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時論公論 「学力テスト結果公表の影響は」

西川 龍一  解説委員

ことしで8回目となる全国学力テストが、きょう、一斉に行われます。文部科学省は、今回の学力テストから、自治体ごとに学校別のテスト結果をまとめて公表することを認めることにしました。公表を決めたという自治体はまだ少ないものの、学校現場では、公表に備えようと前のめりとも言える動きが出始めています。こうした影響と課題について考えます。
 
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全国学力テストは、小学6年生と中学3年生を対象に、2007年から始まりました。
民主党政権下で3年間、30%の学校を抽出して行われましたが、去年から再び全員が対象になり、国語と算数・数学で試験が行われます。ことしはすべての国公立の小中学校に通う230万人あまりが受けるほか、私立の小中学校も47%が参加する予定です。
 
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テストの目的は、学校がテストの成績を元に教育の成果を検証して指導の改善に役立てることです。学校はテスト結果を見て全国的な位置づけを項目ごとに知ることができます。
通っている子どもたちはどの分野が苦手なのかを分析し、どうすれば克服できるのか、指導方法を考えることも可能です。
ただ、測れるのは学力の一部に過ぎないというのが、学力テスト導入当初からの文部科学省の一貫した説明です。ペーパーテストですから、基礎基本の知識が身についているかはわかりますし、問題作りを工夫して、身につけた知識を活用することができるかも確認するようにしています。ただ、限られた時間内に行うペーパーテストでは、その子が持つ物事をとことん追及するような能力といったことは測ることはできません。
 
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今回の学力テストから、文部科学省は、結果の公表について、これまでの方針を転換しました。結果がまとまるのは8月下旬になりますが、その際、希望する自治体は、学校ごとのテスト結果をまとめて公表することが可能になったのです。
 
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テストの結果について、文部科学省は、都道府県ごとの平均正答率など全体の状況をまとめて公表してきましたが、自治体による公表は認めてきませんでした。学力の一部の評価で学校の序列化を生み、学校間の競争が激化する恐れがあるというのが大きな理由です。
こうした恐れは解消されたわけではありません。それでも文部科学省が公表を認めることにしたのはなぜなのか。
1つは、知事や市町村長など自治体の長を中心に、結果の公表については各自治体の判断に任せるべきだという意見が上がり続けていたことです。実施要領を無視して公表に踏み切る事態も起きてきました。去年は、静岡県が、成績が上位だった86の小学校の校長名をホームページに掲載しました。もう1つは、税金を使って行うテストである以上、情報公開上の観点から保護者や地域住民に説明する責任があるという考えからです。下村文部科学大臣が公表に積極的な考えを示したこともあり、専門家会議の議論を経て、公表を認めることになったのです。ただ、文部科学省は、公表にあたっては、▽学校ごとの点数を一覧にしたり順位付けしたりしない、▽詳しい分析を行い、学力向上に向けた対策をあわせて示す、▽公表前に学校側と十分協議する、以上の3点を条件として示しています。
 
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学力テストの結果公表について、文部科学省が方針を転換したことを受けて、大分県などが結果をまとめて公表する方針を示していますが、テストの実施を前に、こうした自治体は少数派です。にもかかわらず、公表を前提に対策に取り組もうという動きは、すでに始まっています。
静岡県内のある小学校では、今月の始業式の日から、6年生の担任が子どもたちに「学力テストを意識しながら勉強していく」ことを呼びかけ、始業式の翌日から算数のテストを行いました。さらに、学力テスト本番の1週間前には、去年の学力テストの問題を子どもたちに解かせたと言います。本番のテストに少しでも慣れさせようというわけです。静岡県教育委員会によりますと、こうした対策は、県内のほとんどの自治体が取り組んでいるということです。取り組みの目的としてうたっているのは、「学力向上」です。学校が子どもの学力の向上に努める、しごくもっとなことですが、中には、来年学力テストを受ける小学5年生と中学2年生向けに学力テストの模擬試験を行う自治体もあると言いますから、学力向上対策と言うより、“学力テスト対策”です。唯一数値として比較できるのが、学力テストの結果であり、学校の成績がどこまで公表されるかわからないとなれば、少しでもよい結果を残せるようにしておいたほうが得策だという学校現場の本音が見て取れます。
 
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“学力テスト対策”であれ、結果的に成績が上がれば問題ないのではないかという意見もあるでしょう。しかし、ここで思い出して欲しいのは、学力テストはペーパーテストであること。どんなに工夫をしても、測れるのは学力の一部にすぎないということです。ペーパーテストの成績を上げるとなると手っ取り早いのは漢字を覚えたり計算練習を繰り返したりするといったことです。すぐに成果が現れることに重点が置かれて、それ以外のことが軽んじられるようでは、本末転倒です。
昭和30年代に行われた学力テストでは、学校ごとの順位が流出したことによって、地域によって順位の高い学校への越境入学を希望する子どもが増えたほか、直前に授業の中でテスト対策の特訓をする学校が相次いだと言います。まさに、今、同じことが繰り返されているのではないか。この時の学力テストでは、挙げ句の果てに、テストの点が取れないと判断された子どもを学校側が休ませるという事態まで起きています。こうした事態を引き起こす芽が出始めているという見方もあります。
 
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去年、自分の校長の名前が成績上位校に含まれていないことを知った児童が、自分のせいだと校長に泣きながら謝るという事態が起きたと言います。本来子どもたちのために行われる学力テストが子どもを追い詰めてしまった形です。
そもそも学校がすべきことは、公表するかしないかに関わらず、学力テスト導入の原点である「学校自身が自分たちのやってきた教育の成果を検証し、指導改善に役立てる」ということです。そうした実施目的が、住民や保護者に十分理解されているでしょうか。数値が一人歩きして、「学力テストの結果がいい学校こそ上位校」というレッテル張りにつながることになれば、何のための学力テストかということにもなりかねません。
そして、保護者も結果で一喜一憂しないこと。そもそもこの学力テストは、毎年の問題によって難易度に差が出ますし、受ける子どもも変わるわけですから、点数だけではその学校全体の学力が上がったのか下がったのかの変化はわかりません。むしろ、結果を受けた学校の分析に耳を傾け、その後の学校側の対応がどういうものなのか、その結果、子どもたちがどう変わったのかこそ、子どもたちの学力全体を高めていくためには重要なのです。
 
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多くの人たちが建前では違うと言いながら、テストの点数を競い合ってよい点数を取ることこそが学力の向上だという考えからなかなか抜け出せずにいます。学力テストの点数を取るための対策ではなく、学力全体を底上げすることで、結果的に学力テストの点数も上がっていく。手段と目的を逆転させるのでなく、本来あるべき対策こそ必要であることを、きょうのテストの前にもう一度確認しておきたいと思います。
 
(西川龍一 解説委員)

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