時論公論 「暗礁続きの普天間問題」2012年02月03日 (金)

島田 敏男  解説委員

防衛省の沖縄防衛局長が、アメリカ軍普天間基地を抱える宜野湾市の市長選挙に向けて、職員に講話をしていた問題で、田中防衛大臣は、結局、きょうは結論を先送りしました。
明確な法律違反が見当たらず、処分が難しいという事情があるためですが、普天間基地の移設問題が暗礁続きの状況から抜け出すのは難しそうです。今夜は、この問題を考えます。

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▼先月31日に沖縄防衛局内部のメール文書のコピーが国会で取り上げられ、それ以来、野党側は真部沖縄防衛局長を更迭するよう求めています。

野党側の主張の大勢は、局長が職員に選挙に関わる講話をするのは、政治的中立を求める自衛隊法や国家公務員法などに触れるというものです。
 
▼こうした指摘を受け田中防衛大臣は、真部局長本人や沖縄防衛局の職員からの聞き取り調査を重ねて来ましたが、今夜の幹部会議の結果、きょう結論を出すことを見送りました。

防衛省の関係者によりますと、「今のところ明確な法律違反にあたる事実はなく、実態を引き続き調査する必要があるためだ」と説明しています。

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防衛省の幹部の間には、来年度予算案の審議などを抱える国会対応を考えると真部局長の交代は避けられないという見方がありますが、一方で、処分の対象になる具体的な事実がなければ説明が難しくなるという意見もありました。

更迭の根拠になる処分、例えば停職などの厳しい懲戒処分が可能か、それとも訓戒や注意といった軽い処分ならば妥当なのか、さらに調査をしないと判断できないということです。
 
▼きょう午後行われた衆議院予算委員会で参考人として質問を受けた真部局長は、宜野湾市内に住む職員と親族が宜野湾市内に住む職員、合わせて80人をリストアップして講話を実施したと説明しました。

そして、「アメリカ軍普天間基地の移設問題の観点から非常に重要な選挙だと考え、なるべく多くの市民の考えが反映されるようになればいいと考えた。

私は職員に対する指導の一環だと受け止めていて、誤解を招く部分があったのは反省しなければならないと感じているが、どちらかの候補者に肩入れするというような意識は全く持っていなかった」と釈明しました。
 
▼田中防衛大臣は取り敢えず処分や人事の判断を先送りしたわけですが、重要なのは法律違反に当たる、当たらない以上に、幹部による選挙に関わる講話というものをどう見るかです。

こういう選挙前の講話、あるいは訓示というのは昔から少なからずあったんですけれども、私は、今や時代遅れで陳腐な行為だと思います。

と言いますのは、今回の真部局長の講話でも特定の候補に投票するよう求める発言は慎重に避けて、「必ず投票行くように」という内容の話しに止めています。

これは、防衛省・自衛隊の中に長年にわたって受け継がれてきた、法律に触れない範囲で部下にメッセージを発する、一種の知恵として伝わって来たスタイルです。

昔、東西冷戦中に国会で自衛隊が合憲か違憲かといった議論が盛んだった時代には、当時の防衛庁・自衛隊の幹部が職員や隊員に講話や訓示の中で「投票に行くように」と言えば、その意味は、はっきりしていました。

「自衛隊の存在を全て否定する政党や候補者には、絶対に投票するな」という、間接的な指示だったんです。野党の多くが自衛隊は憲法違反だとしていた時代ならではの話しです。

しかしながら、今では自衛隊を真正面から全否定する政党は、あまりありません。
 
▼では、今回の場合は、どうだったんでしょう?

宜野湾市長選挙には2人が立候補を表明していますが、防衛省が進める普天間基地を名護市のキャンプシュワブ沿岸に移設する計画には、2人の立候補予定者は、いずれも反対しています。

つまり、真部局長の講話が職員に対する特定の明確なメッセージになるほど、今の沖縄の状況は甘くないということです。
 
▼もう一つ、宜野湾市に親族がいる職員のリスト作りについて、防衛省は、親族の氏名や住所自体は調べていないので、個人情報保護法には触れないと説明しています。

沖縄防衛局には400人あまりの職員がいますが、この内の8割が地元・沖縄県内の出身者でして、全国各地の他の防衛局と比べると地元密着が目立ちます。

その沖縄出身者の中に線を引くような調査をすることが適切だったのかどうか、そうした調査の結果を何に使おうとしたのか。こうした点については徹底した調査が必要です。
 
▼では、今回の出来事は、普天間基地の移設計画に、どのぐらい影響するんでしょうか。
今後、真部局長の発言や行動についてさらに詳しい調査が行われ、最終的に田中大臣が、どう判断するかにもよりますが、もうすでに相当影響することは避けられないでしょう。

3年前の衆議院選挙で民主党政権が発足した後、鳩山内閣の当時に普天間基地の移設先を巡って政府の方針が迷走しました。

結局、自民・公明両党の連立政権当時と同様の日米合意に基づく移設計画に戻りましたが、
この時以来、沖縄では民主党政権に対する不信感が高まったままです。

今回の局長の講話問題が、住宅密集地にあって危険と隣り合わせの普天間基地の移設を
一層困難にする、新たな暗礁になったのは確かです。

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▼普天間基地の代替施設の建設を巡っては、現在、名護市のキャンプシュワブ沿岸に埋め立てを必要とするV字型の滑走路の建設に向けて、行政手続きが進められています。

大規模な土木工事になるために、防衛省は環境影響調査を1年がかりで行い、その結果をまとめた9000ページに及ぶ環境影響評価書を沖縄県知事に提出しました。

姑息なやり方だという批判も出ましたが、去年の12月28日の未明に、計画に反対する市民団体の抗議行動を避けるために、沖縄防衛局が沖縄県庁の守衛室に運び込みました。

仲井真知事は、この評価書に不備がないか確認した上で受理し、現在、専門家による審査会を設けるなどして検討を加えています。

埋め立てに関係する部分については、90日以内に知事が意見書を提出し、防衛省側が
その内容を反映させた評価書の補正を行い、公告・縦覧という周知の手続きに入ります。

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ただ、沖縄県の関係者に寄りますと、環境影響評価書に対しては、審査会の委員から「環境に与える影響や負荷を客観的に評価していない」といった指摘が出ています。

このため仲井真知事が3月下旬までにまとめる意見書は、防衛省にとって相当厳しいものになり、場合によっては再調査を迫られる可能性も否定できないという見方があります。

さらに仮にこうした手続きが進み、防衛大臣が埋め立て工事に必要な許可申請をしても、地元の名護市長が全面的に反対している中で、知事が埋め立てを許可することは困難だという見方は防衛省の中にもあります。
 
▼以上、見てきましたけれども、野田内閣は社会保障と税の一体改革を最優先課題にしていますが、安全保障についても、もっと目配りをしなければ躓きのもとになるでしょう。
今回の講話問題は、様々な指摘の的、まさに標的になっている田中防衛大臣の力量だけ
でなく、政権全体の総合力を問う試練だと思います。

(島田 敏男 解説委員)