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時論公論 「薄氷踏む、今年の電力供給態勢」2012年01月09日 (月)
嶋津 八生 解説委員
日本の電力供給態勢が今後どうなっていくのか。ことしは大きな試練の年になりそうです。東電の福島原発の事故によって、各地の原発が運転停止に追い込まれ、全国的な電力不足が起きています。一方、海外に目を転じればイランの核開発を巡ってペルシャ湾の緊張は高まりつつあり、石油や天然ガス火力への依存を強めている電力供給に暗い影を投げかけています。今夜は電力需給を取り巻く諸問題について考えてみたいと思います。
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まず初めに全国的な電力の需給状況を見てみます。
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全国17カ所、合計54基の原発のうち現在稼働中なのは、わずか6基。この結果、沖縄電力を除く全国9電力会社の供給力は、今月は1億6,163万kW。前の冬並みの寒さを想定した最大需要の予測が1億5,781万kW。供給力が需要のピークを上回る余裕度を予備率と言い、3%を下回ると停電の危険が高まるとされていますが、現実は2.4%しか確保できていません。
この冬、停電の心配がまず無いのは北海道電力だけ。
震災によって大きな被害を受けた東北電力や、原発の比率が高い関西電力と九州電力の3社は、需要のピーク時には、供給力が追いつかない状態になってしまうため、他の電力会社からの応援融通によって、辛うじて停電を免れている状態です。
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政府は、去年の夏、東電と東北電力のエリアで企業に対して課した、法律に基づく電力使用制限令を今回は見送りました。土日の休日を平日にずらして節電指令を守った自動車業界などからの苦情が強かったためです。この冬は特に需給が厳しい関西電力と九州電力が、企業や一般家庭に対し、それぞれ10%以上と5%以上の自主的な節電を呼び掛けているだけです。厳しい寒波に見舞われて電力需要が急に増えたり、あるいは火力発電所で事故が起きた場合、停電の恐れも高まります。こうした場合は、枝野経済産業大臣が家庭や企業に対し緊急の節電要請をする場合もあり得るとしています。
このように電力需給の綱渡り状態が続くのは、年一回の定期検査を終了した各地の原発が、地元住民の理解が得られず、運転再開が出来ない状態に陥っているためです。原発の再開をめぐっては、前の菅政権の時に、コンピューターのシミュレーションによって各原発が津波などの災害にどの程度耐える力があるかを計算するストレステストが義務づけられました。
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各電力会社がストレステストを終えて、その結果を国の原子力安全・保安院に報告し、運転再開を求めてきている原発は、現在11基です。
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この結果は原子力安全保安院と原子力安全委員会、さらにはIAEA・国際原子力機関の検証まで経ることになっています。現在は原子力安全保安院が検証中です。これらの段階を経て、早いものは、この春にも政府が運転再開を決断し、地元に了承を求めることになると見られます。問題はストレステストによって安全性が確認されたとする国に対し、地元の県や市町村が、その結果を受け入れるのかどうかに掛かってきます。一方で現在稼働中の原発6基もこの後つぎつぎ定期検査入りするため、ストレステストを終えた原発の運転再開が地元から認められない場合は春以降、原発54基すべてが停止するといった事態も考えられます。
もし全原発停止という事態のまま、夏を迎えることになった場合何が起きるのでしょうか。
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政府による9電力合計の需給予測では、この夏がおととしの夏並みの猛暑になれば、ピーク需要に対してほぼ1割近い電力不足に陥るとしています。一方、去年の夏程度の平年並みの暑さで、しかも去年同様、東電と東北電力エリアで15%程度の節電が行われた場合でも、予備率は4.1%とぎりぎりの水準です。しかも電力使用制限令を再び企業に対して掛けられるのか。政府は今のところ需要がピークに達する昼間の時間帯の料金を引き上げるなどの対策の導入によって、何とか乗り切れないか検討を進めています。しかしこうした対策が実際にどの程度の節電効果を持つか、やってみなければ分からないわけで、決め手になるような対策はありません。
需給の問題以外に、電気料金の問題にも突き当たります。原発の運転停止によって各電力会社は、火力、とりわけ石油とLNG・液化天然ガスの火力を炊くことによって、何とか凌ごうと努めてきました。しかし火力の炊き増しによって、年間にして3兆円以上の燃料費が余計にかかっている計算です。電力会社の発電コストはおよそ2割上昇しています。東電は4月から自由化料金である企業向けの電力料金の値上げに踏み切る方針で、その後、政府の認可制の下にある一般家庭向けの電気料金についても政府に値上げ申請をする見通しです。
東電以外の電力会社も、このままでは秋以降、値上げ申請に踏み切ることになると見られます。
日本のマクロ経済にとっても無視できない影響を及ぼしつつあります。去年2011年は、48年間続いてきた戦後日本の貿易黒字体質が恐らく終わった年として記録されるでしょう。
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去年1年間の貿易収支額はまだ確定していませんが、赤字転落は確実な情勢です。震災や円高による輸出産業の不振も大きいのですが、やはりLNGや原油の大量輸入が貿易赤字への転換を早めたと言えるでしょう。日本政府の膨大な累積債務が持続可能なのか疑問が広がっている中で、貿易収支や更には経常収支まで今後、赤字化していくことは、やはり深刻な事態と言わざるを得ません。
原発問題を考える上で、もう一つ無視できないのがイランの核開発問題です。イラン制裁を強めるアメリカは各国に対しイランからの原油輸入を事実上出来なくさせる法律を年末に発効させました。
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イラン政府は強く反発し、ペルシャ湾の出入り口ホルムズ海峡を軍事力で封鎖すると警告し、現地の緊張が高まっています。
日本の原油輸入量の相手国別シェアのグラフです。
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イランは第4位の輸入相手先で、ほぼ10%の輸入シェアです。しかし問題は、ホルムズ海峡を通って日本に入ってくる原油が全体のほぼ85%に達するという点です。
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一方ペルシャ湾を通過してアメリカに輸入される原油は全体の18%に過ぎません。同時多発テロが起きた2001年当時はほぼ3割に足していましたが、アメリカ政府が石油の中東依存からの脱却を進めた結果、西半球とアフリカから4分の3近くを調達できるまでになりました。ペルシャ湾の有事に対する、日本の備えの弱さが際立ちます。
日本のエネルギー供給を取り巻く内外の情勢は、薄氷を踏むような状況です。日本が今後どのような電源・エネルギー源に頼って行くのか。できるだけ多様な選択肢を残していくのが望ましいと私は考えます。
国内の原発の運転再開問題は安全が最重要課題であると言う点は、誰しも異存がないでしょう。しかしその一方で、日本のエネルギー確保や地球温暖化問題への配慮。それに日本経済全体に及ぼす影響にもやはり目を向けて、総合的な判断が下されるべきではないでしょうか。
(嶋津八生 解説委員)
