コロナ対策に“校則”が

2020年12月23日

毎年3月、運転免許試験場には、卒業した高校生たちが集中して大混雑となります。年度末の風物詩ともなっていますが、ことしは新型コロナウイルスの対策として、警察が事前予約制にした上で人数制限を行い、高校生に早めの受験を呼びかけています。ところが、この前倒しの免許取得を認めない高校があることがNHKの取材で分かってきました。(鹿児島放送局記者 西崎奈央)



【コロナ対策で前倒し免許取得】

いま姶良市の運転免許試験場では、新型コロナウイルス対策として、検温や受験者以外の立ち入り禁止、ソーシャルディスタンスの確保などが徹底されています。高校生の受験の前倒しも、そうした対策のひとつです。

卒業後の高校生が受験するため、例年3月には通常の6倍の1日あたりおよそ700人が集中します。そこで試験場では、来年2月と3月は事前予約制にした上で、1日あたり200人へ制限して分散することを決めました。

高校生に対しても新たな制度をPRし、卒業前でも早めに予約して受験するよう県の高校教育課などを通して呼びかけています。警察はオリジナル動画を作成。人気キャラクターの「薩摩剣士隼人」も早めの免許取得を鹿児島弁で呼びかけました。


【学校のルールで認められない?】

ところが、実際には前倒しでの高校生の免許取得が認められない可能性があることが分かってきました。卒業前の免許取得が、校則やルールによって禁止されているからだというのです。

あなたの疑問募集します!

NHKは県内の全日制の高校89校に取材。その結果、学校のルールによって卒業までに原則、免許取得を認めていない高校が少なくとも15校に上ることが分かりました。

なぜ卒業までの免許取得を認めないのか。多くが答えを濁す中、徳之島の天城町にある樟南第二高校だけが事情を聞かせてくれました。

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(樟南第二高校教頭)
「交通事故等が一番心配なんです。実は以前に交通死亡事故等も実際に起きていて、保護者の方からもお願いがあったりした関係でこのようになっています。原付バイクの受験は認めているんですけれども、自動二輪の受験は認めていないんですね。そういうものを無断で取得したりしていて発覚した場合については校内謹慎といった特別指導の対象になります。ただ、ことしに限っては柔軟に対応していかなければならないと思っています」

【他県では?専門家は?】

この問題は鹿児島県内だけの話なのか。調べてみると、岩手県でも同じような状況がありました。今年10月、岩手県の自動車教習所協会の会長が県議会を訪問。高校生が早めに教習を受けて卒業前に免許を取得できるよう、各学校に指導を求める請願書を提出したのです。請願はその後、議会で採択されました。

自動車教習所協会の会長は「内定が決まったらすぐに自動車学校に通っていただいて、就職に間に合うように免許を取っていただきたい」と話していました。

専門家にも話を聞いてみました。高校の校長や県の高校教育課長も務めた鹿児島大学教職大学院の海江田修誠教授は、この問題について学校側がどのように考えているのか解説してくれました。

(海江田修誠教授)
「他にすることがあるだろうと。大学に行く者にしてはもっと勉強をして大学入試を頑張れよというのがありますし、就職する者にしても就職する準備というのがあると思いますから。保護者も含めて高校生には必要ないよねというのが暗黙のうちに了解されていることだと思っています。高校生が免許を持っていると、その間に事故を起こしたらどうするんだっていう問題はありますし、世間の人たちがいろんなかたちで言うという風潮がまだありますので、学校としては気にせざるを得ない。それなりの指導をきちっとしながら、就職の条件を達せられるようにはしないといけないなと思います」

一方、憲法学者で校則などに詳しい東京都立大学の木村草太教授は、いかなる場合でも学校のルールで免許取得を制限することはできないとしています。その理由は道路交通法です。法律で18歳以上で免許が受けられると定められているのに学校のルールで縛ることは疑問だというのです。

(木村草太教授)
「学校は教育の権限と施設の管理の権限というのを持っています。一方、全くのプライベートで生徒が車の免許を取得することは教育上も施設管理上も必要とは考えがたいのでそのような禁止権限を持っていないと理解して良いのではと思います。ですので、まず学校に規制権限はないので、免許を取りたければ学校を無視してでも取るという行動はあっても良いと思います。もし高校生が免許を取ることが危険というのであればそれは道路交通法の改正を求めるべきでして、学校側が責任を負うような話ではないです」

取材をする中で、この問題をめぐって様々な意見があることがありました。ただ、そもそも校則やルールといったものが、一体なぜ必要でどのように運用すべきなのか。まずはそこから考えるべき問題ではないかと感じました。

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