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時論公論 「ベビーシッター事件 今問われること」

藤野 優子  解説委員

インターネットの仲介サイトを通じてベビーシッターに預けられた2歳の男の子が、遺体でみつかった事件から1週間がたちました。
なぜ、安易に大事な子どもを預けるのかと疑問を感じた方もいた一方で、自分も他人事ではないと背筋の凍る思いをした人も多かったと思います。インターネットの仲介サイトに頼らざるを得ない親たちの存在は、今の保育制度が実態に追い付かず、子育てをしながら働くことの過酷な現実を突きつけました。今夜の時論公論は、今回の事件が浮き彫りにした課題と、子育て家庭を支えるために今の社会に何が問われているのか考えたいと思います。
 
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(足りない保育の受け皿)
働きながら子育てする親たちにとって、今、ベビーシッターは欠かせない存在となっています。
公的な保育サービスは、朝から夕方まで子どもを預かる保育所の他にも、親の外出の間子どもを預かる「一時預かり保育」や、行政が地域で子どもを預かってくれる人を仲介する「ファミリーサポート」などがありますが、預かってもらえる時間に制約があり、夜間や緊急対応は難しい状況です。また、親が夜勤や泊まりの勤務の時などに、子どもを預かってくれる「宿泊保育」もありますが、受け入れの人数も少なく、今、こうした公的な保育の受け皿からこぼれ落ちた子育て家庭の間で、ベビーシッターの利用が広がっているのです。
 
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(見えてきた課題)
しかし、今回の事件は、二つの課題を浮き彫りにしました。
ひとつは、ベビーシッターに対する行政のチェックが行われていないということです。
ベビーシッターには国家資格がなく、自治体への届け出の義務もありません。法的な規制もないため、サービスの質を行政は全くチェックしていません。事業者の数も500社ほどあるとも言われていますが、正確な数はわかっていません。
サービスの質もバラバラです。民間の認定資格を持っている人もいますが、保育や育児の経験のほとんどない人が請け負っている場合もあります。
このため、料金にもばらつきがあります。登録しているベビーシッターに研修を義務付け、万が一の場合の保険も備えている事業者は、日中子ども一人あたり一時間の利用料が1500~2000円。
一方で、今回の事件のケースのようなインターネットの仲介サイトは、研修や保険もないところが多く、半額の一時間1000円程度。
今回、亡くなった男の子の母親は、「お金のこともあって、他に預け先がなかったので、利用していた」と話していましたが、経済的に余裕のない人には、低料金のインターネットの仲介サイトを利用する傾向が広がっているとみられています。
 
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そして、もう一つの課題は、インターネットの仲介サイトの匿名性にリスクがあったということです。
今回の事件で、容疑者の男は、苦情やトラブルが相次いだため、偽名を使って、母親と連絡を取り合い、別の男性に迎え役を頼んで、子どもたちを預かったと見られています。
 
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このように、名前、住所などの詳細な本人確認を行っていない仲介サイトもあり、偽名で登録している人が他にもいる可能性もあります。
また、今回の容疑者は、以前別のこどもにやけどを負わせていたにもかかわらず、仲介サイトから排除できていませんでした。しかも、トラブルは当事者同士で、と責任を負わない仲介サイトも多いのです。
 
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ただでさえ、子どもが巻き込まれる事件が相次いでいる中、匿名でベビーシッターを請け負えるというシステムそのものが、大きな危険性をはらんでいることを、仲介サイトの運営会社も、利用する親も、認識しなければなりません。
 
それでは、こうした問題に、今、どう対応すべきなのか。
まずは、子どもを預かる側、ベビーシッターの仲介サイトの実態把握と規制です。国の担当者は、驚くことに仲介サイトの存在を知りませんでした。このため、事業者の数やサービス内容、仲介方法など一から調査した上で、規制を検討するとしています。
やはり事業者には、最低限でも、本人確認を徹底すること、そして、過去にトラブルや虐待の疑いがないかを確認した上で、利用者に紹介することを、義務付ける必要があると思います。
 
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そして、それ以外のベビーシッター事業者に対しても、自治体への届け出を求めたり、国家資格は難しくとも民間の認定資格の仕組みを拡充したりすることも必要です。
 
また、子どもを預ける側、利用者にも自覚を促す必要があります。
ベビーシッターというのは、子どもと1対1の保育が基本で、密室の中で保育が行われるため、子どもを預けている間、どういう保育が行われているのか、親はわからないというリスクがあります。だからこそ、できるだけ事前に、その人の人柄や保育の仕方を自分の目で確認する必要があります。特に、インターネットの仲介サイトで、ベビーシッターを探す場合、連絡先や住所、保育の経験や実績、子どもを預けている間の活動記録をつけているか、保険への加入はできているかなど、事前に面談して、慎重に判断しなければなりません。また、そのためには、事業者に情報公開をもっと徹底させる必要がありますし、苦情やトラブルを再発防止につなげることも必要です。
 
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そして、何よりも、公的な保育の受け皿を増やすことが求められています。
国は、来年度から始まる予定の新しい子育て支援制度で、ひとり親家庭で保育が出来ない場合や宿泊保育が必要な場合などに、市町村の認可を受けたベビーシッターを派遣する制度を設けることにしています。こうした低所得やひとり親家庭の保育の受け皿を急いで増やす必要があります。
また、厚生労働省の調査では、ひとり親家庭のうち、宿泊保育のような公的なサービスがあることを知らない人たちが半数にのぼることがわかっていて、そうした人たちに、確実に支援が届くように、情報提供をより丁寧に行うことも重要です。
 
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しかし、事業者への規制を強化しても、公的な保育の受け皿を増やすにしても、限界があるのも事実です。
そこで、今回の事件を受けて、私たちは、そもそも子どもたちを地域や社会の中でどう育てていくのかを考える必要があると思います。なぜなら、今回の事件は、地域のつながりが希薄になったことで、支援の手を求めて安易にインターネット利用に走ってしまったという面が否めないと思うからです。
 
ここで、地域の中で子育てを支える人材を育てて、「地域の育児力」をあげようと取り組んでいる東京・港区のNPOの例を取り上げたいと思います。
 
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ここでは、10年前から、子育てが一段落した人などに、子どもの発達に関する専門知識を学習してもらい、子育て支援者を養成しています。
そして、認定を受けた人たちに、生後7日の赤ちゃんから小学校6年生までの子どもを、理由を問わずに預かる活動をしてもらっています。宿泊を伴う保育や緊急保育などにも対応していて、料金も日中は一時間900円。
この支援に取り組んでいる人たちは、港区だけでおよそ700人に上っています。
また、活動実績の豊富な人には、子育て広場でコンシェルジュとして、それぞれの家庭に必要な支援を結びつける活動をしてもらったり、親にも育児を学んでもらおうと子育て講座も開いたりしていて、現在の登録利用者は3500人を超えています。
 この活動を下支えしているのが自治体です。支援者の研修の費用など経費の7割を支援しています。地域の人たちと親が顔の見える関係を築き、ともに子育てをしていく。この港区の例は、多様な働き方が広がり、様々な保育ニーズがある中で、受け皿の整備がなかなか追いつかないという課題を解決する一つの方法ではないでしょうか。
 
(まとめ)
失われた地域のつながりをもう一度再構築して、子どもや子育て家庭を支える力をそれぞれの地域でつくりあげる。また、親も日頃から地域に溶け込み、人間関係をつくっていく努力をしていく必要があります。
私たちは、今回の事件で、「顔の見える」相手との信頼関係のもとで、子どもたちを育てていくことの大切さを、改めて見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
 
(藤野優子 解説委員)
 

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