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時論公論 「プーチン演説 クリミア編入へ」

石川 一洋  解説委員

プーチン大統領は、日本時間の昨夜8時からクリミア問題について重大演説を行い、クリミアをロシア領に編入する手続きを進めることを明らかにしました。これに対しウクライナおよび国際社会はウクライナ憲法および国際法に違反し、無効だと激しく反発しています。
今ロシアと欧米の関係は冷戦終結、ソビエト連邦崩壊後最大の危機にたとうとしています。

●なぜプーチン大統領がここまで強硬にクリミア併合に踏み切ったのか
●この決定によってロシアと欧米との関係はどこまで悪化するのか。そして中国の動きは。
●そしてこの危機の日本への影響、そして日本は果たすべき役割はあるのか。
こうした点について解説いたします。
 
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16日のクリミアでの住民投票でロシア編入が圧倒的多数で承認されたのを受けて、プーチン大統領はクレムリンのゲオルギーの間にロシアの上下両院の全議員、そして知事など地方の代表を集めて重大演説を行いました。

「クリミアとセバストポリの皆さん、皆さんはロシア市民だ(拍手)」

プーチン大統領はクリミアの代表とともにクリミアの編入に関する条約に署名し早ければ、今週中にも議会で承認される見通しです。
 
●プーチン大統領はなぜ強い批判があることを見越したうえで編入に踏み切ったのでしょうか。
 
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一つは血で贖って守ってきた土地クリミアに対するロシアの強い思いです。
クリミア特にセバストポリに行きますと確かに山の上まで19世紀以来のロシア軍人の墓に覆われています。ソビエト時代ウクライナ出身のフルシュチョフ書記長の一存でロシアからウクライナに帰属替えした経緯もありました。
そして先月ウクライナの首都キエフで起きた反ロシア親欧米の革命対する強い不信、不満です。クリミアまで反ロシアの革命に覆われてしまうのではないかという恐れ、さらにそもそもクリミア問題を連邦崩壊の時に収めたのは、ウクライナがロシアと友好的な国家になると考えたからだ。反ロシア国家になるのなら、その約束に縛られないと考えたのかもしれません。
住民投票の結果が95%を超える圧倒的な多数であったという事実。燃え上がる愛国心の流れをプーチン大統領としても止められなかったのかもしれません。
しかしこうした論理はすべてロシアの一方的な言い分にすぎず、ロシア編入は国際社会にとっては認められるものではありません。
アメリカもヨーロッパも日本も国際法およびウクライナ憲法に違反しているとして、クリミアの住民投票の結果そのものを認めないとしています。
軍事力でまず掌握し、続いて住民投票で帰属替えを問う、まさに19世紀から20世紀、第2次世界大戦にいたる帝国主義的な手法であると断じざるを得ません。
 
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私はソビエト連邦崩壊の時からロシア、ウクライナを取材してきました。その私にとっても今回のロシアによるクリミア併合はこの20年の歩みが何だったのか、痛恨の極みです。
1991年12月ウクライナが国民投票で独立を決め、その結果としてソビエト連邦は崩壊しました。当時からロシアとウクライナの間にはクリミアの領有権をめぐる問題が横たわっていました。
しかしその当時の両国指導部はもしも国境線で争えば、旧ユーゴスラビアのような内戦になりかねないとして、ソビエト時代の国境線をそのまま認めようと妥協したのです。
 
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その合意を23年後の今のロシアが踏みにじったことになるのです。

また94年12月のアメリカ、ロシアが署名したブタペスト覚書への明白な違反であります。連邦崩壊後のウクライナは戦略ミサイルをはじめイギリスやフランスを上回る核兵器を保有していました。ロシアも含め国際社会の努力によってウクライナが核不拡散条約に非核国として加盟して核兵器を放棄させました。その代償として、ウクライナの安全と領土の統一性を保障したのがこのブダペスト合意だったのです。
 
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今回のクリミア併合はウクライナの核放棄と一体となった合意を踏みにじるものであり、核不拡散体制の強化にとっても悪影響を与えると言わざるを得ません。
ウクライナはもちろん、欧米がロシアを厳しく非難したのは当然のことと言わざるを得ません。
 
●ロシアは今後さらなる領土の拡大に踏み切るのでしょうか。
ロシア系住民が数多く住むウクライナ東部の状況が懸念されます。クリミアの結果を見て、ロシアへの編入を求める運動が起きて、流血の事態ともなっているからです。ただ私は、ロシアがそこまで介入する可能性は少ないと見ています。介入すれば戦争となり欧米との決定的な対立になるからです。
OSCE欧州安保協力機構の監視団を早急にウクライナ全土に派遣する必要があります。またウクライナ暫定政権も今は欧米派や民族派しか含んでいませんが、東部の親ロシアの代表も加えて、挙国一致内閣を早急に組織すべきでしょう。ロシアに対しても国際社会が一丸となって強い警告をする必要はあるでしょう。
 
●欧米とロシアとの関係はどのようになるでしょうか。
プーチン大統領は「欧米は明らかに超えてはならない一線を越えた」と述べて欧米に対する不快感を露わにしました。
アメリカとヨーロッパは、今回の事態に責任があるロシア指導部の資産を凍結するなどの制裁を発表しました。ロシアにとっては織り込み済み、痛くもかゆくもない制裁です。ただ昨日の編入表明を受けてアメリカ、ヨーロッパはさらに経済制裁にまで踏み切る可能性が強いでしょう。おそらくロシアをG8から排除する方向に進むでしょう。もはや同じ価値観を持った国とは見なせないからです。そうなりますと冷戦崩壊後曲がりなりにもロシアをG8、欧米の一員として扱ってきた国際社会の枠組みが破たんしたことになります。
 
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●ただ私が注目しているのは中国の慎重な態度です。ロシアの行動を承認はしませんが非難もしません。今回の欧米とロシアの対立は中国にとってまさに漁夫の利ともいえ状況です。
今後ロシアと欧米の対立が激しくなれば、ロシアは中国との軍事同盟に踏み切るかもしれません。ロシアの軍事力と中国の経済力が一体となった時、その時まさに新たな冷戦となりかねません。
そのため特にアメリカはロシアへの制裁と孤立をどこまで進めるべきか苦慮しているのでしょう。
 
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●では日本はどのような対応をすればよいのでしょうか。
日本としても力による領土の変更は認めるわけにはいきません。国際社会と一体となってロシアの行動を非難しなければならないでしょう。ただ率直に申し上げればこれはヨーロッパの対ウクライナ政策、対ロシア政策の破たんです。
主要な支援国としてウクライナを導いてきたヨーロッパがウクライナの自立に失敗した結果がこうした事態を招きました。
本来はヨーロッパの地域問題であるはずが、その波及効果として、中ロ軍事同盟ができればその矢面に立つのは、ヨーロッパではなく、アジア太平洋であり、日米同盟、つまり日本です。
日ロ関係を重視するという日本の政策は、私はヨーロッパやアメリカと異なる北東アジアの安全保障環境から考えて当然の事だろうと考えます。

ウクライナ危機、特にクリミア半島の問題は19世紀ならともかく、21世紀の今、本来各国がここまで対立する問題ではありません。日本としてはロシアに対して国際社会との協調に戻るよう説得し、同時にロシアの利益も考慮した落としどころをさぐり、各国を交渉のテーブルに着かせる粘り強い外交を行うべきでしょう。
1920年代 国際連盟の事務局次長だった新渡戸稲造は、スウェーデン系の住民が多数を占めるフィンランド領オーランド諸島をめぐるスウェーデンとフィンランドとの領土問題を見事に調停しました。
フィンランド領に残しながらも、スウェーデン系の高度の自治を認める妥協案で、クリミア問題にも応用できる解決方法です。
ロシアがクリミアの一方的編入を決めた今となっては、なかなか難しいのは事実ですが、今回のウクライナ危機もそのような解決方法を見つけなければなりません。
関係各国とりわけロシアに冷静さと国際社会の声に耳を傾ける謙虚さを望みます。
 
(石川一洋 解説委員)
 

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