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時論公論 「理研調査委 "STAP細胞"最終報告」

中村 幸司  解説委員

弱い酸性の液体に浸すだけで「万能細胞」ができる。
世界中が注目したSTAP細胞の論文について、理化学研究所の調査委員会は、小保方晴子研究ユニットリーダーに2つの点で研究不正があったとする最終報告を公表しました。
これに対して、小保方さんは「承服できず、不服申し立てをする」としています。
STAP細胞の研究にどういった不正があったとされたのか。調査委員会と小保方さんの主張の違いは何か、見てみたいと思います。
 
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STAP細胞は、マウスのリンパ球の細胞を使った実験で、細胞を弱い酸性の液体に浸すというストレスをかけることで、作ることができたとされています。
こうした単純な操作で、どんな細胞にもなれる「万能性」を持つ細胞ができるということから、研究は注目されました。
 
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しかし、論文が科学雑誌ネイチャーに掲載されて以降、
▽画像などに不自然な点が相次いでみつかり、
▽ほかの研究者がSTAP細胞を作ることができていない、つまり「再現できない」といったことが指摘されていました。

このため、理化学研究所では6人の専門家らによる調査委員会を設けて調査を行い、2014年4月1日、最終報告を公表しました。
 
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調査委員会は、
▽小保方さんについては、2つの点で「研究不正があった」としました。
▽論文の共同著者で理化学研究所の笹井芳樹副センター長と
▽山梨大学の若山照彦教授の2人については、研究での不正行為はなかったとしましたが、データの正当性や正確性などについて自ら確認しなかったなどとして、「責任は重大」だと指摘しました。
 
不正とされた2つの点をみてみます。
ひとつは、論文の中で、STAP細胞の万能性を示す写真です。
 
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論文では、STAP細胞から変化したとする3つの種類の細胞の写真が示されています。
これはSTAP細胞がさまざまな細胞に変化する、つまり「万能性」を持つ根拠となる重要な写真です。
しかし、3つの写真は、小保方さんの博士論文の写真と極めてよく似ています。
 
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これについて、調査委員会では「博士論文と今回の論文とでは、異なる条件で行った実験であり、『間違えて使った』という小保方さんの説明は納得するのは難しい。データの信頼性を根本から壊す危険性を認識しながら行っていたと言わざるを得ない」として、「ねつ造」にあたる不正と認定しました。
一方、小保方さんは「単純なミスであり、不正の目的も悪意もありませんでした。そもそも、この取り違えについては、外部から一切指摘がない時点で、私が自らミスを発見し、報告したものです」と反論しています。
 
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不正とされた2つめは、STAP細胞が体の細胞から変化したものであることを示す画像です。この画像の白い筋の位置が、真ん中のリンパ球と一致していれば、STAP細胞はリンパ球からできたことを示します。真ん中のリンパ球の部分は、他のデータから切り貼りされ、縦方向の長さも変えられていました。
 
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調査報告では「きれいに見せたいという目的で行われた加工だとしています。さらに、その手法が科学的な考察と手段を踏まないものであることは明白だ」として、「改ざん」にあたる不正だとしています。
これに対して、小保方さんは「切り貼りせずに元のデータをそのまま載せた場合と結果は変わりません。そもそも改ざんをするメリットは何もなく、見やすい写真を示したいという考えから行ったにすぎません」とコメントしています。
 

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理化学研究所では、研究不正として、ねつ造、改ざん、盗用の3つを定めています。
▽ねつ造は、データや実験結果をつくりあげること、
▽改ざんは、データなどを変えたり、省略したりすること、
▽盗用は、他人の文章などを、了承なしに流用することを指します。
ただし、悪意のない間違いは研究不正に含まないとしています。
 
最終報告について、小保方さんは「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです。“悪意のない間違い”であるにも関わらず、改ざん、ねつ造と決めつけられたことは承服できません。このままではあたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず、到底容認できません」とコメントし、近く不服申し立てをする考えを明らかにしています。
 
調査委員会の調査は、指摘された問題点のうち、6つの点について行われました。研究不正とされた2点以外の4つの点については、不正は認められなかったとしています。
ただ、調査はこれだけでは、十分ではないと感じます。まだ疑問な点があるからです。
 
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その最大の点は、STAP細胞が存在するのかどうかです。論文の不正について検討するにあたって、その存在の確認は、非常に大きな点と考えられます。
つまり、今回の研究について、
▽実験でSTAP細胞を作ることができるのに、それを示す論文の書き方に問題があったということなのか、
▽実際には、できていないSTAP細胞が存在するような論文が書かれていたというのでは、不正といっても大きな差があると感じるからです。
 
STAP細胞の存在ついては、調査委員会の最終報告では明らかになっていません。
調査委員会は、論文の不正を調べるためのもので、STAP細胞存在の有無を検証するのは、調査委員会の役目ではないとしています。
では、その検証はだれが行うのでしょうか。第三者的な研究機関が行うことが必要ですが、論文に問題があると指摘されただけに、積極的な動きは、みられません。
こうした中、理化学研究所では、STAP細胞が存在するのかどうか、概ね1年の計画で検証することにしています。
 
理化学研究所の調査委員会は、最終報告を公表しました。しかし、STAP細胞の存在をはじめ、この問題で、明らかにしなければならないことは、残されていると思います。
 
こうした事態をなぜ防ぐことができなかったのかの検証も必要です。
 
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実験など研究の段階で、得られたデータそのもの、「生のデータ」を複数の研究者が見ていれば、気付いたかもしれません。特に、不正とされた画像の取り違えや切り貼りは、STAP細胞の万能性などを示す重要なものだけに、画像の生データを共同研究者がみて確認したり、保存したりしていれば、論文にするまでの段階で、気づいた可能性はあると思います。
 
また、研究グループの中で、STAP細胞を作成する実験を再現できることの検証が十分ではなかったのではないでしょうか。
「仲間の研究者を信じていたので、そうした意識にならなかった」ということだったのかもしれません。
ただ、この論文に関しては、その内容が「外からの刺激で万能細胞ができる」という、生物学の常識を覆すようなものだったことを考えれば、
▽どこかにミスがないか確認する、
▽万能性の確証をさらに深めるために別の実験を試みるなど、
もっと検証を重ねることができたのではないかと思います。
 
論文の掲載の段階はどうでしょうか。
「ネイチャー」では、専門家によるチェックのほか、コンピューター・ソフトを使った不正検出など対策をとっているということですが、今回、論文に問題があることがわからなかったことについては調査中としています。
 
日本の科学者の代表などで作る日本学術会議は、理化学研究所の調査委員会の委員長に内部の研究者がついていることについて、透明性などが必ずしも十分でないと指摘しています。調査が十分だったのか、さまざまな面から検討していくことも必要ではないでしょうか。
 
日本の科学に対する信頼を揺るがしかねない事態にまで広がった問題だけに、今後も、一つ一つの検証を着実に進めて、信頼回復につなげることが求められています。
 
(中村幸司 解説委員)

 

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