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時論公論 「外国人技能実習その意味と課題」

広瀬 公巳  解説委員

働き手の数がどんどん減っていく日本。
建設現場で、外国人受け入れ拡大措置が決まったのに続いて、
介護や家事の分野でも外国人の力を取り入れることが本格的に検討されています。
日本は外国人労働者を受け入れていくことになるのか。
単純労働者の不足を補う形で途上国の人材を用いてきたいまの制度に問題はないのか。
外国人労働者受け入れの課題を考えます。
 
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政府は、オリンピック関連、東北の復興事業などで不足する建設業の人手を補うためとして、
すでに日本にいる外国人がより長く働ける措置をとることを決めました。
 
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日本で3年間の「技能実習」を終えた人に、
継続して滞在する場合には2年間、
いったん帰国した人の場合にも再入国を認め、
帰国して1年以上が経過している人には3年間の滞在も認めるというものです。

「特定活動」という特別の在留資格を出すことで
7万人分の労働力が得られるとしています。

その対象となる技能実習生は、
今も日本の建設現場で働いている「貴重な人材」です。
技能実習生はこの建設現場以外でも日本の人手不足を補う
「貴重な人材」として期待が寄せられています。
 
なぜ技能実習生が注目されるのか。
その大もとにあるのは「単純労働者は受けいれない」という国の方針です。
日本で働くひとのうち外国人が占める割合は、およそ1パーセント。
先進国の中では極めて低い割合です。
 
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働くことが認められているのは主にこちら、日系人、留学生、そして高度な人材です。
このうち日系人はもともとブラジルなどに移住した人たちの子孫という特別な存在。
コンビニなどでみかける外国人は留学生のあくまでアルバイトの活動です。
純粋に労働者として受け入れているのは高度な人材で、
技術や語学などの専門性をもつことなど厳しい審査を通らなければなりません。
外国人の入国の門は狭く、技能実習生は単純労働者の不足を補う
事実上の抜け道になってきたのです。
届け出のある外国人労働者72万人のうち15万人を占める大きな存在になっています。
 
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技能実習生は、かつては外国に進出する日本企業が
日本で仕事を習得させようとしたもので当初は研修生という存在でした。
しかし研修生では、労働者と扱うことができません。
そこで技能を習得しながら、
労働者として働くことができる在留資格の「技能実習」が生まれました。
制度上、政府は途上国の人づくりを行う国際貢献の一環と位置づけています。

習得する技能は、縫製、養豚、カキの養殖、溶接など68の職種であわせて126の作業です。
これらの技能は、
「同一の作業の反復のみによって修得できるものではない」とはされていますが、
実際には職人の技、まさに「技能」を習得するためには
単純な作業を繰り返し体で覚えることも現場では必要です。
実習から単純に見える労働を切り離すことは簡単にはできません。

これは人手不足の企業とっては好都合なものとなりました。
3年間は職場を勝手に変えることができないため、賃金が低く、
日本人の働き手が見つからない仕事をこなしてきました。

また実習期間を終えればやがては帰国することが決まっているため、
日本人の雇用を奪う、定住化する、問題も避けて通ることができたのです。
 
しかし自分の国に帰ったあとに日本で習得した技能を使って仕事をしている人は
全体の半数以下にとどまっているということです。
母国に帰っても仕事をすぐに見つけられないという人も少なくありません。

国際貢献ための制度でありながら外国人側も多くは出稼ぎを目的にしているという現実。
建前と現実の二面性をもつこの制度を維持していくのであれば、
建前の面、つまり途上国の人づくりに貢献していることも、
今以上にくわしく検証していく必要があります。
 
さらに、技能実習生を日本の労働力として生かしていくならば
越えていかなければならない大きな壁もあります。
 
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そのひとつが外国人の人権問題です。
法定最低賃金の半分以下の300円という時給。
パワハラやパスポートや貯金を強制的に預けさせられる例、
安全対策が十分でなく起きたという死亡事故などが報告されています。
日本弁護士連合会は制度そのものを速やかに廃止すべきだとしています。

さらに労働基準局の調べでは例年、賃金の不払いなどの
労働法に反するものが2000件以上見つかっています。
しかし実習生側からの不正行為の届け出はほとんどありません。
雇い主を告発すれば自分も帰国せざるを得なくなる弱い立場です。
アメリカの国務省が「強制労働」と指摘するなど国際的にも厳しい目が向けられています。
こうした批判を受けないようにするために、
雇い主の企業や仲介の団体を、より厳しく監視・監督することが求められています。
 
さて、日本がこれから真剣に考えていかなければならないのは、
外国人労働者を本格的に受け入れていくのかどうかという問題です。
 
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シンガポールの元首相のリー・クアンユー氏は、自国民に対し、
外国人を受け入れないと日本のように衰退していくことになると述べています。
先進国となり少子高齢化が進むシンガポールでは
低い賃金で働く人材を外国から受け入れるという道を選びました。

お隣の韓国では、かつて外国からの研修生を安い労働力として用いていましたが、
10年前に単純労働者を受け入れる制度に切り替えています。
特定の分野の仕事について、まず韓国国内で働き手の募集を行い、
希望者がいないことが確認されれば、外国人に就労の許可を出すという仕組みです。
人材の送り出し国と政府が個別の覚書をとりかわした結果、
問題のある人材仲介業者の取引の例も減り国連からも優れた労働政策として評価されています。
途上国支援なのか、人材調達なのか、あいまいな日本とは異なり、
単純労働者としての受け入れを決め、制度を現実に合わせていったのです。

ただ一方で、ドイツやフランスはそれぞれトルコや北アフリカからの移民を受け入れましたが、
いずれも住宅や失業の対策などのコストは大きく
言葉や文化の違いは社会不安にもつながっています。
日本でもバブルの時代に出稼ぎ労働者として受け入れた日系人がその後次々と職を失いました。
そしてその子供たちの世代が地域にどうとけ込んでいくのかなどの問題を生んでいます。
外国の労働者を受け入れることには、
常にコストとリスクが伴うことを考えておかなくてはなりません。
「労働力」を受け入れることは、それを担う「人」の受け入れを意味するからです。

「労働は商品にあらず」という
ILO・国際労働機関の基本理念「フィラデルフィア宣言」が採択されて今月で70年。
賃金の格差を背景に国境を越える人の移動が世界中で増えている今、
そして労働力がモノのように使い捨てられることの痛みがわかる今の日本で、
70年前のメッセージは改めて意味と重みを増してきています。

今後、少子高齢化が加速し労働力不足が深刻になってゆきます。
外国人受け入れ制度を、現実をしっかりと見据えた、その場しのぎではない、
そして世界にもきちんと説明のできるものにしていくための議論を
これまで以上に深めていかなければなりません。
 
(広瀬公巳 解説委員)

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