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時論公論 「憲法解釈変更 その先は?」

島田 敏男  解説委員

こんばんは、時論公論です。
安倍内閣は、歴代の内閣が憲法上認められないとしてきた集団的自衛権の行使を、一定の条件を満たした場合に限ってできるようにする憲法解釈の変更を閣議決定しました。
政府・与党が練り上げた「限定容認」というのは、つまりどういうことなのか。そして、閣議決定の先にはどういう道筋が見えるのか。今夜は、こうした点を掘り下げます。

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▼今回の閣議決定を漫画に描けば、こんな図になります。
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これまでも憲法のもとで行使できるとしてきた個別的自衛権の峰、その隣の集団的自衛権の峰に、安倍総理が限定容認ながら行使可能の旗を初めて立てたといった所です。

第1次内閣の時から取り組んできた集団的自衛権の憲法解釈変更に漕ぎつけたことで、「安倍総理は歴史に名を残した」と評価する声が自民党内にはあります。

安倍総理としては、この問題に慎重だった公明党の理解を得て旗を立てることが最優先で、そのためには限定条件が付いた解釈変更でも構わないという気持ちが強かったようです。

対する野党側ですが、民主党や共産党などが「解釈改憲は許されない」と反発する一方で、日本維新の会やみんなの党など憲法解釈の変更に反対しない勢力も存在しています。

野党の足並みが揃わない状況が、政府・与党の動きを後押しした面も否定できません。
 
▼では、今回の集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更というのは、何をどう変えたということなのでしょう。

鍵になるのは「必要最小限度の武力行使」という言葉で、単純化して図で示すとこうです。
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◇従来の政府の解釈では、日本が他の国から攻撃を受けた時には、国家の正当防衛として個別的自衛権に基づく武力の行使を認めてきましたが、密接な関係の他国が攻撃を受けた時に、その攻撃を排除するための集団的自衛権にあたる武力の行使は禁止してきました。
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◇これに対し新たに閣議決定された解釈は、武力行使を可能にする要件を見直すことで、この必要最小限度の武力行使の範囲、画面の黄色の枠を集団的自衛権の一部にまで広げたわけです。
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▼従来は武力行使の3要件の柱となる第1要件を「わが国に対し急迫不正の侵害があり、それによって国民の生命、自由などの権利が根底から覆される事態に対処するために、やむを得ない場合に武力の行使が可能」としてきました。
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今回の決定では、この第1要件を、「わが国に対する場合のみならず、密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由などの権利が根底から覆される明白な危険がある場合に武力の行使が可能」としました。
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つまりアメリカのような同盟国が攻撃を受けた場合に、そのまま放置すると日本の安全が侵されることが明らかな事態に限れば、集団的自衛権の行使は憲法上許されるとしたわけです。
 
▼安倍総理は、なぜ、こうした憲法解釈の変更を必要としたのでしょう。

安倍総理の周辺は「今直ちに集団的自衛権の行使が必要だというリアリティーはないが、今後に向けて日米関係強化に欠かせない外交カードになっているからだ」と説明します。

しかし、他に手段がないという切迫した状況が起きていない中で、半世紀以上にわたって定着した考え方を大きく変更するのを直ちに理解しろと国民に言っても無理があります。

具体的に何をどうするために憲法解釈の変更に踏み切ったのか、国民が適当か否かの判断をするのに必要な情報を、政府・与党は責任を持って明らかにすべきです。
 
▼今回の閣議決定に至る自民・公明の与党協議の中で、政府は安倍総理が必要性を強く訴える日本人を輸送するアメリカ艦船の防護など8つの事例を示しました。

このうち4つがアメリカの艦船を自衛隊が護るという事例ですが、事態の推移によって規模も内容も様々に変化・拡大するのが安全保障分野の常識です。
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日米軍事筋の間では、アメリカが国防費の削減を進める中で、ことし中を目標にまとめる新しい日米ガイドライン・防衛協力の指針では、朝鮮半島有事の際に日米がどこまで踏み込んだ共同行動をとることができるかが焦点になると言われています。
 
▼こちらをご覧ください。万一朝鮮半島有事の事態になると、アメリカ軍は膨大な戦力と、それを支える大量の補給物資を送り込むことが想定されます。
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そうした際にアメリカ側が特に強く求めているのは、自衛隊が艦隊を組んで護衛にあたり、上空では早期警戒機や対潜哨戒機を飛ばして艦隊を護る姿です。

アメリカ単独では手が回らない部分を日本に補って欲しいというのが現実的な求めです。

従来の憲法解釈に基づく現在の周辺事態法は、自衛隊の行動をアメリカ軍への物資補給などの後方支援に限っていて、武力行使に繋がる艦隊護衛は認めていません。

今回の決定は、こうした日米共同行動を可能にするための法整備の前提でして、これを認めるかどうかは、政府が提出する法案が国会で通るか通らないかで決まります。
 
▼さて、ここまで集団的自衛権について見てきましたが、今回の憲法解釈の変更の中には、国連の安全保障理事会の決定に基づく集団安全保障に関わる内容もあります。

集団安全保障は湾岸戦争の多国籍軍をきっかけに議論が深まり、自衛隊の活動が外国軍の武力行使と一体化するかどうかが憲法上許されるかどうかの判断基準になってきました。

◇従来の解釈では、外国軍隊に物資を補給したりする後方支援は「後方地域」や「非戦闘地域」ならば白で可能としてきましたが、それを外れると灰色で困難としてきました。

◇それが今回の新たな解釈では、後方地域や非戦闘地域という考え方をやめて、「他国の軍隊が現に戦闘を行っている現場でない場所」であれば後方支援活動は可能としています。
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現に戦闘を行っているかどうかは見れば分かるという単純化に踏み切り、灰色の部分を減らして活動可能な白の部分を増やしたことになります。

こうした活動可能な範囲の拡張は、安倍総理の掲げる「積極的平和主義」の具体化だと政府関係者は言いますが、多国籍軍への関わり方の大きな変更です。
 
▼憲法解釈の大きな変更に沿って、政府は関連する法律の改正案を国会に提出します。

主なものだけでも、自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法、PKO協力法など、10本以上の法律の改正法案の提出が検討されています。

こうした法案に、どこまでの活動拡大を盛り込むかは、この夏の間の政府の大きな課題で、その法案を成立させるか、否決するかは国会全体の責任になります。
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▼冒頭にも触れたように、おととしの衆議院選挙以降、野党の中でも自衛隊の活動内容を拡張することに熱心な勢力が増えました。

しかし、国民の多くが、憲法解釈の変更に基づいて日本の安全保障政策を大きく転換することを望んでいるのでしょうか。NHK世論調査でも、国民の賛否は割れています。

秋の臨時国会は久しぶりに安保国会になりそうです。各政党が改めて国民の考えを正確に掬い取り、論戦を通じて日本の針路を探る、重い責任を果たすことが期待されます。

(島田敏男 解説委員)

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