2008年10月09日 (木)時論公論「解明できるか 年金記録改ざん」
ニュース解説時論公論です。会社員が加入する厚生年金の記録改ざん問題で、実態解明のための、弁護士による調査委員会が発足しました。はたして、全容を解明できるのか。飯野解説委員がお伝えします。
<イントロ>
こんばんわ。
宙に浮いた5000万件の年金記録が発覚してから1年8か月。記録問題は、全容の解明が進むどころか、日を追うごとに、深刻さを増しています。これまでのような記録管理のミスではなく、意図的に改ざんされた疑いのある記録が多数みつかり、いったいこの問題がどこまで広がるかわからない状況です。今夜は、全容解明に向けた、記録改ざん問題の課題を考えます。
<改ざんの実態>
まず、今回みつかった改ざんが疑われる記録について、みておきます。

問題になっているのは、会社員が加入する厚生年金の記録です。厚生年金は、会社が社会保険庁に届け出た、社員一人ひとりの月給の記録、基本給だけでなく、家族手当なども含めた、「標準報酬月額」をもとに、老後受け取る年金額が決まります。

その標準報酬が、会社の経営者と社会保険庁の職員によって、不当に低く改ざんされ、本来受け取れるはずの年金が減ってしまった人が出ているのです。国の制度を信頼して、保険料を払っている国民を欺く、悪質な行為です。これまでに66件、記録が改ざんされたケースが総務省の第三者委員会の審査で確認されています。

これ以外にも、本人が気付かないまま、報酬が改ざんされたケースがあるのではないか。今回社会保険庁は、コンピューターに収められている1億5000万件の記録の中から、改ざんが疑われる不自然な記録を抽出しました。
その結果がこちらです。
▽30の等級に分類されている「標準報酬月額」が5等級以上、金額にして36000円から15万円以上引き下げられた記録が、75万件。
▽半年以上さかのぼって報酬が引き下げられた記録が53万3000件。
▽報酬の引き下げの手続きとほぼ同時に加入資格が消された記録が15万6000件。

社会保険庁は、当初3つの条件が重なった69000件の記録を改ざんの疑いが強いとして公表しましたが、それでは不十分と野党から追及されて、全体像を明らかにしたのです。
延べ144万件にのぼる記録のうち、どのくらいの記録が改ざんされたのか、今の段階ではわかりません。しかし舛添厚生労働大臣は、3つの条件をすべて満たしていなくても改ざんされた可能性があることを認めていて、これから次のような形で確認作業を進めるとしています。

▲改ざんの疑いが強い69000件の記録の該当者のうち、すでに年金を受け取っている2万人に対しては、来週から職員が自宅を訪問して確認する
▲そのほかの記録の該当者に対しては、来年度中に、加入者と受給者全員に標準報酬の一覧を送る際、不自然な記録が見つかったことを通知して確認してもらうということです。
<対応の評価>
さて、こうした政府の対応で、不当に減額された年金を取り戻すことはできるでしょうか。
言うまでもなく重要なのは、改ざんが疑われるケースについて、事実関係を社会保険庁自ら確認して、1日も早く本来の年金を受け取れるようにすることです。その観点から、今回の対応をみますと、あまりにも不十分といわざるをえません。年金制度を守るべく社会保険庁の職員が報酬を意図的に改ざんし、年金額が減らされてしまった。その事の重大さをどこまで自覚しているのかといいたくなってしまいます。

▲ひとつは、今回も本人の申し出を待つ姿勢を続けていることです。
改ざんの疑いが強い69000件のうち、年金受給者は戸別訪問しますが、現役世代へは、不自然な記録が見つかったことを通知するだけです。そうではなく、現役世代にも、社会保険庁の側から説明して責任をもって確認する必要があるはずです。

▲自ら改ざんの疑いのある記録を積極的に探し出そうという姿勢も足りません。
▽これまで改ざんが確認されたケースの中には、二つの条件しか満たしていないものもあります。しかし、社会保険庁はそうした条件を満たす記録を特定することさえしていません。
▽より切実なのは、今回抽出されたもの以外にも、改ざんされた記録が存在する可能性が高いのに、そこには十分手だてをうっていないことです。

今回の調査は、記録のオンライン化が始まった1986年3月以降のものが対象です。しかし、第三者委員会で改ざんが認められたケースの4割は、それ以前のもの。つまりこの枠の外にある記録です。

これらについては、全員に送られる標準報酬の一覧を、一人ひとり確認してもらって改ざんを見つけ出すしかないと社会保険庁は説明しています。だとすれば、誰が見ても改ざんを見つけ出せるよう、外部の人材も入れて通知の中身を徹底的に検討する必要があります。これまでのねんきん特別便のように、わかりにくいようでは、結局税金の無駄遣いにおわってしまいます。
<救済は進むか>
そのうえで、私がもう一つ心配なのは、改ざんの疑いが強いと確認できた場合、被害者の救済がスムースに進むかどうかです。


これまでの第三者委員会の審査では、給与明細や家計簿それに、同僚の証言などがあった場合は、認められています。しかし何もない場合は、認められない傾向があります。事の重大さを考えれば、いくつか不自然な状況が重なれば証拠がなくても認めるなど、審査の基準を再検討する必要があります。被害者が全員救済されるようにすることが政府としての責任です。

<構造的な問題は?>
そして、もう一つ大切なのが、記録の改ざんがなぜ起きたのか、その構造的な問題と責任を明らかにすることです。
今回私は、厚生年金の保険料徴収を担当していた元職員、数人から改ざんの実態について話をききました。それによると、

報酬の改ざんは、1970年代以降、不況の時期に資金繰りに困り、保険料を滞納していた零細企業を中心に行われということです。滞納した保険料を回収するには、財産の差し押さえが必要ですが、それによって会社がつぶれる恐れがある。そこで、経営者と相談して、滞納保険料を減らすために、社員の報酬を過去にさかのぼって低く書き換えたというのです。
保険料の徴収率を上げるために改ざんしていた職員もいたということですが、零細企業の存続と社員の雇用を守るための苦肉の策だったと主張していました。
さて、どうでしょう。
不況の時に零細企業にしわ寄せいがくる経済構造にも問題があります。しかし個人の報酬を勝手に引き下げ、本来の年金額を減らした行為は許さるものではありません。そして、そうした違法行為が漫然と行われ、そのことを放置してきた組織としての責任も非常に重いと思います。

まず求めたいのは、改ざんにかかわった職員や経営者が、その事実を申し出て、引き下げた社員の報酬を元に戻すこと。そして、こうした状況を長年放置してきた組織としての責任を明らかにすることです。
今週舛添大臣は、弁護士による調査委員会を立ち上げ、改ざんに関わった職員を刑事告発する方針を明らかにしました。しかし、社会保険庁をここまでひどい組織にしてしまった責任は、厚生労働省と社会保険庁の歴代幹部にもあるはずです。責任ある立場にあった人間が、目に見える形で責任をとらなければ、国民は納得しないのではないでしょうか。
社会保険庁の職員によるずさんな年金記録の管理や記録の改ざんによって、これまで多くの税金を使われてきました。年金を減額された被害者だけでなく、国民全体に大きな負担を強いていることを、忘れてもらっては困ります。問題の重大さを真摯に受け止め、一日も早く改ざん問題を解決することが、政府の責任だと思います。
投稿者:飯野 奈津子 | 投稿時間:23:59
