2008年12月26日 (金)時論公論 「介護現場は変われるか?」

(金子キャスター)
ニュース解説時論公論です。介護サービスを提供する事業者への報酬を来年度から3%引き上げ、サービスごとの報酬額もきのう決まりました。これで介護現場の人手不足を解消できるのか。飯野解説委員がお伝えします。

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こんばんわ。
暮らしの安心を支えるセーフティネットがいかに脆弱か、痛感させられる一年でした。契約の打ち切りなどによって、派遣労働者や期間従業員が次々に解雇され、住宅も同時に失って、師走の寒空に放り出される事態まで起きました。
きのう報酬がきまった介護現場でも、賃金が安いために人材が集まらず、ベッドはあるのに、お年寄りの受け入れいれを制限する施設も出てきています。はたして暮らしの安心を取り戻すことができるのか。今夜は決まったばかりの介護報酬から、これからの課題を考えていきます。

 

<報酬改定の全体像と配分>
介護報酬は、訪問介護や通所介護などサービスの種類ごとに細かくきまっていて、3年に一度改定されます。今回は、2000年の介護保険制度発足以来、初めての、引き上げとなりました。
これは、これまでの介護報酬の改定率です。過去2回はマイナス改定でしたが、2009年度は3%のプラス改定。およそ2100億円に相当します。今回報酬を引き上げたのは、人材不足を解消するために、介護現場で働く人たちの賃金の引き上げが必要だという判断からです。

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ただし、報酬が一律にあがるわけではありません。報酬の引き上げ分を、必要性が高いところに重点的に配分しています。報酬を上乗せされることになった、主なところがこちらです。
▲ひとつは、負担の大きな業務です。たとえば、施設での夜勤業務や重度の人や認知症の人への対応、それに死を看取った場合などに報酬を上乗せしています。
▲介護職員の専門性や職員の定着に取り組んでいることも評価しました。たとえば、介護福祉士の資格を持つ職員が多い事業所や勤続年数の長い職員が多い事業所などへの報酬を上乗せしています。
▲人件費のかかる大都市部などでの報酬も、底上げしています。

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<評価>
では、今回の報酬改定をどうみればいいのでしょう。
専門職が多い事業所など、必要なところに重点的に報酬を配分したことは、サービスの質を向上させるという点から、一定の評価はできると思います。
▲しかし、問題なのは、本当に、介護現場で働く人たちの賃金の引き上げにつながるかということです。介護報酬を上げたことで、サービスを提供する事業所が、介護保険から受け取る収入は、増えることになります。しかし、その分が、職員の賃金引上げにつながるとは限りません。得られた収入をどう使うかは、事業主の経営判断によるからです。それでは、介護報酬を引き上げた趣旨が徹底されません。

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報酬改定を議論してきた審議会でも、この問題が議論され、個々の事業所に職員の賃金など処遇改善の情報開示を義務付けてはどうかという意見もありました。しかし、業界団体の反対などで、結局、自主的な取り組みにゆだねることになりました。厚生労働省は、職員の賃金引上げにつながったかどうか、今後検証するとしていますが、経営者には、報酬引き上げの意味を受け止め、できる限り職員の賃金に反映させる努力をしてほしいと思います。

▲さらに、3%という介護報酬の上げ幅が、十分なのかということも強く感じます。

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これは、介護職の平均賃金を一般の人と比べたものです。介護職は勤続年数が短いので単純には比較できませんが、男性の場合、一般の人たちの60%程度。女性は85%程度です。3%という上げ幅は、介護職の月額の賃金を、平均2万円程度引き上げる分以上に相当すると、厚生労働省は説明しています。
しかし、仮に、2万円の引き上げが実現したとしても、一般の人たちの報酬にはとても及びません。仕事はきついのにこの待遇では、介護職の人材不足を解消できるか、心配になるのです。
しかし、報酬をさらに引き上げるとなると、私たちの覚悟も問われることになります。介護保険の保険料や、サービスを利用するときの自己負担に跳ね返ってくるからです。
これは、現在負担している、1人当たりの月額保険料です。自治体によってばらつきがありますが、全国平均すると4090円。それが来年度からは平均4270円程度と、180円ほど上がると見込まれています。報酬をさらにひきあげるのなら、保険料ももっと上げざるを得ません。

<セーフティーネットの再構築>
さて、皆さんはこの問題をどうお考えになるでしょうか。
介護現場の人材不足にしても、各地で問題になっている医師不足にしても、
ここ数年、財政支出を抑えることが重視されてきた、副作用といえる側面があると思います。しかし、困った時に、必要なサービスを受けられなくなるようでは、暮らしの安心は確保できません。
今問われているのは、安心を支えるセーフティーネットをどう再構築するのか。社会全体で助け合いの仕組みを、どう作り直していくかということだと思います。国、自治体、事業者、そして、私たち国民も、そのためにどんな負担をし、支えあっていくのか、考えなければなりません。

<失業者への支援>
最後にもうひとつ、介護現場の人材を確保するために、緊急に対応が必要だと思うことがあります。他の業界から介護現場に仕事を求める人たちへの支援です。工場で派遣契約を打ち切られた人が、せっかく介護現場で働き始めたのに、1週間もたたないうちに辞めてしまうという話を、施設の関係者から聞きました。経験や知識がないまま入ってきても、仕事を続けるのは難しいのだろうというのです。支援の鍵を握るのは、事前の研修です。
これは、失業してハローワークを訪れた人たちを対象に、介護の技術を身につけるために用意されている研修です。雇用保険に加入していた人なら、テキスト代などを除いて受講料は無料。受講している間は、失業手当も支給されます。雇用保険に入っていなかった人でも、手当は出ないものの、無料で研修を受講できるようになっています。今週、東京で行われている介護職員基礎研修を取材したのですが、そこでの就職率は去年、83%。受講生も非常に熱心で、将来の仕事に自信をもてると話していました。

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こうした研修を、介護現場での仕事を希望する人すべてが受けられればと思うのですが、現在は、定員に限りがありますし、ハローワークでの説明も十分とはいえません。
慢性的な人手不足に悩んできた介護現場では、この景気の後退で、人材が集まってくるのではないかと期待しています。その期待にこたえるためにも、政府は、受講生の枠を拡大するだけでなく、仕事を求めている人たちに、丁寧にこの仕組みを説明するなど、きめ細かな対応が必要です。そして働き始めた人たちが、やりがいをもって、長く仕事を続けられるよう、賃金や処遇を改善することも重要です。また景気がよくなれば、人がいなくなるということを、繰り返すわけにはいきません。

<まとめ>
今年は、介護だけでなく医療、年金、雇用と、私たちの暮らしの足もとが大きく揺れた一年でした。来年は、安心を取り戻せる年であってほしいと思います。

投稿者:飯野 奈津子 | 投稿時間:23:59

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