2015年9月14日の

一番星
下薗詠子さん

下薗詠子さん

職業:写真作家

★新たな表現を求めて★

カメラの前で素顔をさらす、有名なミュージシャンや俳優、そしてトップアスリートたち。被写体の個性がキラリと輝く写真を撮るのは、写真界の芥川賞ともいわれる木村伊兵衛賞を受賞した写真作家・下薗詠子さんです。人物写真から創作写真まで、新たな表現を追い求める下薗さんの創作活動を追いました。

 

9月初め、鹿児島市内で下薗さんによる撮影会がありました。モデルは、下薗さんにポートレートを撮ってもらいたいと参加した一般の人たち。下薗さんは会話しながら相手をよく観察し、個性を際立たせる方法を探っていきます。モデルの持つ扇子で、あえて顔を隠すようにしました。屋外では、モデルのセクシーな格好と目にキレイな光が飛び込んでくるからという理由で、モデルを仰向けに寝かせての撮影。ネックレスを乱れさせ、妖艶な雰囲気にしました。

 

下薗さんが写真を始めたのは18歳の時。人と関わる仕事より、独りの世界にどっぷり浸りたいと、写真を選びました。ところが専門学校で与えられるのは、町で人を撮ってくるという課題ばかり。街で見知らぬ人に声をかけ続けた下薗さん。出会ったのは、依存症やリストカットをする人など、心に闇を抱えた人たちでした。そうした人の痛みに寄り添い、時には相手と何年も付き合うなかで、下薗さんはシャッターを押し続けました。

 

下薗さんに転機が訪れます。東日本大震災をきっかけに、自らの活動を見直すことにしたのです。東京を離れ日本各地を訪ね歩いたあと、下薗さんが行き着いたのは、ふるさと、いちき串木野市でした。 今まで目にとめなかった身近なものに魅力を感じるようになり、カメラを向けています。都会を離れたことで、下薗さんの写真の撮り方にも変化が生まれていました。 撮影したスナップ写真を使い、下薗さんは新たな表現方法を編み出します。複数の写真を重ね合わせて、一枚の作品を生み出す手法です。モノクロの骸骨の上に、キラキラ光る氷の写真を重ねることで、幻想的な作品に生まれ変わりました。 「子供ができたみたいな感動を覚えた。1足す1は2でない物事の見え方、複雑さがおもしろい。」と新しい手法の重ね合わせの作品を作り続けます。

 

新しい作風に挑んだ下薗さんの個展が、鹿児島市内で開かれました。道端で撮った猫に、港にあった大漁旗を重ね合わせた作品や夕陽に金魚を重ね合わせた作品など、地元で撮った写真の作品が並んでいました。お客さんからは「色の鮮やかさ、そして全く今まで自分がイメージしていなかった鹿児島の姿が見られて新鮮な気持ちで驚いている。」という感想が。お客さんの反応から新作への手応えをつかんだ下薗さん。新たな創作への意欲を燃やしています。

 

「もう十分だと思えるかはわからないけど、十分と思えるところまでやり続けてそれを形にしたい。探求ですよね、自分でも分かんない。(笑)」 人物のポートレートから、色彩あふれる創作写真まで、表現の可能性を追求し続ける写真作家、下薗詠子さん。飽くなき挑戦の日々がこれからも続きます。

番組制作者からひとこと
番組制作者からひとこと

 「人の内面を撮りたい。よそ行きの顔じゃない私にしか見せてくれない顔に出会いたい。」という下薗さんの印象に残る言葉。下薗さんは人物写真、そして新作の重ね合わせの写真においても、取り繕った表面的な美しさを強く拒む。求めているのは内面むき出しのままの個性、あるいは色彩という感情をともなった、あらわな姿。取材中、下薗さんは気さくな笑顔を浮かべた自然体のなかにも、眼差しだけは鋭く、自分の言葉で率直に語って頂きました。番組では紹介出来ませんでしたが、下薗さんの祖父母を撮られた写真があります。お二人が手を握り寄り添う写真には、お互いへの愛情があふれるように感じられ、ぐっときます。これからも、人間の本性に遠慮無く迫る、大胆で魂が揺さぶられるような写真を撮り続けてください。