解説アーカイブス これまでの解説記事

時論公論

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

時論公論 「自動車運転死傷行為処罰法 きょう施行」

渥美 哲  解説委員

交通事故で人を死傷させた場合の罰則を強化した新しい法律、「自動車運転死傷行為処罰法」が、日付が変わったきょう(20日)、施行されました。
これまでなかった刑罰の規定がいくつも設けられ、飲酒運転や無免許運転など、悪質な運転で事故を起こした場合の罰則が重くなりました。
今夜は、新しい法律の内容と、悪質な運転をなくすために何が必要か、法律が施行された後の課題について考えます。
 
j140520_mado.jpg

 

 

 

 

 

 

 

まず、新しい法律の規定がどうなっているか、これまでとどう変わったのかを見てみます。
 
j140520_01.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

きのうまでは、交通事故で人を死傷させた場合、刑の上限・最高刑が懲役20年の危険運転致死傷罪か、最高刑が懲役7年の自動車運転過失致死傷罪のどちらかが適用されていました。
危険運転致死傷罪は、「酒や薬物の影響で、正常な運転が困難な状態で事故を起こした場合」などに適用されますが、正常な運転が困難だったことの立証が難しいことなどから、悪質な運転による重大な事故でも適用されないケースがほとんどでした。

きょう施行された「自動車運転死傷行為処罰法」は、この2つの罪の規定を刑法から抜き出して独立させ、特別法として作られました。
従来の自動車運転過失致死傷罪は、適用要件などはそのままで、罪名を過失運転致死傷罪に変えました。
そして、これまでなかった新たな罰則の規定が、主に3つ、作られました。
 
j140520_02_4.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つは、これまであった危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の量刑の差が大きかったため、この間に、最高刑が懲役15年の、新しい危険運転致死傷罪を設けたことです。
「酒や薬物、特定の症状を伴う病気の影響で、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こした場合」に適用されます。
従来の危険運転致死傷罪の適用要件を緩めて、いわば適用のハードルを下げて、危険運転致死傷罪として処罰する対象を広げました。
「特定の病気」については、意識障害などをもたらす発作が再発するおそれがあるてんかんなどが、政令で定められています。

これまでと変わった2つめは、「発覚免脱罪」という新しい罪の規定を設けたことです。
事故の後、逃げて飲酒していたことなどをわからなくすると刑罰が軽くなるという「逃げ得」と呼ばれる問題を防ぐための規定で、酒や薬物の影響で事故を起こした後、そのことが発覚するのを免れるために逃走した場合などに適用されます。
最高刑は懲役12年で、ひき逃げの罪と併合すると懲役18年になります。

そして、3つめは、無免許で運転して、これらの罪にあたる事故を起こした場合は、それぞれ刑罰を重くする規定を、新たに設けたことです。

このように、交通事故で人を死傷させた場合に適用される法律が、きょうから大きく変わり、悪質な運転による事故が厳罰化されました。

それでは、新しい法律が施行された後の課題は何か、悪質運転をなくすためにどんなことが必要でしょうか。

まず何よりも、新しい法律が施行されたのをきっかけに、私たちドライバーが安全意識を高め、悪質な運転をしないようにすることです。
そのために、今回の法改正のきっかけが、悲惨な交通事故で家族を失った遺族たちの切実な願いだったことを、思い起こす必要があると思います。
 
j140520_03_2.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえば、おととし京都府亀岡市で、繰り返し無免許運転をしていた少年の車が登校中の小学生らの列に突っ込み、10人が死傷しました。
3年前には、栃木県鹿沼市で、発作を伴うてんかんの症状を隠して運転免許を不正に取得した男が、クレーン車を運転中に発作を起こして小学生の列に突っ込み、6人が亡くなりました。
これらは、いずれも悪質な運転によるものでしたが、危険運転致死傷罪は適用されませんでした。
 
j140520_03_3.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族を失った遺族の人たちは、悲惨な事故をなくすために、悪質な運転による事故の罰則を強化してほしいと国に要望し、国民の関心も高まって、去年、法改正が行われました。
遺族の人たちは、新しい法律が抑止力になって、悪質運転による理不尽な事故で命を失う人や、同じような悲しみや苦しみを味わう人がうまれないようにしてほしいと、あらためて強く願っています。

ドライバーひとり一人が、事故で亡くなった人や、遺族の人たちの思いを自分のことと受け止めて、命を守る運転をすることが何より重要です。
 
j140520_03_5.jpg

 

 

 

 

 

 

 

新しい法律が抑止力になることが期待されているわけですが、実際に、悪質運転による事故がなくなっていくだろうかと、懸念する声も数多く聞かれます。
悪質な運転による事故を防ぐために、ほかにはどんなことが課題でしょうか? 

1つは、新しい法律が制定されてから半年たちますが、その内容などがまだ国民に十分、知られていないことです。
飲酒運転や無免許運転など、悪質な運転による事故が重く罰せられるようになったことを国民が知らなければ、あらためてそうした運転をやめようという抑止力にはなりません。
警察やこの法律を所管する法務省などが、新たに処罰の対象になった罪の内容や趣旨について、あらゆる機会を通して、国民への周知を徹底し、安全意識を高めてもらうことが欠かせません。
 
j140520_03_7.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、新たに処罰の対象になった罪や適用要件の規定が、あいまいでわかりにくいといった指摘があることも課題です。
たとえば、さきほど説明した、新しい危険運転致死傷罪の適用要件になっている「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」というのはどういう状態のことか。
従来の危険運転致死傷罪の適用要件の「正常な運転が困難な状態」とどう違うのか、あいまいでわかりにくいという指摘があります。
 
j140520_04_4.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺族などからは、規定があいまいなために、悪質な運転による事故に的確に適用されていくだろうかと、懸念する声が聞かれます。
一方で、弁護士らからは、処罰の範囲が不当に拡大されたり、適用にばらつきが出たりするのではないかという意見が出されています。
法律の規定が、悪質な事故に、正しく、的確に適用されなければ、事故の抑止にはつながりません。
今後、警察や検察庁が、実際に起きてしまう悪質な運転による事故について、緻密に捜査を行って、的確に適用していくこと。
また、裁判でも、適切な量刑が言い渡されることが重要です。
そして、新しい法律の適用の状況や、悪質な運転による事故の抑止につながっているかなどについて検証し、必要に応じて規定を見直していくことが求められています。
 
j140520_04_7.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに、もう1つの課題は、今回の法改正でも、京都府亀岡市で小学生ら10人が死傷した事故など、無免許運転による事故が、危険運転致死傷罪の適用対象にならなかったことです。
危険運転致死傷罪は、運転技能をもたないで走行していた場合は適用されますが、亀岡市で事故を起こした少年は、無免許運転を繰り返し行っていたことで運転技能を身につけていたため、危険運転致死傷罪は適用されませんでした。
無免許運転という違法行為を繰り返して運転技能を身につけると、危険運転致死傷罪の対象にならず、刑罰が軽くなるという矛盾が、残されたままになっています。
今回、無免許運転で事故を起こすと刑罰が重くなる規定は作られましたが、悪質な無免許運転を減らすことにつながっていくかどうかについても検証し、規定を見直していく必要があると思います。
 
j140520_05_3.jpg

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい法律、「自動車運転死傷行為処罰法」の内容と、施行後の課題をみてきましたが、法改正を求めてきた遺族の人たちの願いは、厳罰化がゴールではありません。
新しい法律が抑止力になって、悪質な運転による悲惨な事故がなくなること。
新しい法律で裁かれる人が出ないことです。
なぜなら、裁かれるときには、もう命が失われ、傷つけられているからです。
そうなるより前に、命を守る運転を徹底すること。
そして、悪質な運転による事故が起きてしまったら、的確に捜査と裁判を行うこと。
新しい法律の施行をきっかけに、あらためて、痛ましい交通事故をなくすことに、社会全体で真剣に取り組んでいきたいと思います。
 
(渥美哲 解説委員)
 

twitterにURLを送る facebookにURLを送る ソーシャルブックマークについて
※NHKサイトを離れます。

キーワードで検索する

例)テーマ、ジャンル、解説委員名など

日付から探す

2016年06月
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
RSS