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時論公論 「どう変えるのか教育委員会 審議を尽くせ」

西川 龍一  解説委員

教育委員会制度を見直すための地方教育行政法の改正案の審議が、衆議院で始まりました。今回の見直しは、いじめ問題に対する教育委員会の対応が不十分だという意見に端を発したことを背景に、教育行政に対する自治体の長の関わりを強化する内容になっていますが、学校や子どもたちにとって何が変わるのかは見えてきません。今後の国会審議の中で必要な論点について考えます。

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今回の教育委員会制度の見直しは、大津市で起きた中学生のいじめ自殺問題で、教育委員会の対応が後手に回るなど問題があるとされたことがきっかけでした。これを受けて安倍総理大臣肝いりの教育再生実行会議は、いじめ問題の解決を教育委員会に任せるのでは対応が不十分で、知事や市町村長といった自治体の長が責任を持って教育行政を進める必要があるとして、長の権限を強化する方向で議論を求めました。「戦後教育の総決算」と位置づけ、教育改革を進める安倍総理の意向が強く反映された形です。教育委員会制度は、戦後アメリカに押しつけられたとして、改革を求める声が根強かったことも背景にあります。

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教育委員会制度は、戦後間もない昭和23年にできました。「政治的中立性の確保」、「方針の継続性・安定性の確保」、「地域の人たちの参加で住民の意向を反映」するという3つの大原則が掲げられています。戦前の国家主義教育の反省に立ち、教育が政治からの影響を受けないようにするための原則で、都道府県と市町村に必ず置かれることになっています。
原則5人の委員の合議制で進められるのもそのためで、委員の一人は保護者であることなども決められています。教育委員会の責任者は、教育委員長で、事務局のトップで常勤の教育長とともに、自治体の長から独立して教育行政の運営にあたっています。地域の子どもたちがどのような教育を受けるのか、教科書の選定を含めて決めているのが教育委員会です。

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こうした意味で、教育委員会は学校に通う子どもたちや保護者にとって身近な存在であるはずなのですが、実態は必ずしもそうとは言えません。誰が教育委員を務めているのか知らない住民がほとんどです。教育長を除く委員は非常勤で、委員会は月2回程度開かれるだけですから、▽事実上事務局の案を追認するだけで形骸化している、▽緊急事態が起きたときに迅速な対応ができないと指摘されてきました。

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今回の見直しによって、教育委員会はどのように変わるのでしょうか。ポイントは2つです。1つは、▽自治体の長が任命する教育長が教育委員会の責任者になること。もう1つは、▽自治体の長が主宰する「総合教育会議」を新たに設置することです。与党内の協議の中で、政治的中立性や教育の継続性・安定性を確保することへの懸念から、当初求められたように教育行政の責任者を自治体の長とするということにはならなかったものの、長の関わりを強化する内容になりました。

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まず、教育長が責任者になることについてです。これまで法律上の責任者は、非常勤の教育委員長でしたが、非常勤の委員長にすべての責任を負わせていいのかという意見もありました。このため、委員長と教育長を教育長に一本化して責任者として現場を仕切ります。一方、教育委員会は、これまで通り自治体の長とは独立して教育行政の運営にあたります。
こうしたことで、いじめ問題などが起きた時にも責任者が迅速に説明責任を果たすことができるようにしました。ただ、教育長は、これまで教育委員の互選で選ばれることになっていましたが、自治体の長が直接議会の同意を得て任命し、これまで4年だった任期は3年としました。さらに、罷免することもできるとしていますから、実質的に教育長は自治体の長の部下のような存在になるという指摘もあります。

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次に、総合教育会議です。この会議は、自治体の長が招集して、教育長を含む教育委員がメンバーとなり、自治体で行う教育行政の大まかな枠組みである大綱を決めるとしています。いじめ問題のように子どもたちに被害が及ぶような事態が発生した際にも、招集することができます。自治体の長が必要と認めた場合、会議の委員に有識者を加えることもできますから、長主導で、事態の対応に当たることもできるようになります。
こうした改革によって、いじめや体罰問題のような緊急事態への対処は可能になると言います。しかし、実際に機能するかは運用次第であることはこれまでと同じです。さらに制度をいじらなくても、教育委員会事務局の隠蔽体質を改善したり、委員会をすぐに招集できるような仕組みを作ったりすれば改善できたことで、いじめ問題を機に、教育委員会制度を変えようと前のめりに改革を急いだという印象は否めません。

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むしろ、総合教育会議が大綱でどんな事項を決め、具体的にどこまで踏み込めるか、あいまいなままの状態で、政治的中立性や、継続性・安定性に影響は出ないのかという心配があります。
文部科学省は、総合教育会議は、公開で行うことが原則となっていることから、自治体の長、教育委員会双方に対する住民の監視にもつながることで、政治的中立性も担保できる制度だと説明しています。ただ、総合教育会議を新設したからと言って、多くの住民が監視するといったことにはつながりません。仕組みを作れば終わりというのでは無責任です。新たな会議の設置が住民の教育行政への関心を呼ぶような仕組み作りができないかを考えるべきだと思います。
さらに、会議を招集する長が「学力テストの点数を何点上げる」といった、大衆受けする政策を地域の実態を無視する形で提案するなど、パフォーマンスの場として利用するといったことが起きた場合、歯止めをどうするのか。教育の継続性や安定性にも大きな影響を与えかねません。
規定の上では、長と教育委員会の意見が合わず、調整がつかない場合は、教育委員会は長に従う義務はないとされています。しかし、予算権や任命権を持つ長にたてついてまで教育委員会側が意見を通すことが果たしてできるでしょうか。自治体の長が暴走することを懸念する声は、与党内の議論の中でも多く出されたと言います。学校現場を混乱させないためにも国会審議の中で対応策について十分論議を尽くして考えておく必要があります。

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今回の教育委員会の改革論議は、途中から学校にとって何がよくなるのかという視点が欠けたまま進められことが最大の問題点ではないかと思います。一部の自治体の長が、教育行政という領域への権限拡大を声高に求め続ける中、肝心の教育委員会事務局の隠蔽体質や、身内意識を変えるための対策と言った本質的な問題をどう解決するかは法案の中から見えてきません。
政府与党は、今回の見直し案を重要な法案と位置づけ、十分な審議時間を確保する方針で、野党側は民主・維新の2党が共同で教育委員会を廃止する対案を提出しています。見直しをしてはみたものの、何も変わらなかった、むしろ現場はぎすぎすしたといったことがないように、残された問題点を解消する術を国会の審議の中で示して欲しいと思います。

(西川龍一 解説委員)

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