時論公論  「雇用特区で働けますか?」2013年09月26日 (木) 

竹田 忠  解説委員

安倍総理大臣が、規制改革の突破口と位置づける国家戦略特区。
準備が急ピッチで進められています。

その特区の中で、
これまであまり情報が表に出ていなかったのが
雇用の分野で規制緩和を行う、いわゆる雇用特区です。
その検討状況が明らかになってきました。

社員を事実上、解雇しやすくしたり、
労働時間の規制をはずして、残業代をゼロにすることを認めたりと、
サラリーマンの働き方を大きく変えることが検討されています。

今夜の時論公論は、この雇用特区の及ぼす影響について考えます。
 
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▼雇用特区とは

まず、雇用特区とは何かといいますと、
安倍政権は、成長戦略の柱として、規制緩和を進めようとしています。
そこで課題となるのは、様々な分野でたちはだかる、
既得権益のあつい壁、いわゆる岩盤規制の存在です。

この岩盤を砕くため、地域や分野を特定して、
規制緩和や税制優遇を行って、突破口を開き、
その成果をテコに、全体の規制緩和に広げていく。
これが、新たに準備を進めている「国家戦略特区」のイメージです。
 
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分野としては、農業や医療、教育などで、
思い切った改革を行いたいところですが、
いまのところ、どれも岩盤は厚そうです。

そこで、今、にわかに焦点が集まっているのが
雇用分野について規制緩和を行う、雇用特区、というわけです。
 
▼何を変えるのか?

では、この雇用特区で何を行おうとしているのか?
大きくわけて三つあります。

一つは、解雇ルールの明確化。
二つ目は、非正社員のままの継続雇用。
そして三つ目が、労働時間規制の適用除外制度。
いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションの導入、この三つです。
 
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▼解雇ルール

まず、解雇ルールの明確化です。
これは、入社する際に、どのような場合に解雇となるか、
その要件を契約書面で明記しておき、
裁判になった時は、この契約が優先するよう、
労働契約法などで定めておくというものです。
 
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解雇ルールを巡っては、
今は、法律には一般的な規定しかありません。
このため、結局、裁判になってみないと
解雇が認められるかどうかはわかりません。

これに対し、特区では
企業と労働者が結んだ契約にもとづいていれば
解雇をしやすくしようというもので、
たとえば、遅刻をすれば解雇できる、という契約になっていて、
本当に遅刻すれば、
解雇が成立する可能性が高くなります。

いくら事前に雇用契約で双方が合意しているといっても、
立場の弱い労働者が、不利な条件を飲まされるおそれがあるだけに、
こうしたことを、わざわざ法律で定める、ということに
専門家の間から、強い疑問の声があがっています。
 
▼非正社員のまま継続雇用も

二つ目は、非正社員を、ずっと非正社員の立場のまま、
継続雇用できるようにする、というものです。

これは、どういうことを言っているのかといいますと、
今年4月、改正労働契約法が施行になりました。
これによって、パートや契約社員など、非正社員が、5年を超えて継続勤務した場合、
本人が希望すれば、正社員に転換できる(雇用契約が有期から無期になる)という
新たな制度ができました。

これに対し、この特区では
非正社員が入社する際、将来、この正社員に変わることのできる権利を
みずから、あらかじめ放棄することを認めるというものです。

なぜ、このようなことを言っているのかといいますと、
もともと、今回の法改正をめぐっては、
正社員に転換できることで、雇用が大きく安定するという見方と、
逆に、正社員に転換すると企業の負担が増えるため、
企業がそれを避けるため、5年を前に、
非正社員を次々と雇い止めにするのではないか、
そうなると、かえって雇用が不安定になるのではないか、
という両方の見方があります。

特区としては、この後者の考えに沿っているわけで、
結局、非正社員は、正社員になることをあきらめた方が、
会社に長く雇ってもらえるだろうとみているわけです。
 
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確かに、会社としては、その方が
低賃金のまま、非正社員を長く使えることになり、ありがたいことでしょう。

しかし、これでは、せっかく、法改正によって生まれた権利が、
特区の中の一部の非正社員には及ばない、ということになってしまいます。

こういうことが、許されていいんでしょうか?
 
▼ホワイトカラーエグゼンプションの衝撃

そして三つ目が、かつて、第一次安倍政権で導入を目指したものの、
残業代ゼロ法案などと批判されて、法案提出を断念した、
労働時間規制の適用除外~ホワイトカラー・エグゼンプションです。

ホワイトカラー・エグゼンプションとは、
文字通り、ホワイトカラー、つまり事務系の社員のうち、
一定の条件を満たす人を、労働時間の規制から、
エグゼンプション(除外)する制度で、アメリカで行われている制度です。

働く人が、この制度の対象になると、
労働基準法の時間規制から外れますので、どれだけ働いても自由です。
そして、残業という概念も、なくなります。

残業という概念がないわけですから、
どんなに働いても残業代はつきません。
このため、「残業代ゼロ法案」などと言われるわけです。
 
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なぜ、このような制度を導入しようとするのか?
それは、工場などの生産現場で働く人の場合は、
労働の成果は、働いた時間の長さにほぼ比例します。

しかし、ホワイトカラーと呼ばれる事務部門では、
労働の成果と、働いた時間が比例するとは限りません。

たとえば企画書を書く、という仕事を早く終えて帰る人もいれば、
いつまでたってもなかなか終わらない、という人もいます。
なのに、今は、時間の長さに応じて残業代などを払っています。

この結果、仕事が遅く、時間が長くかかった人の方が、
賃金が多いということになります。

この新たな制度が導入されれば、こうしたことはなくなり、
あくまで仕事の成果に応じて賃金が払われるということになります。
 
ここまでが、導入を主張する経営側の理屈です。
しかし、その反面、この制度が導入されれば、
ただでさえ、滅私奉公で、働きすぎの毎日を送る人たちが
際限のない長時間労働に追い込まれるおそれがあります。

今でも、すでに管理職は、時間規制から外れていますので、
この新たな制度の対象になるのは、
管理職一歩手前の人たち、ということになります。

出世競争が大きな節目に来ている時に
時間規制まで外されれば、一体、どういう結果になるのか。

結局、労働強化や賃金の抑制に使われてしまうのではないか、
そのおそれは消えません。
 
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▼“雇用”は特区になじむのか

安倍政権は、この特区の準備を急ピッチで進めています。

来月中にも国家戦略特区として地域を正式決定し、
臨時国会に関連法案を提出する構えです。
 
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問題なのは、本来、こうした、働く人の権利や、
健康や命にさえかかわるような重大な話しが
労働者の立場を代表するもののいない所で、
検討がドンドン進められているということです。
 
本来、こうした労働者を保護するための労働法や働き方を見直すためには
厚生労働省の労働政策審議会など、
労働者の代表が入っている場所で議論することが必要です。

しかし、今、特区の議論は、こうした過程をすっとばして、
一部の専門家だけで行われています。
そして、特別法を作って、
特区に限っては、労働法の適用を受けない、というような形で
一気に進めようとしているわけです。

労働者を保護する法律が、
一部の労働者には及ばない、ということになるわけです。

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提案したいことがあります。
こういう問題こそ、政府と、労働界と、経済界のトップが一堂に集まる
新たに設けられた政労使会議で、話すべきではないでしょうか?

連合は、安倍政権が進める、こうした雇用制度改革に巻き込まれることを嫌って
政労使会議で雇用の規制緩和を議論することには消極的なようです。

しかし、それでいんでしょうか?

雇用は社会の要です。
その雇用の在り方が今、
少子高齢化や企業の国際化の進展、
そして正社員と非正社員の広がる格差など、
様々な点で大きな曲がり角に来ています。

単に賃上げ問題にとどまらず、
日本の経済や社会の在り方を含めた大きな視点の中で、
働き方をどう見直すべきなのか、
その中での規制緩和とは、本来どうあるべきなのか、
政労使のトップが、広く国民に問いかけながら議論すべきだと思います。

(竹田 忠 解説委員)