2012年02月10日 (金)『グッド・ワイフ2』第18回  グレースがザックをカールと呼んだわけ


2月17日(金)午後11時からの『グッド・ワイフ2』第19回「不当解雇」にはマイケル・J・フォックスが再度登場します。
(※ネタバレ注意! ドラマのストーリーに関する内容となっていますので、ドラマ本編をご覧になられてから、お読みくださるようお勧めいたします。)

それはさておき、『グッド・ワイフ2』第18回「殺人の歌」のおさらいをしましょう。

■カリンダの秘密はいつから構想されていたのか?
今回のドラマの冒頭では、前回の最終シーンが反復されていました。あそこで明らかにされたカリンダの秘密は、いつごろからドラマ制作者たちの間で構想されていたのでしょうか。

Entertainment Weekly誌電子版2011年3月23日付の記事で、このドラマのクリエイターであるロバート&ミシェルのキング夫妻がこの疑問に答えています。

記事によればカリンダの秘密は第1シーズン第1回を構想しているときに既に彼らの頭の中にあったそうです。
キング夫妻は第1シーズンの早い段階でこの秘密を視聴者に明らかにするつもりでしたが、ドラマを放送しているCBSネットワークがそれに待ったをかけます。まずはじっくりとカリンダとアリシアの関係を築くことに時間をかけるようにとの指示でした。カリンダとアリシアの友情が深まれば深まるほど、秘密が明らかになったときに視聴者に与える衝撃の破壊力はいや増すことになるからです。
確かにここまでドラマを見てきて、アリシアとカリンダのコンビが大好きになったという視聴者のかたも多いでしょう。

第16回「閉ざされた国」でカリンダはアリシアに転居先住所を書いた紙を渡していました。

カリンダ「住所変更です」
アリシア「誰の?」
カリンダ「私の」
アリシア「でも住所って、初めて聞くけど」
カリンダ「今はそこに住んでます」
アリシア「やっと心を開いてくれたのね」
カリンダ「やっぱり返して」
アリシア「ダメダメダメダメダメ。いつか私の自伝に書くわ」

このときの二人の楽しげなやりとりを思い返すと、カリンダの秘密がこの先もずっと秘密のままであり続けることがアリシアにとっても一番の幸せであるような気がしてきます。

他方、キング夫妻のインタビュー記事を読むとつまりは、第1シーズンのころからカリンダは秘密をひた隠しにしてアリシアに接してきたということになります。
カリンダがなにかというとアリシアにウィルとの関係をけしかけていたことが思い返されます。

カリンダ「私がウィルに電話してあなたが酔っぱらって家に帰れないって呼び出しますから」
アリシア「(笑)」
カリンダ「このホテルの部屋を取って上に行けばいい。アリシア、一晩だけです。後腐れはなし」
アリシア「朝になったら?」
カリンダ「目を覚ますだけ」
アリシア「(笑)そんなの私じゃないわ」
カリンダ「あなたですよ。あなたがなりたいと思う自分が あなた

(第1シーズン第22回「よみがえる悪夢」より)

このときのカリンダの思惑について私たちの想像は、いやでもふくらみます。

■コロラドの議員の不倫事件
イーライは事務所で娘のマリッサと父娘の会話をしていました。
テレビではコロラド州の議員が愛人と全裸で泳いでいたと報じ、離婚するかもしれないと見られている議員の妻は自伝の出版契約を結んだと言っています。その契約金はなんと130万ドルです。

このコロラド州選出議員の妻にはモデルがいます。
サウスカロライナ州知事だったマーク・サンフォード氏の妻ジェニーさんです。
知事はアルゼンチン人の愛人と浮名を流し、2009年には公務をほったらかしてアルゼンチンまで愛人に会いに行ったことが発覚して問題となりました。

妻のジェニー・サンフォードさんはこの愛人問題が原因で2010年に夫と離婚。
同じ年に『Staying True』(忠実であるということ)という自伝を出版しています。

ジェニーさんが出版契約を結んだことを報じるロサンゼルス・タイムズ紙(電子版2009年10月16日付)の記事はこう始まっています。
「She never played it like the good wife, standing dutifully by as her husband, Gov. Mark Sanford, went gaga over his love affair with a (sic) Argentine woman…」
(ジェニーはグッド・ワイフのようには振る舞わなかった。夫であるマーク・スタンフォード知事がアルゼンチン人女性との不倫にのぼせあがっていたときに、そのかたわらにきちんと寄り添って立つようなことはしなかった…)

ドラマ『グッド・ワイフ』第1回でピーターの辞任記者会見の席上、夫に黙って寄り添って立つアリシアの姿が全米に放送されたのは、2009年9月22日。
この記事はその1カ月後の2009年10月16日に書かれたものです。このとき既にLAタイムズは、ドラマ『グッド・ワイフ』のアリシアを意識した文章で記事を書き始めていたというわけです。
『グッド・ワイフ』の影響力がうかがい知れるというものです。

■英語の副題の掛け言葉
第18回「殺人の歌」の英語の副題は「Killer Song」といいます。
これは「殺人者の歌」という意味と同時に、「素敵な歌」という意味をもつ掛け言葉です。

■殺人犯が作った楽曲が販売されるアメリカ
ジャービス・バウスが30年前に自ら犯した殺人をもとに歌を書いたところ大ヒット。彼は現在精神医療センターでの治療を受けていますが、その治療はもう必要ないとされて自由の身になれば娑婆(しゃば)では印税収入で優雅な生活を送ることができる。
それが許せない被害者マロリー・セロンの娘ロンダはアリシアたちに頼んで民事訴訟を起こします。これが今回の物語でした。

カリンダはバウスの曲を歌ってヒットさせたロック・バンドに聞き込みをしていました。そこでロック・バンドのリーダーはこんなことを言っていました。

「ガンズ・アンド・ローゼズもやったことだろ」

ガンズ・アンド・ローゼズは実在するアメリカのロック・バンドですが、まさにこのガンズ・アンド・ローゼズが殺人に関与した男の書いた曲を歌って自分のアルバムに収録したことがあるのです。

その曲とは"Look at Your Game Girl"。
書いたのはチャールズ・マンソン。カルト教団の指導者だった彼は、映画『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)を撮ったロマン・ポランスキー監督の妻で女優のシャロン・テートらを1969年に惨殺した件に関与したとして犯罪史に名を刻みました。シャロン・テートは当時妊娠中でした。マンソンは今もカリフォルニア州で終身刑に服しています。

1993年、ガンズ・アンド・ローゼズのリード・ヴォーカルのアクセル・ローズはマンソンが書いた"Look at Your Game Girl"をアルバムに収録したのですが、当然社会から指弾を受けました。

ミック・ウォール著『アクセル・ローズ ガンズ・アンド・ローゼズ外伝』(田村亜紀訳/シンコーミュージック)によれば、アクセル・ローズは普段からステージにチャールズ・マンソンのTシャツを着て姿を現すほど、マンソン崇拝熱にとりつかれていたようです。

殺人に関与したとして有罪判決を受けた男の書いた曲をレコーディングするという彼の行為は、多くの人々の怒りを買います。
バンドはこの曲に関する印税を残らずマンソン事件の犠牲者の遺族に寄付することを急いで発表するのですが、時すでに遅く、この件は彼らの所属するレコード会社のすべてのアーティストの作品に対するボイコット運動にまで発展したといいます。

■バンドのリーダーはなぜカリンダの出身地をきいたのか?
カリンダが聞き込みをしていたロック・バンドのリーダー(ジェイク)は彼女にこんな風に尋ねていました。

ジェイク「あんた出身は?」
カリンダ「この近く」 

ジェイクはカリンダになぜこんな質問をしたのでしょうか。

『グッド・ワイフ2』をBSプレミアムでご覧の皆さんの中には、聴覚障害者用の日本語字幕を画面に表示して、セリフは副音声(英語)で聞いているというかたもいらっしゃることでしょう。そうしたかたはお気づきだと思いますが、カリンダの英語には独特のなまりがあるのです。

カリンダを演じる女優アーチー・パンジャビはイギリス出身です。
アメリカの視聴者の間では、彼女の話す英語に独特のアクセント、つまりなまりがあるということがちょっと話題になっていました。

2010年のエミー賞で助演女優賞を受賞したときのアーチー・パンジャビのインタビュー記事がエミー賞公式サイトに掲載されています。それによると彼女はアメリカなまりで話すこともできるのですが、『グッド・ワイフ』の第1回では英語の発音があまりにもアメリカ人っぽいと言われたので、わざと少しなまりを加えてエキゾチックな感じにすることにしたのだとか。でも、それはイギリスなまりとも異なる、どこの出身とははっきり言い当てることのできない独特なものなのです。

つまりカリンダの英語のなまりは、ただ単にインド系アメリカ人という設定を超えた、ミステリアスな出自から来るものだということがほのめかされているとも解釈できるのです。

カリンダのなまりに鋭く反応したジェイク自身、その英語は完全なブリティッシュ・イングリッシュです。ですからアメリカでは異邦人であるジェイクが、おなじく異邦人的なまりを持つカリンダに親近感を覚えて出身地を尋ねてみたというわけなのです。

■クリスマス・ツリーの正体
被告のジャービス・バウスが書いた歌詞にあったクリスマス・ツリーは本物の樹木のことではありませんでした。自動車のルームミラーに飾られていたものですが、あれはエアー・フレッシュナー、つまり芳香剤です。

アメリカでは決して珍しいものではありません。ハリウッド映画やアメリカドラマを見ていると、自動車のルームミラーにあのクリスマス・ツリーの形をした芳香剤がぶらさがっている様子が頻繁に登場します。

例えば、フランシス・フォード・コッポラ総指揮のホラー映画『ジーパーズ・クリーパーズ』(2001年)の中には、洗濯している余裕がない汚れた衣服が入った袋に、車にあったクリスマス・ツリー型芳香剤を間に合わせで放り込んで悪臭を消すというシーンがあります。

海外ドラマ『glee/グリー』第2シーズン(BSプレミアムで2012年3月17日(土)深夜~  7夜連続一挙放送予定)のクリスマス・エピソードでは、レイチェルとフィンがクリスマス・ツリーを買いに行きますが、そのときレイチェルがポケットにこのツリー型芳香剤を入れているという場面が出てきますのでご覧になってみてください。

■ウィルの誘導尋問にはめられたバウス
バウスはマロリー・セロン殺害事件と歌詞との間には関係がないと主張します。
法廷のウィルとバウスのやりとりをここで振り返ってみましょう。

バウス「自分の犯行が歌詞には関係ないことくらいは覚えています」
ウィル「では車のトランクのくだりは現実とはどう違ったんでしょう?」
バウス「歌詞では私が彼女をトランクに入れて運んでいますがそれは不可能です。マニュアル車は運転しないんで

マロリー・セロンの遺体は発見時にはトランクに入れられていませんでした。法廷で陪審員たちに提示された証拠写真にも、調査のために雪のクリスマス・ツリー農場に出向いたカリンダが手にしていた写真にも、マロリーが自動車のボンネットの上で無残な死体となって発見された様子が写ってしました。

一方、もうひとりの犠牲者リン・ボイルの遺体はトランクの中に発見されました。
つまり二つの殺人事件の被害者は発見時の様子がそれぞれ異なっていたのです。
そのことを知っているウィル。しかしバウスはこの時点で自分がウィルによってリン・ボイル殺害の容疑者と見なされていることをまだ知りません。

ウィルはさりげなくトランクの遺体のことを持ちだしたのですが、それにつられてバウスは、私はマニュアル車は運転できないから、犠牲者にまず運転させて殺害現場まで行ったのだ、と返答してしまいます。

本来ここでバウスはウィルにこう言うべきだったのです。
「歌詞では私が彼女を車のトランクに入れて運んでいますが、それは私の創作です。だってマロリーをトランクには入れてはいないのだから」と。

しかしバウスは既にこの訴訟がそもそも歌詞とマロリー殺害とは関係がないのだということを主張し続けるべきものだということをすっかり忘れてしまい、歌詞がリン・ボイル殺害とは関係がないということを主張しなければいけないのだと勘違いし始めているのです。
彼のこの勘違いを認識すると、ウィルとのやりとりの続きでバウスが墓穴を掘ったことがよくわかるでしょう。

ウィル「ではトランクに入れたのは殺した後?」
バウス「ええ、私は…」
ウィル「どうぞ続けて」
バベット「裁判長、休憩させてください」
ウィル「今言いかけましたよね。トランクにどう入れたか」
バウス「そうじゃない。それはこの事件とは関係ないんです」

バウスは自分の勘違いに気づいて最後のところでようやく事件と歌詞が無関係であることを主張したのです。

バウスは民事訴訟では辛くもウィルに勝ちましたが、あらためてケイリーによってリン・ボイル殺害容疑で逮捕されてしまいました。これから長い刑事裁判が始まるわけです。
バウスが莫大な印税を使ってお大尽生活をする日はまだ当分訪れないというわけです。

■グレースがザックをカールと呼んだわけ
今回のドラマの終わりのところで、グレースとザックがキッチンでエアー・ホッケーまがいのことをしていました。そのときの二人の会話がこれです。

グレース「カ~~~~ル!あなた何したのよ?」
ザック「人を殺して手を食べた、それだけ」

アリシアは子どもたちの会話がさっぱり分からず、「せめて何から引用しているのか教えてよ」と言っていました。

ザックとグレースがかわしていたのは、インターネットに投稿されたアニメ動画『帽子をかぶったラマ』に出てくるセリフの引用です。
帽子をかぶった2匹のラマ、ポールとカールが、家の中で両腕をもぎ取られて血まみれで死んでいる人間の死体を前にして、シュールでブラックな会話をかわすというアニメです。

アニメの中でカールという名のほうのラマは、まるでそれが大したことではないかのようにこう語るのです。
「この人間の胸を自分がナイフで37回刺して、その上で両腕をもぎ取って食べただけ」と…。

ポールという名のほうのラマはそれを聞いて叫ぶのです。
「カ~~~~ル、あなたなんてことしたのよ。」と。
グレースが言う「カ~~~~ル」というのは、このときのポールのセリフであり、ザックの「人を殺して手を食べた、それだけ」というのはカールのなんともとぼけた返答を模したものです。

このアニメ動画は大人気で、これまでにのべ2300万以上の人が視聴しています。

■今回のドラマで真に裁かれたのは果たして誰なのか?
ザックとグレースが見ていた動画はコミカルなアニメであるとはいえ、血まみれとなったひとりの男性の惨殺死体が描写されています。それを2300万人ものユーザーが見て興じている。そうした現実があるのです。

ドラマの中の裁判劇はバウスという男が新たに裁きを受けることになったところで幕を閉じました。しかし彼が民事裁判の対象となったのは、彼が莫大な印税収入を手にすることを阻止するためです。そしてその印税収入はそもそも多くの人々が殺人ソングを聞こうとCDを買ったから生まれたものです。

不倫していたコロラド州選出議員と離婚するつもりの妻には、自伝の執筆契約金として130万ドルが支払われます。出版社がこれだけの大金を前払いするのは、自伝が暴露する夫婦のスキャンダルを金を払ってでも知りたいと思う読者が確実に大勢いるにちがいないと踏んでいるからです。

私はここで少し立ち止まって考えてみるのです。
今回のドラマが真に裁こうとしているのは、私たち消費者なのではないかと。

私たちは殺人も含めて人の不幸をまで貪欲(どんよく)に消費の対象とする社会に生きています。
新聞やテレビ、書籍やネットにあふれかえる無残な出来事を、タダならもちろん、そして物によってはお金を支払ってでも知りたいと欲する世界に身を置いています。

それを思うとイーライとマリッサが、議員の妻が自伝を出すと聞いてかわした次の会話が今回の物語を総括しているように思えてきます。

マリッサ「やっぱりダメ。アメリカは腐ってるよ」
イーライ「何が悪い?それが資本主義だ。最近の若者がヤワなんだよ。資本主義という言葉にすぐ反発する」
マリッサ「パパはムカつかないの?不幸を売ってるんだよ
イーライ「生きていくためだ 体を売るよりマシだろ」
マリッサ「私はそうは思わない。体を売る方が正直でいいよ」
イーライ「あぁ、お前とのおしゃべりはホント楽しいよ」

私たちはマリッサのように、「不幸を売って」いる社会は「腐ってる」のだと叫ぶ道を選ぶのか。
それともイーライのように「何が悪い?それが資本主義だ」と受け入れる人生を歩むのか。

その問いかけはとても重く、すぐには答がでません。

■次回はマイケル・J・フォックス再々登場
次回の『グッド・ワイフ2』第19回「不当解雇」にはケニング弁護士が再びアリシアの前に姿を現します。
マイケル・J・フォックスが演じるケニング弁護士とアリシアの対決はこれで3度目です。さて今度はどんな形でアリシアたちと対峙するのでしょうか。

『グッド・ワイフ2』第19回「不当解雇」の放送は
BSプレミアムで
2月17日(金)午後11時からの予定です。

お見逃しなく!

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*『グッド・ワイフ2』はNHKオンデマンド(有料)で放送終了後一定期間に限ってご覧いただくことができます。

詳しくは以下のサイトをご覧ください。
http://www.nhk-ondemand.jp/program/P201000068000000/#/0/0/

投稿者:YUKI | 投稿時間:23:44 twitterにURLを送る facebookにURLを送る mixiにURLを送る Yahoo!ブックマークに追加 Googleブックマークに追加 はてなブックマークに追加 ソーシャルブックマークについて
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