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時論公論 「"残業代ゼロ" の働き方とは?」

竹田 忠  解説委員

【 安倍首相 発言 】(4月22日 経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議)
「時間ではなく、成果で評価される働き方にふさわしい、
新たな労働時間制度の仕組みを検討してほしい」

安倍政権で検討が始まった、新たな労働時間制度。
働き方が自由になるのか、それともいわゆる「残業代ゼロ」になるのか?
サラリーマンにとって、大問題です。
 
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【 安倍政権と労働時間改革 】
雇用制度改革を次々と打ち出す安倍政権。
今度は労働時間の規制緩和です。
総理の言う、「新たな労働時間制度」。
「働いた時間ではなく、成果で評価される仕組み」
つまり、何時間働こうが、給料はあくまで仕事の結果で決めよう、というものです。

実は、この働き方の導入は、安倍政権にとっては、いわば「念願」です。

というのも、今から7年前、第一次安倍政権の時に
同じような制度を導入しようとしました。
しかし、労働側から、「残業代ゼロ法案」という強い反発を受けて、断念しました。

また、第二次安倍政権では、
今度は、総理肝いりの国家戦略特区で、実施しようとしましたが、
これも強い反対にあって、議論は中断したままです。

今回、いわば、三度目のチャレンジとして
総理みずからが、検討を指示した形になるわけです。
 
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この賛否両論がぶつかる新たな制度、
基本となるのは「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる制度です。

これは、アメリカで行われている制度で、
ホワイトカラー、つまり事務職のうち、一定条件の人は
労働時間の規制から、エグゼンプション、除外をする、というものです。
 
【 どんな制度なのか 】
労働時間の規制をはずす、とはどういうことかと言いますと、
たとえば日本では働く時間は、労働基準法によって、決まっています。
「一日・8時間、週・40時間」が原則です。
これを超えて、残業や休日の労働があった場合には、
その働いた時間に応じて割増賃金を払わなければなりません。
これがいわゆる「残業代」です。
 
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ただ、サラリーマンの中でも、
部長や課長などの管理職については、こうした時間規制は適用されません。
時間の規制がないので、そもそも残業という概念がありません。
ですから残業代もゼロ、ということになります。

こうした管理職と同じような、残業代なしの人を
一般職の側にも、もっと増やそうというのが、この制度の狙いです。

今回、産業競争力会議の民間議員から提言されているのは、二つのタイプです。
一つ目は、
▼高収入型
・年収1000万円程度以上で、
・高度な職業能力を持つ人、
これは、まさしく、これまで議論されてきた
ホワイトカラー・エグゼンプションと同じ内容です。
                                                                   
これに今回は、もう一つ、案が加わりました。

▼労働時間上限型です。
こちらは
・年収要件がありません。
 つまり、年収の低い人でも対象になるわけです。
・そのかわり、導入には労使の合意が必要です。
・また、過労になるのを防ぐために、国が年間の労働時間の上限を「基準」として示します。
 
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この案になると、新たな制度の対象は、ぐっと広がることになります。

これについて、産業競争力会議の側は、
両方とも、あくまで本人の同意が前提であること、
そして、労働時間上限型の場合は、組合の同意も必要であり、
新たな働き方を選ぶかどうかは、あくまで、その人の自由だと、強調します。

しかし、これに対し厚生労働省は慎重な姿勢です。
「労使関係では、どうしても使用者側が強くなりがちで、
 本人や組合の意思がどこまで尊重されるかは不透明」だとしています。
 
【 なぜ、時間ではなく成果なのか 】
そもそもなぜ、時間ではなく、成果に応じた賃金に変えようとするんでしょうか?

今の労働法は基本的に働く時間の長さに応じて賃金を払う仕組みになっています。
これは、工場労働者のように、製造業で働く人を前提にしているためです。
長く働けば働くほど、たくさんの製品を作ることができる。
つまり、労働の成果は、働いた時間の長さに比例します。

しかし、今では、多くの人が、ホワイトカラーと呼ばれる事務部門で働いています。
こうなると、労働の成果と、働いた時間は、比例するとは限りません。
 
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たとえば企画書を作る、とか、デザインを考える、という場合、
いい案が早く浮かんで、仕事が早く片付く人もいれば、
いつまでたってもなかなか終わらない、という人もいます。
しかし、今は、時間の長さに応じて賃金を払うため、
結局、仕事が遅くて、残業をした人の方が給料が多いということになります。

経営側としては、これではダラダラ働いた人の方が、高い給料をもらえることになる。
これでは会社は持たない。
給料は、あくまでも仕事の結果に対して払いたい、という主張になるわけです。

また、日本は少子高齢化で、これから働く人はドンドン減っていきます。
少しでも多くの人に働いてもらわなければなりません。
賃金と労働時間の関係を切り離せば、
社員は自分の好きな時に働けるようになり、
いわゆるワークライフバランスにもつながるというわけです。

これに対し、労働側は、強く反対しています。
仕事の量が減らない限りは、労働時間は簡単には減らせない。
にも関わらず、長く働いても賃金に反映されないなら、
それは結局、残業代ゼロということになり、
低賃金労働になるではないか、というわけです。
 
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【 問題は長時間労働 】
この議論、どちらも説得力のある主張だと思います。
しかし、実は、まだそれでも足りない重要な論点があります。

というのも、今、労働時間をめぐって
何よりも緊急にとりくまなければならないこと、
それは、何と言っても長時間労働をなくすことです。
 
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グラフを御覧ください。
これは、どれだけ多くの人が長時間労働をしているかをまとめたものです。
黄色は週40時間以上、赤色はさらに長く、49時間以上働いている人の割合です。
日本はヨーロッパ各国にくらべて、長時間労働の人の割合が高いことがよくわかります。

こうしたことが、過労死につながり、また、心の病いなどの背景にもなっているわけです。

これに対し、今回、提示されている案というのは、
一言でいえば、賃金と労働時間を切り離して別々に考えよう、ということであって、
長時間労働そのものをどう減らすのか、という対策については不十分と言わざるを得ません。

たとえば、今回の提言のうち、
労働時間上限型では、国が労働時間の上限の「基準」を示す、とありますが、
これが、強制力を持つのかどうか、明確なことは何も書かれていません。

これに対し、たとえばヨーロッパ諸国では、
年間の総労働時間の上限を国が法律で決めたり、
また、インターバル規制といって、
仕事が終わって、次の日の仕事を始めるまでに、
最低11時間程度の休息をとる、ということを義務づけたりしています。
また、時間外の割り増し賃金も、日本は基本、25%増しですが、
ヨーロッパでは、多くの国が50%以上の割り増しとなっていて、
経営側にとって、長時間労働をさせることは割が合わないような仕組みにしています。
日本でも、まず、こうした、具体的な取り組みを急ぐべきだと思います。
 
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【 成果をどう評価するのか 】

さらに、もう一つ、重要な論点があります。
それは、仕事の成果を評価する、ということが、本当はどこまで可能か、ということです。

というのも、一人一人の仕事の成果を正しく評価しようとするなら、
まず、その人の仕事の内容と範囲、
そして他の人との役割の違いが明確にされていなければなりません。

たとえばアメリカでは、多くの企業で、一人一人の担当業務ごとに、
仕事の内容を細かく規定したジョブディスクリプション・職務内容記述書が作られています。

しかし、日本の企業では多くの場合、職務の内容や役割分担が不明確で、
みんなで協力しあって取り組む、ということが一般的です。
これでは、その人がチームの中でどれだけ成果をあげたのか、判然としません。
これまでも、日本企業の間で成果報酬を導入しようという気運が盛り上がったことがありましたが、この職務内容のあいまいさが壁となってきました。

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政府は、この新たな労働時間制度を来月発表する成長戦略に盛り込みたい方針ですが、
ホワイトカラー・エグゼンプションという、アメリカで行われている仕組みを
アメリカとは大きく異なる条件下で導入することが、どこまで可能なのか、
日本の企業社会全体の問題として検討する必要があります。
 
(竹田 忠 解説委員)

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