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完全養殖“和泊ウナギ”はできるのか?夢実現に向け着々と 

  • 2023年06月23日

「将来はネーミングに“和泊”を使って日本や世界に売り込みたい。」社長のひと言に、試食会に集まった人たちから、うれしそうな笑い声があがりました。沖永良部島で進む、ウナギの完全養殖を目指したプロジェクト。果たして「和泊ウナギ」として売り出される日はいつになるのか?進捗を取材しました。

(鹿児島局記者 古河美香)

【島で生まれ育ったウナギ 島民が舌鼓】

ウナギの試食会の様子

奄美地方が梅雨入りした5月18日、ウナギの完全養殖を目指している鹿児島市の新日本科学の永田良一社長が、沖永良部島の飲食店を訪れました。ウナギの試食会のためです。

招待された和泊町の前登志朗町長など地元の人たち10人あまりが料理を堪能していました。特にうな重は何度も「おいしい」と口にしながらほおばっていて、あっという間に全員が完食しました。

参加者

島でウナギを食べる機会はなかなかありませんが、とてもおいしかったです。100点満点ですよ。いくらでも食べられます

参加者

研究員が寝る間も惜しんで取り組んでいましたから、心がこもっていますね。感無量です

沖永良部島で生まれ育ったウナギ

使われたウナギは、普通のウナギではありません。

鹿児島市に本社がある医薬品開発の受託事業を行う新日本科学が、4年前に沖永良部島に設けた研究施設で海水を使って卵から育てたウナギです。

食べられる大きさになるまでおよそ2年半かかりました。

ウナギ料理のフルコース

この日、試食会で提供されたのは、うな重や肝吸い、う巻きなど、まさにウナギのフルコース。

島で日本料理専門の店を経営し、2017年に天皇皇后両陛下が島を訪問された際には調理を任された林次男さんが腕をふるいました。

果たしてプロの目から見て「完全養殖」を目指す「和泊ウナギ」の品質はどうだったのでしょうか?

林次男
さん

脂がのっていますね。失敗もあったと思いますが、一生懸命研究して、こうやって立派に成長したからうれしいですよ。成仏してくれと思いながら作っています

ウナギをさばく林次男さん

林さんはウナギを手際よくさばいていきます。

この日のために作ったという秘伝のタレをたっぷり付けて焼き始めると、甘い香りがちゅう房いっぱいに広がりました。

私もうな重をいただくと、肉厚でふわふわとした柔らかい身に思わず笑みがこぼれました。
 

「完全養殖」の一歩手前 社長の次のミッションは?

研究施設のシラスウナギ

試食会に集まった地元の人たちを前に永田社長は、地球儀を見て大東島やグアムなども調査したものの、それらを上回る魅力が沖永良部島にあったことや、思っていたよりも早くシラスウナギの大量生産の基礎ができあがったことを報告しました。

永田社長は、人工のニホンウナギの大量生産に向けて、今年度はシラスウナギ1万尾以上を生産し、2026年度には商業ベースの最低ラインとなる10万尾に達したいとしています。

試食会であいさつをする永田良一社長
永田社長
 

将来、島に養まん場や加工場も作って、全国のウナギの愛好家に食べていただくことが次のミッションだと思っています。ウナギをしっかりPRするため「和泊町」というネーミングを使わせてもらいたい

“天然”を対象とした法律の壁

シラスウナギ漁の様子

「和泊ウナギ」の大量生産に夢が広がるなか、いまある壁が立ちはだかっています。法律による規制で、養まん場や加工場を作るには厳しい規制がかけられているのです。

年々、天然のシラスウナギの漁獲量が減り続け、10年前には、絶滅危惧種に指定されたニホンウナギ。法律は、シラスウナギが減らないよう資源を守ることを目的に作られました。

そのため卵から育てるシラスウナギや、人工種苗は完全に想定外。完全養殖の親ウナギから生まれた卵をつかって、うなぎを大量生産しようとしても、法律の整備が追いついていないのです。
永田社長も県などを通して国に働きかけているところです。


“和泊ウナギ”は新たな産業になるか

花の生産など農業を基幹産業とする和泊町にとっては、永田社長が目指す「完全養殖のウナギの大量生産」はいいことずくめ。

和泊町は環境省に指定された脱炭素先行地域で、環境に優しいサステイナブル(持続可能)な町を打ち出しています。

ウナギビジネスが軌道に乗れば、枯渇する資源を大切にする町として発信でき、産地として、新たな和泊ブランドの特産品ができると期待しています。

和泊町の前登志朗
町長

和泊町の可能性を広げてもらったと思います。ウナギは日本人にとって1番のごちそうだし、生まれも育ちも和泊町というのはうれしいです。日本中の人が“和泊ウナギ”を食べる。そんな日が早く来ることを願っています

最後に、永田社長に「会社の主な事業は医薬品開発の受託事業ですよね」と問うと、にこやかにこう答えてくれました。

趣味が魚釣りで、本業が漁業者みたいなものですので。シラスウナギを大量生産する技術は確立したので、あとは水槽を増やすことができればどんどん作れると思います。ようやく、そういう段階まで来ました

島の期待を背負った人工ウナギの研究。
完全養殖による大量生産で、手軽においしく和泊産ウナギを食べられる日がいつ来るのか、期待が膨らみます。

  • 古河美香

    NHK鹿児島放送局

    古河美香

    長崎局を経て鹿児島局勤務 現在は教育や経済を担当 2児の母親

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