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時論公論 「ウクライナ危機の行方・ロシア軍クリミア掌握」

石川 一洋  解説委員

ロシアとヨーロッパに挟まれたウクライナでは親ロ政権が崩壊、親欧米の暫定政権が樹立しました。プーチン大統領はロシア系住民の保護のためとして、ウクライナ領クリミアでの軍事行動を命じ、事実上クリミアをロシア軍が掌握しました。アメリカがロシアを強く非難、欧米や日本などG7はソチでのG8サミットの準備を中断しました。きょうはロシアが事実上軍事介入したウクライナ危機の行方を考えます。
 
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●ウクライナとは
私は連邦崩壊前後から何度もウクライナを取材してきました。東部のハリコフも、西部のリビウも、クリミアも、そして首都キエフも取材したことがあります。首都キエフは、ドニエプル川河畔の誠に美しい街で、この町で流血の革命が起こるとは想像したこともありませんでした。欧米を指向する西部とロシアと近い東部という政治対立は常にウクライナ政治の中心でした。
しかしその対立は決して流血にまで至ることはなく、「ウクライナの利益を優先させる東と西の妥協」がウクライナ政治の本質でした。ロシアからの圧力はあったものの、ウクライナの領土の統一が脅かされることはありませんでした。
 
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●しかし今回はウクライナそのものが分裂の危機に瀕する中で、まさにロシア軍によって領土の統一が脅かされています。これまでの経緯です。
 
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去年11月ヤヌコービッチ政権がEUとのパートナーシップ協定の調印を停止したことをきっかけに抗議行動が始まりました。治安部隊の銃撃で八〇人以上の死者が出る中、抗議行動も武装して抵抗を強めていきました。先月政権が崩壊、欧米寄りの野党のトゥルチノフ大統領代行、ヤツェニューク首相を中心とした親欧米の暫定政権が樹立しました。しかしロシア系の多いクリミアが分離の動きを見せる中で駐留ロシア軍が事実上現地を掌握しようとしています。
 
●プーチン大統領の意図は何か
プーチン大統領の意図は何でしょうか。ロシア軍が活動するクリミアはここです。
クリミアでのロシア海軍の駐留自体はウクライナとの条約に基づくものです。しかしロシアの軍事活動は明らかに条約の枠を超えています。
プーチン大統領の狙いは暫定政権に対する軍事的な圧力によってクリミアと東部への革命の波及を食い止めること、そして、暫定政権に親ロシアの東部の意向を反映させ、ロシアの影響力を維持しようとしているのでしょう。
しかしウクライナ暫定政権がクリミアでのロシア軍の動きをロシア軍の侵略と非難しているのは、当然のことで、暫定政権はウクライナ軍を戦闘準備態勢に置いています。
プーチン大統領の決定は両国の軍事衝突を招きかねません。大量の武器がすでに流出しており、ロシア自身が泥沼に入り込む危険を冒しているといってよいでしょう。
大変危険な賭けと言わざるを得ません。
 
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●首都キエフでの革命
何故事態はここまで先鋭化したのでしょうか。
キエフでの政変、その本質は、民衆の蜂起による革命であり、暫定政権は革命政権です。
これまでの妥協を本質とするウクライナ政治のもう一つの側面は、それぞれの財閥による利権の分配、親ロシアであろうと親西欧であろうと、既成の政治指導者は、政権につけば近親者に利権を与え、私腹を肥やし、貧富の差は拡大しました。
きっかけは東西の綱引きだったものの、腐敗した既存の体制に対する民衆の怒りに火が付き、暴力的な革命となったのです。
 
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●暫定政権とは
親欧米の暫定政権で影響力を強めているのは、ウクライナ西部の民族主義勢力です。西部ウクライナは第二次世界大戦中にソビエトに武力で併合され、極めて強い反ロシア感情を持っています。
ウクライナ民族主義者は、革命の主体となり、多数の流血の犠牲の上に政権を打倒したのは自分たちだと考え、暫定政府の名簿も彼らの同意を得て作成されました。すでに自らの手に武器を持ち、治安機関の枢要なポストも押さえています。
 
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●緊張高まるクリミア
クリミアや東部のロシア系住民は歴史的に、西部の民族主義には否定的な感情を強く持っています。暫定政権がロシア語を準公用語化した言語法を廃止したことも、東部やクリミアでも革命の継続を唱えるのではないか、キエフへの反発を強めました。ロシア系住民はいわば「ウクライナ化したウクライナ」で自分たちは二流市民として扱われるのではないかと恐れているのです。
 
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特に緊張が極度に高まっているのがクリミアです。
クリミアはウクライナ内部の自治共和国で一定の自治権をもち、ロシア海軍の基地が存在します。ソビエト時代、1954年代まではロシア共和国に含まれていましたが、ソビエト中央の決定でウクライナに帰属替えとなりました。
しかしロシア系住民が60%以上を占めて歴史的にロシアに強い帰属意識を持っています。キエフでの革命の後、クリミア自治共和国政府は、ロシアに保護を求め、それを口実にプーチン大統領はクリミアに軍を展開させたのです。
 
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先週末、比較的平穏だった東部でも、中心都市のハリコフ、ドネツクなどで、ロシア系住民が大規模なデモを行い、行政府を占拠してロシア国旗を掲げました。
 
暫定政権もウクライナ民族主義に傾くのではなく、こうしたロシア系住民の不安を取り除く政策を取る必要があるでしょう。
 
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●欧米の反発と危機脱出の糸口は
オバマ大統領「ロシアがウクライナに軍事介入すれば、必ずコストを支払う」

欧米がウクライナ領内でのロシア軍の動きに厳しく反応したのは当然のことです。
ウクライナの領土の一体性を維持に対する明白な挑戦だからです。アメリカやイギリスはロシア軍がクリミアの基地まで即時に撤退することを要求し、アメリカやイギリス、日本などG7はソチでのG8サミットの準備を中断しました。アメリカは経済制裁も検討しています。
ただ救いは、軍事衝突には至らず、活発な外交交渉が続いていることです。
ドイツのメルケル首相はプーチン大統領を説得し、クリミアへの国際監視団の派遣に同意させました。ウクライナ暫定政権、クリミア自治政府、欧米とロシアが、交渉の席に着き、危機から抜け出す方策を話し合うべきです。
危機脱出のポイントは国際的な監視の下で、早期に合法的な政権を樹立するために大統領選挙を行うことです。
ロシアも含めて危機脱出のためには早期の選挙が必要な点では一致しています。
 
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その際、忘れるべきではないのは、ウクライナは核・原子力大国であることです。

●核・原子力大国としてのウクライナ
ソビエトの核兵器産業の中核だったウクライナは未だに15基の原発が稼働し、核関連技術やミサイル技術を保有しています。もしもウクライナが戦争となれば、それはロシアやヨーロッパへの直接の脅威となるだけでなく、核・ミサイル技術の流出という観点で、国際的な脅威の源となりかねません。
最近アメリカの国際政治学者ブレジンスキー氏が、「EUへの加盟は進めるものの軍事同盟としてのNATOには加入せず、フィンランドのように中立を守る」という将来のウクライナ像を提示しました。
 
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ウクライナの将来への道筋を考える上でロシアの利益も考慮した提案です。
連邦崩壊後ウクライナが核兵器を放棄した時に、アメリカ、ロシアなどがウクライナの領土と安全を保証した「ブダペスト覚え書き」を調印しました。ウクライナの「フィンランド化」という将来の目標に向けて関係する大国が今一度確認すべき合意でしょう。

●ウクライナ債務不履行の危機
 そしてウクライナはまさに債務不履行の瀬戸際です。暫定政権によれば対外債務は1400億ドル、14兆円にのぼり、それに対して外貨準備高は一〇分の一しかありません。ロシアもヨーロッパもウクライナ経済に深く入り込んでいます。ウクライナが経済破たんすれば、ロシアもヨーロッパも大きな影響を受けるでしょう。ウクライナを救うのは、ロシアを含む国際協力しかありません。
ウクライナを債務不履行から救うという点も、ロシアと欧米が同じテーブルに座る理由となるでしょう。
 
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●まとめ
ロシア軍の介入は、大きな軍事衝突に至りかねない極めて危険な状態を作りだしています。ロシアが国際社会の声に耳を傾け、行動を自制し、ウクライナの領土統一を尊重すべきでしょう。
同時にウクライナとロシアと欧米は危機回避への話し合いを早急にはじめ、早期の大統領選挙実施に向けての政治プロセスに協力することを望みます。

(石川一洋 解説委員)
 

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