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時論公論 「新しい"万能細胞" STAP細胞 可能性と課題」

中村 幸司  解説委員

理化学研究所の30歳の女性研究者が、これまでの常識を覆す研究成果を発表し、国内外のから注目されています。細胞にストレスを与えて、皮膚や筋肉など、どんな細胞にもなれる万能細胞を作り出すことに成功したのです。
万能細胞といいますと、ノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞を思い出す人も多いと思いますが、iPS細胞より、「簡単」に作り出すことができるなどの特徴があり、再生医療への応用が期待されています。
「STAP(スタップ)細胞」と名付けられたこの細胞の可能性と課題について考えます。
 
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STAP細胞は、神戸市にある理化学研究所で研究ユニットリーダーをしている小保方晴子さんらの研究グループが作成しました。小保方さんは、趣味はペットとして飼っているカメの世話とショッピング、理科系の女子「リケジョ」の研究成果は、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。
STAP細胞は、どんな細胞にもなれる万能性をもっています。
研究が注目されているのは、
▽細胞の再生の研究で、「多くの可能性」を持っていると期待されていること
▽ほとんどの研究者がこれまでの常識では考えられないとする、その「意外性」です。
 
STAP細胞は、どのようにして作られるのでしょうか。
 
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実験はマウスを使って行われました。マウスのリンパ球を取り出して、弱い酸性の液体に30分ほど浸して培養します。これだけで、万能性を持つSTAP細胞になったのです。
万能性を持つ細胞としては、ほかにiPS細胞があります。iPS細胞は、すでにヒトの細胞で作れるようになっていますが、ヒトの皮膚の細胞を取り出して、細胞にいくつかの遺伝子を送り込みます。すると、遺伝子の作用で、細胞が万能性を持つようになります。
いずれの細胞も、分裂して神経や筋肉、皮膚、肝臓の細胞などあらゆる細胞になる万能性があります。
 
では、STAP細胞の持つ「可能性」とは、どういった点でしょうか。
 
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▽まずひとつは、「簡単にできる」ということです。弱い酸性の液体につけるだけです。さらにiPS細胞は作るのに2~3週間かかりますが、STAP細胞は1週間ほどです。また「効率的」に細胞を作ることもできるといいます。
▽「発がん性」です。iPS細胞は、遺伝子を入れてつくるため、がんになりやすいことが課題となっています。STAP細胞は遺伝子を直接操作していないので、iPS細胞のような、がんになりやすいということはないと考えられます。
 
さらに、STAP細胞の特徴を詳しく見てみると、iPS細胞より、「高い万能性」を持った細胞と考えられています。
細胞が1つの受精卵という何にでもなれるものから、役割を持つ細胞になる様子を考えてみます。
 
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細胞は、受精卵から、分裂を繰り返して、ヒトでいうと60兆個の細胞で、からだ全体ができています。これを木の幹に例えると、受精卵が細胞分裂するにつれて、次第に、細胞の役割が決まっていきます。下から上に、役割が枝分かれして細かく決まっていくのです。そして、血管や皮膚、神経などの細胞になります。
 
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いったん役割が決まると別の役割の細胞にはなれません。例えば、「皮膚」の細胞が「すい臓」の細胞になるということはできないのです。ましてや、受精卵に近い状態に戻るということは、通常はできません。
 
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iPS細胞では遺伝子の力を使って、人工的に、いわば「無理やり」受精卵に近い状態に戻しているのです。
STAP細胞は、iPS細胞より、受精卵に近いところに戻っていると考えられています。
 
では、この研究の「意外性」とは、どのような点でしょうか。
いったん役割が決まった細胞が、受精卵に近い万能性を持つことは、植物の細胞で起きることは知られています。しかし、動物では、細胞の外の環境を変える程度のことでは、万能性を持たせることはできないと考えられていました。
実際、小保方さんの周囲の研究者も、にわかには研究結果を信じられなかったと話しています。また、ネイチャーに論文を投稿した際も、当初は「あなたは過去数100年に及ぶ細胞生物学の歴史を愚弄にしている」と指摘され、受け付けてもらえませんでした。論文が掲載されるまで、データが確かであることを示す実験を繰り返したということです。
その「細胞生物学の歴史」では考えられないようなことに、小保方さんたちの研究グループは、どうして気づいたのでしょうか。
小保方さんは、細胞が万能であるかどうかが、細胞の大きさに関係あるのではないかという点に注目して研究をしていました。
 
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その研究の中で細胞を細いガラス管に通す実験をしたところ、管を通った細胞の中から、万能細胞がみつかったのです。細胞生物学の常識からすると、もともと管を通す前に万能細胞が混ざっていたと考えがちです。しかし、小保方さんは、現象を確かめる実験を行って、管を通った後に万能細胞に変化していることを確認しました。
そして、狭い管を通すというストレスが、「万能」につながると考えました。
そこで、細い管とは別に、例えば細胞膜をこわす毒の刺激などのストレスを細胞に加えてみました。刺激が強すぎると細胞は死んでしまいますが、刺激を弱めると、毒などのストレスで一部の細胞は万能細胞になったといいます。いろいろなストレスを試した結果、弱い酸性の液体に浸すというストレスだと効率的に万能細胞になったのです。
 
今回の研究の重要性をまとめると、
▽iPS細胞のように遺伝子の力を使うといったことをしなくても、細胞には受精卵に近い状態になるという能力が潜在的に備わっている
▽その能力をストレスを与えることで引き出すことができる
ということを示したのです。
 
この研究は、再生医療の発展につながると期待されています。
▽がんになりにくいことから、臨床の応用しやすい細胞である可能性があります。
▽iPS細胞の研究とともにSTAP細胞の研究を進めることで、細胞がどのようにして万能性を獲得しているのかという、そもそもの謎の解明が進むかもしれません。
そして、現在は、マウスでの実験結果ですが、ヒトの細胞でこうしたことができれば、再生医療実現に大きく貢献することが期待されます。
 
一方、課題もあります。
ヒトの細胞でできるかという点もありますが、
▽ひとつは、細い管などのストレスを受けるだけで、なぜ万能細胞になるのかはわかっていません。マウスの実験は、生まれたばかりのマウスで行っていて、大人のマウスではうまくいかないといいます。そのメカニズムの解明が必要です。
 
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▽そして、もうひとつ指摘しておきたいのは、生命倫理についてです。
 
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iPS細胞は様々な細胞が作れるといいますが、実は胎盤の細胞は作れません。これに対して、STAP細胞は胎盤の細胞になることもできます。STAP細胞は胎盤の細胞にも枝分かれでき、iPS細胞より受精卵に近い細胞だと考えられています。
STAP細胞は、万能性が高く、生命の源である受精卵に近いことから、その研究に生命倫理という観点から問題がないのかどうか。研究を進める中で、この点についても検討することが、今後求められると考えます。
 
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30歳の研究者による今回の研究成果。実験の結果が、たとえ数百年来の常識を覆すようなことであっても、先入観なしに正面から取り組んで、たどりつくことができたのは、その若さゆえだったのかもしれません。
iPS細胞と並ぶ、再生医療をけん引するような研究につながるよう期待したいと思います。
 
(中村幸司 解説委員)
 

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