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時論公論 「在米韓国ロビーと慰安婦問題」

出石 直  解説委員

こちらはロサンゼルス郊外のグレンデールにある慰安婦像です。
像の傍らにある碑文には、「旧日本軍によって20万人以上の女性が“性の奴隷”となることを強いられた」と記されています。アメリカではこうした慰安婦像が各地に建てられています。
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こんばんはニュース解説「時論公論」です。
今、ご覧頂いたような慰安婦像を建てる運動を支えているのが全米に170万人いる韓国系住民です。彼らの運動は徐々にアメリカ社会に浸透し、政界にも支持を広げつつあります。今夜は、アメリカでの慰安婦をめぐる動きについてお伝えします。

 

これはアメリカの司法省が連邦議会に提出した報告書です。外国の政府や団体のためにロビー活動を行っている「フォーリン・エージェント」=「外国代理人」の活動が詳細に記載されています。
中を見てみますと、23のエージェントが韓国政府などからの依頼を受けてロビー活動を行なっていることがわかります。その報酬として支払われた額は、おととし一年間だけで4400万ドル、45億円あまりにのぼっています。
このうちワシントンにあるコンサルタント会社には6億円、ニューヨークのPR会社には4億5千万円が、いずれも韓国大使館から支払われています。
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こちらは、こうしたロビー活動費の推移を示したものです。日本は2008年以降、少しずつ減っていますが、韓国はこの5年で2倍に増えています。
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この2007年というのは、アメリカで慰安婦問題が注目を集めた年でした。
この年の7月、連邦議会 下院は、慰安婦問題を「20世紀最大規模の人身売買のひとつ」と決めつけ、日本政府に公式な謝罪を求める決議を採択しています。
この決議採択から7年。ことし1月には、外交政策に強い影響力をもつ下院外交委員会のロイス委員長が、グレンデールの慰安婦像を訪れ、花束を手向けました。アメリカでは再び慰安婦問題が関心を呼んでいます。

韓国政府や政府系機関によるロビー活動とともに、慰安婦問題で重要な役割を果たしているのが、民間の韓国系アメリカ人の団体です。

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私は先日、そのひとつであるKACEという民間団体を訪れました。事務所は、マンハッタンから地下鉄とバスを乗り継いで小一時間、韓国系住民が多く暮らす地区の一角にありました。周辺にはハングルの看板を掲げた店舗が数多く立ち並んでいます。

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ロサンゼルスでの暴動で韓国系住民がターゲットになったことに衝撃を受けた、ある韓国系アメリカ人によって この団体は設立されました。政治に積極的に参画することで韓国系住民の声を政治に反映させ、地位の向上を図ろうというのが目的でした。

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選挙案内に韓国語を加えてもらうなどの働きかけを行った結果、2万5000人の韓国系住民が新たに有権者登録を行いました。当初は8%前後に過ぎなかった投票率も60%程度まで上がったと言います。地方レベルを中心に韓国系の議員も誕生するようになりました。
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慰安婦問題にも意欲的に取り組みました。韓国系住民が通う教会を回って寄付を募るなど徹底した草の根活動を展開。わずか一週間で8000人分の署名を集めて議会に嘆願書を提出しました。ワシントンポストなど影響力のあるメディアに意見広告を載せたり、ユーチューブなど新しいメディアを活用したりして世論に訴えました。 j140423_06_00.jpg

 

 

 

 

 

 

では、なぜ慰安婦問題だったのでしょうか?
「慰安婦問題は日本と韓国だけの問題ではない。“人権”や“正義”といったアメリカの普遍的な価値に関わる問題だ」とこの団体の幹部は言います。しかし、韓国系住民の地位向上という本来の目的が、どうして慰安婦問題につながったのか、彼らと話していてもなかなか納得できませんでした。
ワシントンで出会った韓国人研究者がヒントを提供してくれました。
「慰安婦問題は、韓国系コミュニティーを統合する格好の材料だった。この運動によって韓国系住民はひとつにまとまり、政治的な発言力を強めることができたのだ」というのです。祖国愛の強い韓国系住民をひとつにまとめ、と同時に、「慰安婦問題はアメリカ人の問題でもある」と訴えて、アメリカ社会の関心を呼び起こしていったのです。
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こうした活動に韓国政府はどこまで関与しているのでしょうか?
この団体の幹部は「韓国政府や韓国大使館はまったく関わっていない。資金的な援助も一切受けていない」と断言しました。確かに、韓国政府が彼らを動かしているというよりは、
むしろ韓国政府の側が彼らの活動や戦略に学び、後追いしたというのが実態に近いようです。

アメリカで存在感を高める韓国。
その背景にはアメリカ社会の大きな変化があります。
アメリカではアジア系住民が急増しています。このうち韓国系は、かつては最大勢力だった日系を上回り、すでに中国系、フィリピン系などに次ぐ大集団になっています。
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多民族国家アメリカは、よくメルティングポットやサラダボウルに例えられますが、このサラダボウルの中身が大きく変わってきているのです。
特に韓国系は1世や1.5世と呼ばれる世代が中心で、祖国への想いが強く、特定の地域に固まって暮らしています。選挙区によっては、韓国系住民の票が当落の行方を左右するところもあります。慰安婦像が建てられたり、日本海の呼称を見直したりする動きが出ているのは、こうした地域です。韓国系住民の「票の力」がアメリカ政治を動かしているのです。
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もうひとつ無視できないのは、知識人層への浸透です。
アメリカの大学や研究機関などにいる韓国人研究者は8800人と日本人のほぼ2倍。
留学生は7万人、一方、日本人留学生の数は8年連続で減り続けついに2万人を割り込みました。ハーバード大学では293人の韓国人留学生に対して日本人は88人しかいません。彼らの一部は卒業後もアメリカに留まり、大学やシンクタンクなどで働きながらアメリカの政策決定に深く関与していくのです。ここでも日本人の内向き志向はマイナスに作用しています。
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東アジア情勢に詳しいジョンズ・ホプキンス大学のケント・カルダー所長は、次のように指摘しています。
「アジア系住民の増加はアメリカの政策決定に大きな影響を与えている。残念ながら日本の存在感は、中国や韓国に較べると薄いと言わざるを得ない」
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オバマ大統領がきょう(23日)来日します。アメリカ政府は、慰安婦など歴史認識をめぐる問題については、表向きは中立の立場ですが、アメリカ社会への韓国ロビーの浸透は、けっして無視できる要素ではありません。日本の立場を主張することももちろん必要ですが、果たしてそれだけで足りるでしょうか。
今後、日本がどういう対応を取るべきかを考えていくためには、▽韓国系ロビーの活動ぶりや、▽慰安婦問題についてのアメリカでの受け止められ方、さらには▽アメリカ社会の構造的な変化と政策決定に与える影響。
まずはこうした現実を知ることが大切ではないでしょうか。
現地を取材して強く感じました。

 

(出石 直 解説委員)

 

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