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時論公論 「法人税減税の意味」

城本 勝  解説委員

ニュース解説・時論公論です。安倍総理大臣は、法人税の実効税率について、来年度から数年間で20%台への引き下げを目指すと正式に表明しました。
法人税率を引き下げることで企業活動を活発にし、経済成長の更なる加速を実現することが狙いです。
ただ、減税の財源などの具体策については、引き続き政府与党内で協議することになりました。これによって、経済成長と財政再建の両立を図ることができるのでしょうか。
今夜は、この法人税減税問題の意味について考えます。
 
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簡単に内容を整理しておきます。
 
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経済財政諮問会議で安倍総理は、「法人税率を来年度から引き下げる。数年かけて20%台まで引き下げる」とする、いわゆる「骨太の方針」の素案をまとめました。
ただ、財源については、「新たな財源を確保する」というだけで、具体的な方法は示されませんでした。
政府与党内の調整がつかず、ともかく、「引き下げを目指す」ということだけを決め、残りは年末の税制改正まで先送りされたためです。
 
具体的に見てみましょう。
 
日本の法人税は、国と地方の分を合わせて、30%台半ば。素案では、これを数年かけて20%台までは引き下げるとしています。
 
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こちらは、諸外国の法人税の税率です。
アメリカは、州によって違いますが、
カリフォルニア州では日本より高い。
フランスやドイツは30%前後。
アジアのライバル、中国や韓国は25%前後の水準です。
日本経団連の榊原新会長も述べていましたが、経済界からは、グローバル市場で競争に勝ち抜くには、ヨーロッパやアジアの国々と同じ水準の法人税率にすべきだと強い要望が出ています。
 
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しかし、財務省の試算では、法人税を1%下げるとおよそ4700億円の減収。30%を切るには、5%以上の下げ幅が必要ですが、そうなると2兆3500億円以上の減収です。その税収の穴をどう埋めるのか。
この減税財源が、これまでの協議での大きな焦点でした。
甘利経済再生担当大臣や経済界などは、景気回復で税収が増える分、いわゆる「税収の上ぶれ」を当てるべきだと主張しています。
 
アベノミクスで税収が増えた分は、頑張って稼いだ企業に還元する。それによって企業が、さらに利益をあげれば、税収も増えて財政再建もできる、という理屈です。
 
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海外市場で熾烈な競争をしている製造業など大企業にとっては、恩恵が大きいことは確かです。
 
ただ、財政の専門家からは、国内企業の大半を占める中小企業を中心に、7割近くの企業が赤字などの理由で法人税を払っていない。この構造的なゆがみを正さないと経済自体が良くならないという指摘も出ています。

一方、財務省や自民党の野田税制調査会らは、「恒久財源」が必要だと主張しています。
一時的な増収分を使ってしまえば、将来、景気が悪化した時、税収不足に陥るというのです。自民党幹部の中にさえ「消費税増税で広く負担を強いているのに、大企業だけ減税するようでは、国民の理解は得られない」と言う人がいます。
 
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実際、法人税は、平成になってから、景気の変動に応じて増減しながら、減少傾向が続いています。今年度の予算ベースでは10兆円。26年前の半分近くに落ち込んでいます。
 
成長の果実を全て企業減税に回してしまえば、安倍政権のもう一つの目標、財政健全化にも悪影響を与えかねません。
そこで恒久財源を確保するため、課税ベースの拡大、赤字企業にも課税する「外形標準課税」の対象を広げたり、「租税特別措置」と呼ばれる、業種ごとの減税措置を減らしたりすることで、増税も行うべきだとしているのです。
 
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しかし、これは与党、特に自民党にとっては大変厳しい話です。外形標準課税は、地方分の法人税で一部適用されています。この対象を広げれば、地方の中小企業にとっては負担が増すと、早くも強い反発が出ています。一方、租税特別措置の縮小も恩恵を受けている大企業などからの抵抗が予想されます。
いずれも自民党の支持基盤の一角ですので、実際にこうした増税ができるのか、年末に向けて与党内で大きな議論が起きることは間違いありません。
 
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それでも、安倍総理は「法人税減税で経済成長を加速させ、その成果を国民の暮らしに反映する」と強気です。これはアベノミクスの基本的な考え方でもありますが、企業が頑張って利益をあげれば、雇用も増えるし、従業員の賃上げにもつながる。そうすれば、家計も潤って消費が拡大、ひいては企業の売り上げも増える。いわば、法人税減税をテコにすることで、そうした「経済の好循環」を実現できるというわけです。
 
ただ、今回の法人税減税についていえば、成長戦略をアピールするのに、他に有効な手立てがなかったからだという冷ややかな市場関係者の声も聞かれます。
 
もう一つ、見逃せないのは、税収が増えている大きな要因は、消費税率を引き上げたからだということです。しかも、 それは社会保障、とりわけ子育てや現役世代への支援を充実させることによって、国民生活を豊かにする(少なくとも将来不安をなくす)ためです。
 
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それなのに法人税を下げすぎて、社会保障改革への財源が不足したり、消費税増税分が、法人税減税の穴埋めに回されれば、経済の好循環どころか、安倍政権の「失敗」ということになります。
 
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以上、見てきましたように、法人税減税の問題は、国民生活を守るために、企業活動を活発にして経済成長を実現するのか、それとも消費増税の財源を財政再建にあてて社会保障の安定を図るのか、という二つの相矛盾する課題を、同時に実現するという、極めて難しい問題でもあります。
 
確かに、アベノミクスで景気は回復軌道に乗りました。異例の総理大臣の要望で賃上げに応じた経済界にしてみれば、今度は政治の側が、企業を応援する条件を整える番だという気持ちでしょう。
しかし、国民生活という観点からは、物価上昇に家計が追いついているとは、まだ言えない状態です。
 
高度成長期のような「右肩上がりの成長」が期待できない今の時代、大切なのは、限られた果実を分かち合う、逆に言えば、お互いに「痛みを分かち合う」ことなのかもしれません。それは非常に複雑な利害調整になりますが、しかし、それこそが政治の役割でもあるはずです。
 
安倍総理は、政府与党の調整が整うのを待たずに、法人税減税の方針を表明しました。
それが「政治主導だ」といいたいのでしょうが、最終的に、妥当な財源と引き下げ方をまとめることができないと、これは調整力不足と見られてしまいます。
 
税率の下げ幅や財源をどうするのか、最終決着は年末まで先送りされることになりましたが、安倍総理にとっては、この矛盾する難しい方程式に、多くの国民が納得できるような答えを見出すことができるのか。ここからが本当の正念場になります。
 
(城本 勝 解説委員)

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