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時論公論 「都議会やじ 幕引きは許されるのか」

西川 龍一  解説委員

東京都議会で質問中の女性議員が複数の不適切なやじを受けた問題は、1人が発言を認めて謝罪したものの、ほかに発言した議員はわからないままで、抗議の声が広がる中、議会の自浄作用は損なわれた形です。海外メディアからも大きな批判が上がったこの問題について考えます。
 
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今回の問題の本質は、言葉の暴力であり、人権侵害であるということです。
問題のやじがあったのは、6月18日に開かれた東京都議会でのことでした。みんなの党の塩村文夏議員が妊娠や出産に悩む女性への支援策について都の取り組みを質した際、「早く結婚した方がいいんじゃないか」などというやじが飛びました。塩村議員は、「自分が産めよ」などというやじもあったとしていて、批判の声が広がりました。都議会に寄せられた抗議や批判は1日で1000件に上ったほか、発言者の特定や厳正な処分を求める「ネット署名」には、9万人以上が賛同しました。
やじを飛ばしたのが自民党の鈴木章浩議員だとわかったのは、5日後の23日のことでした。
 
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なぜ5日もかかったのか。
都議会の構成は、第1党の自民と第2党の公明の議席をあわせると、127議席のうち82。ともに去年の都議会議員選挙で立候補した全員が当選しました。
 
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両党が圧倒的な勢力を占める中、ほかの複数の会派が、やじが聞こえたのは自民党の議席からだったと指摘したのに、都議会自民党は、発言した議員は自分たちの会派かどうかはわからない、やじを聞いた議員もいないなどと説明していました。鈴木議員本人も、「自分は聞こえなかった」とか「やじを飛ばしたのは自分ではない」などと話していました。これに対して、石破幹事長や東京都選出の国会議員などからも都議会の自浄作用を求める発言が相次ぎ、鈴木議員が自分のやじだと認めることになりました。一転して認めることになったのは、外からの批判はもとより、組織の上層部からの意見に抗しきれなかったのではないか。数による緩みが招いた結果という指摘もあります。
 
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鈴木議員は、嘘をついていたことになり、それだけでも議員辞職に値するとの批判もあります。責任を取るとして自民党の会派を離脱したものの、「初心に返りたい」として議員を辞めるつもりはないと繰り返し述べています。「自分が発言したのは、早く結婚した方がいいということだけで、ほかの発言も含めてやじを飛ばしたと報道されていたので、言い出せなかった」と理由を説明しています。「相手を不快にさせる性的な言動は、冗談でも悪気がなくてもセクハラ」だという認識はなかったのでしょうか。発言したのは、議場という公の場です。議会の品位をおとしめたり、信頼を失墜させたりするとは考えなかったのでしょうか。企業でセクハラとなれば、処罰の対象です。安易に幕引きをという意識が見て取れます。
やじを聞いていないという周囲の議員の言動にも疑問が残ります。やじが飛んだ時、周囲からははやし立てるような笑いが起きています。聞いていないというなら、なぜこんな反応が起きているのでしょうか。
 
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もう一つの問題は、鈴木議員以外に、発言者が名乗り出ないことです。
塩村議員は、「自分が産めよ」など、子どもを産むことに関する不適切なやじが聞こえたと指摘しています。本来ならば、こちらの方がより重い人権侵害に当たる発言ですけれども、自民党は一貫して「ほかのやじは聞こえなかった」という姿勢です。都議会は、最終日の今月25日、「信頼回復と再発防止に努める」とした決議案を賛成多数で可決しました。しかし、この決議の中では、ほかのやじについては一切触れられないまま。しかも、一部の会派が出した「発言した議員を特定するよう求める」決議案は、自民党などの反対多数で否決されました。問題が起きた以上、再発防止に努めるのは、当たり前のことです。ただ、信頼を回復しようというのであれば、なぜ、ほかのやじをあやふやにしたまま幕引きをはかるような対応になるのか。子どもたちには道徳心をときながら、道徳的な対応すらできない都議会の自浄作用はどうなっているのでしょうか。
 
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実は議員のセクハラ発言は、都議会に限ったことではありません。
NHKが全国の自治体の議会事務局や議員などを通じて調べたところ、質問を終えた直後の女性議員が「下着のラインが見えている」と言われたり、議事録が残らない全員協議会で「母子家庭は女の自業自得だ」と言われたりするなど、女性議員を侮辱するような言動があることがわかりました。道徳心や公徳心のかけらも感じられない状況に唖然とするばかりです。
 
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さて、そもそも、今回の一連の都議会の対応は日本社会が抱える本質的な問題をはらんでいます。2点あげたいと思います。
1つは、政府が経済成長を目指す中で、女性の社会進出と活躍する機会の拡大をアベノミクスの第三の矢となる成長戦略の柱に据えていることとの矛盾です。
女性が本当に働きやすい社会を作るためには、男性や企業、地域社会など、社会全体の意識改革が求められることは間違いありません。やじを飛ばした鈴木議員自身、自らの訴える政策の中で、子育て支援の充実や女性が働きやすい社会の実現を掲げていました。こうした施策を訴えながら、本音の部分では旧態依然とした男社会の考えにとらわれたままではないか。安倍政権そのものが本気で女性が輝く社会を目指そうとしているのかという疑念を生んでいます。
もう一つは、この問題を海外のメディアが大きく取り上げたことの意味をどうとらえるかということです。
この問題について、欧米のメディアは、やじを「差別的な発言だ」などと批判的な論調で伝えました。「日本の男性議員は野蛮だという印象が定着してしまった」と話す外国人ジャーナリストもいます。世界の非常識が都議会の常識だったとなれば、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて「おもてなし」の心で準備を本格化させようという開催都市の受けるダメージは計り知れないものがあります。
また、文部科学省は、オリンピックに向けてグローバルな視点を持った人材育成を施策の柱の1つに掲げています。多様性を尊重し合えるような資質を持たなければ世界から取り残されるという時代に、議会は旧態依然としたままで、どんな人材を育てようというのでしょうか。
 
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一方で、過去の言動を引き合いに出して、やじを受けた塩村議員を誹謗するような動きも一部に見られます。今回の問題の本質とはまったく次元が異なる話であるということを指摘しておきたいと思います。
「やじは議場の華」という言葉もあり、事の本質を突いたものは、議論を盛り上げる効果もあると言われてきました。しかし、今回のように人格を傷つけたり、人を侮辱したりするものを同列に扱うことはできません。そうした議員の人権意識に対して、無頓着だったことをわれわれ有権者も反省する必要があります。それでも多くの有権者は都議会が今回の問題をうやむやのまま終わらせようとしているとしか思えない状況を見て、なぜ平然とそんなことができるのかと思っています。不信は都議会だけの問題ではなくなっているだけに、幕引きは許されないことをあらためて自覚しなければ、最後は有権者の判断として議員自らが問われることになることを忘れてはならないと思います。
 
(西川龍一 解説委員)

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