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時論公論 「子宮頸がんワクチン 納得の条件」

飯野 奈津子  解説委員

子宮頸がんワクチンを接種した後、原因不明の痛みなどを訴える女子中高生が相次いでいる問題で、中止しているワクチン接種の呼びかけを再開するかどうか、国の専門家会議の議論が大詰めを迎えています。娘の健康を願う親たちから厳しい目が注がれる中で、だれもが納得できる判断を示すことができるのか。
今夜は、そのための条件を考えたいと思います。
 
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<なぜ呼びかけを中止したのか?>
子宮頸がんワクチンの接種の呼び掛けが中止されたのは去年6月のことです。
まず、なぜ、呼び掛けが中止されたのか、この点を確認しておきます。
 
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このワクチンは、子宮頸がんの原因となる60%程度のウイルスの感染を防ぐとされています。使われて日が浅いので、実際にがんの発症予防につながったことは証明されていませんが、子宮頸がんで命を落としたり子供を産めなくなったりするリスクを減らせればと、世界100カ国以上で使われ、WHO世界保健機関も安全性に問題はないとしています。このため、日本でも法律に基づく定期接種となって、小学6年から高校1年の女の子を対象に積極的に接種が進められてきました。
その方針が大きく転換されたのが去年6月。ワクチンを承認する時には問題としてあがっていなかった、接種後に、原因不明の全身の痛みが長く続く症状が国の専門家会議に報告されたからです。
 
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ただ、6月の時点では、報告されたケースが限られていたので、ワクチンに重大な危険性があるとはいえないとして、接種そのものは継続。その一方で全身の痛みについてわからないことが多く、保護者や子供に的確な情報を提供できないとして、接種の呼びかけを中止することにしました。その上で、全身の痛みなどが起こる頻度を調査すること、子供たちが診療を受けられる体制を整えること、ワクチンとの因果関係を究明すること。この3つを進めて、的確な情報を提供できるようになったら、呼び掛け再開を検討しようということになったのです。
 
<専門家会議の議論>
それから8か月余り。国は、原因不明の痛みなどについて調査をすすめ、全国17の病院で子供たちが診療を受けられる体制を整えました。それを受けて専門家会議では、ワクチンとの因果関係を検討し、接種の呼びかけを再開するかどうか、最終段階の議論にはいっています。これまでに何が明らかになり、議論はどう進んだのでしょうか。
 
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●まず、副作用が疑われる重い症状が出たと医療機関や製薬会社から報告された件数です。去年9月までに接種を受けた337万人のうち全身の痛みや歩けなくなったりする運動障害の報告は130件。10万人あたり4人の割合でした。
この報告頻度をどう見るか、今後議論されますが、海外では同じような症状はあっても数が少なく、問題になっているケースはほとんどありませんでした。
 
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●焦点になったのは、こうした症状とワクチン接種との因果関係をどう考えるかです。専門家会議はまず、ワクチンの成分が直接原因となった神経の病気なのか、中毒なのか、免疫反応の異常なのか、その可能性を検討した上で、いずれも考えにくいとしました。患者の症状を、これまで知られている神経や免疫障害などの病態と照らしてみると、説明できない部分があったからです。消去法で残ったのが心身の反応です。今の医学的な見地から身体的な病気として説明できないなら、心理的な影響も考えざるを得ないというわけです。このワクチンは含まれている成分の影響で、針を刺したところに強い痛みがあるので、接種した時の痛みや緊張、不安などが、心身の反応を引き起こしたと考えられるという見解をまとめました。
 
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●そして、子供たちへの診療についても、心身の反応で起きたことを前提に、カウンセリングやリハビリをくみあわせて行うことが重要だと指摘しています。
 
<親たちの不信感>
専門家会議は、こうした議論の結果を報告書にまとめた上で、接種の呼びかけを再開するかどうか判断するとしています。しかし、原因を心身の反応とした見解に対しては、ワクチンによる健康被害を訴える親などから疑問の声があがっています。
 
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子供たちの症状は、全身の痛みや歩行障害だけでなく、意識の消失や計算ができなくなる計算障害、記憶力や視力の低下など様々で、ワクチン接種から3年以上たっても症状が続いている子供もいます。
これほど深刻で多様な症状が、本当に心身の反応だけで起きるのか、他にも原因があるのではないかという思いが、親たちの間にあるのです。これに対して専門家会議は、心身の反応でもあらゆる症状が起きる可能性があるとしていますが、心身の反応を前提にしたカウンセリングとリハビリの診療を受けても、症状が改善しない子供もいて、そのことが不信感につながっています。
どういうことかというと、国が整備した病院のうち、およそ半数は、心身の反応を前提にした痛みの診療を行っています。そこでの診療結果がこちらです。
 
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診療を継続している中で、痛みが改善したと答えたのが64%、変わらないが33%、悪化したが3%です。専門家会議は64%の子供が改善したことを評価していますが、どんな治療を行ってどう改善したのかよくわかりませんし、症状が改善していない子供のことは、触れていません。しかも、診療を継続しているのは36人ですが、そこにも入れない子供もいます。「ワクチンが原因だという思い込みがあるからよくならない。お母さんが大丈夫?と声をかけるから悪くなる」そうした医師の言葉に不信感が募り、診療を断念するケースです。
これでは、原因は心身の反応で、それを前提にした治療を受ければよくなるといわれても、納得できないというわけです。
 
<納得の条件>
では、こうした状況をどう考えればいいのでしょうか。
専門家会議は、ワクチン接種を受ける子供や親が納得することが重要だとしていますから、どうすれば納得してもらえるか、その点を最優先に考える必要があると思います。
 
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具体的には
●心身の反応を前提にした診療で、子供たちの症状が改善する事実をきちんと示すことです。一定程度時間がかかるかもしれませんが、子供たちが元気になっていけば、不安を抱える親も納得しますし、原因を、心身の反応とすることに、説得力も出てくると思うからです。
●逆にそうした事実を示せないようでは、納得は得られませんし、事実を示せない今の段階では、原因を心身の反応に絞らずに、ほかにも原因があるかもしれないという前提で、対応することが必要ではないでしょうか。
具体的には、原因究明の調査や研究を進めることです。専門家会議は今の医学的な見地からあらゆる可能性を考えたとしています。しかし子宮頸がんワクチンには新しい成分が含まれているので、今の医学的な見地を超えた未知の副作用が起きている可能性がないとはいえないと思うからです。もうひとつは、診療体制の整備です。心身の反応を前提にした診療だけでなく、他の診療科もあわせて体制を整える必要があります。実際にいくつも病院を回って症状が改善しなかった子供が、神経の病気や自己免疫が関係する脳の障害と診断されて、治療を受け改善するケースも出てきているからです。初めから心身の反応と決めつけずに、患者の病態をきちんと診断して治療することが大事だと思います。
 
<まとめ>
ワクチンを接種するのかどうか、最終的に判断を迫られるのは、当事者である子供と親です。その時に一番気になるのが副作用の情報です。今回問題になっている子供たちの症状について、誰もが納得できる説得力のある説明ができるのか。国の専門家会議には、慎重に議論した上で、接種の呼び掛けを再開するかどうか、判断してほしいと思います。
 
(飯野奈津子 解説委員)
 

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