、体罰や暴力、いじめなどスポーツ界から噴き出している問題の解決に結びつくことも期待されます。
これまでの日本のスポーツの体質は、大学のスポーツの体質がそのまま全国にばらまかれた様なものだと長年指摘されてきたからです。ばらまく前の大本の体質が変わればスポーツ界自体の体質は変化し、学閥で固まった競技団体の体質もやがて刷新されそうです。
もちろんこれはまだ、机上の空論に近く、実際動き出せば、予算も必要になり、はたして学生たちがどこまで積極的にかかわってくるかは未知数です。
全く機能しない可能性もありますが、改革や体質の改善を求められながら、この半世紀、そのきっかけすらつかめなかった日本のスポーツ界が、大きく変わる原動力に是非なって欲しいと思います。
 
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この半世紀日本のスポーツ界の中で大きくその姿を変えたのは唯一サッカー界です。
今回、大学連携協定を推進した中心人物の川淵三郎さんは、そのサッカーのJリーグ発足の功労者の一人として知られていますが、その川淵さんは、前回の東京オリンピックの開催が決まった時、早稲田大学サッカー部の学生でした。
当時日本にはサッカーのプロリーグもなく、弱く、人気もなく、ワールドカップは夢のまた夢、別世界の話でした。その川淵さんに東京オリンピックは大きな夢を与えたそうです。
大学連携協定の締結式に集まった全国の大学関係者を前にこう挨拶しました。
「前回の東京オリンピックの時、日本のサッカーもいつか人気のあるプロリーグを作って、ワールドカップの常連になれたらいいなあって、私たちは夢を持ちました。同じ世代の同じ夢を持った人たちと、30年後にJリーグを立ち上げ、50年後の今、5大会連続でワールドカップに出場することが出来きました。あの時の夢がかなったのです。」
 
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今回2020年、日本の若者はどんな夢を持つんでしょうか。
それが2020年東京オリンピック・パラリンピックの最大のレガシー・財産になって欲しいと思います。
 
2020年の東京大会が終わった時、施設面のスポーツ環境と人々の意識、特に若者の意識が変われば、東京大会は成功したと世界に胸を張れると思います。
 
(刈屋 富士雄 解説委員)

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