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分身ロボで奄美ツアー!障害のある子どもたちの可能性に向けて

  • 2022年05月30日

難病などで重い障害があり、人工呼吸器などの医療的ケアが欠かせない子どもたちがいます。鹿児島県でもおよそ240人に上るとされ、外出もままならない毎日を過ごしています。

こうした子どもたちに”旅の楽しさ”を届けようと、大型連休中に小さなロボットが、奄美大島で活躍しました。分身ロボットを使ったツアーの狙いと、関係者の思いを取材しました。

(鹿児島局記者 堀川雄太郎)

奄美大島の海岸に現れたのは…

大型連休中の奄美大島。
透明な海が広がるビーチにちょっと変わった観光客の姿がありました。

手にしているのは大きさ20センチほどのロボット。
漂着した軽石を見せたり、波打ち際まで近づけたりすると、うれしそうに腕を動かしていました。

分身ロボットで感情表現

ロボットを動かしていたのは、およそ400キロ離れた鹿児島県薩摩川内市の中堀陽菜さん(17)です。

中堀陽菜さん

生まれてまもなく「SMA=脊髄性筋萎縮症」と診断され、人工呼吸器やたんの吸引などの医療的ケアが日常的に欠かせず、旅行は困難です。

陽菜さんは、わずかに動かすことのできる足の指でタブレットを使い、ロボットを操作します。
連休中、何度もツアーに参加しました。

東京の会社が開発した「OriHime」という、このロボットは、カメラやマイクが内蔵され、遠隔操作で頭を動かしたり、腕を上げたりできます。
自分の分身のように感情表現できるのが特徴で、“なんでやねん”の動作まで出来ます。

体験通じ将来考えるきっかけに

陽菜さんは奄美市の水族館で、ウミガメへの餌やりも体験しました。

間近に迫るウミガメの姿に、すっかり夢中になった様子の陽菜さん。
ロボットの操作にも慣れ、今後もいろんな場所に行ってみたいと感じています。

「海は美しかったです。分身ロボットの操作は楽しかったです。ディズニーランドに行きたいです」

母親の正美さんは、学校も訪問学級で、同世代などと外出を楽しめる機会がほとんどなかった陽菜さんにとって、分身ロボットによる奄美旅行はこれまでにない貴重な体験になったと感じています。

母親の 
正美さん

「いろんなところを見たり聞いたりして、実際に触れないけれども体験の1つとしてできるので、すごく楽しいと思います。

学校の友達と会う機会も少ないですし、地域の子たちと会う機会もないので、オンラインを通じてコミュニケーションが広がって、つながりができるというのは、すごくうれしいですし、この子の成長にも大切なことなのではないかと思います」

今回のツアーを企画した、熊本保健科学大学の佐々木千穂教授は、重い障害のある子どもたちのコミュニケーション支援にあたってきました。
分身ロボットを通じた経験は、自分の可能性に目を向けるきっかけになると言います。

熊本保健科学大学 佐々木千穂教授

「自分が好きなものや“やってみたい”と思うものを見つけることは、将来の夢ということになると思いますが、こういったお子さんたちは極端にそのような経験が少ないです。まずはそういう経験をしていただくことが何か将来につながっていけばと思っています」

障害のある当事者も参加して支援

最新の推計では、全国で1万9000人を超えるという「医療的ケア児」。佐々木教授は13年前に有志の団体を立ち上げ、支援に関わってきました。その活動を支えているのが、同じ障害のある当事者です。

メンバーの1人で、千葉県の益子千枝さんは、幼いころから絵を描くのが好きでした。
鉛筆を持ち上げることが難しくなった今は、パソコンを使ってイラストを制作し、広報活動などに携わっています。

今回のツアーでは、自身も参加したほか、SNSでの情報発信を担当してきました。
体験を通じて外の世界を知るとともに、訪問先で出会った人たちとの交流に魅力を感じ、今後もより多くの人に活動を伝えていきたいと言います。

益子千枝さん

「周りの人が、一見コミュニケーションとれないと思っているような医療的ケアの必要な重い障害のお子さんたちも、うまく機械さえ使えば、上手に文章を書いたり絵を描いたり、ふつうにコミュニケーションがとれることがあります。皆さんに広めることができたらと思います」

社会参加の新たな方法に

さらにもう1つ、佐々木教授が大切にしていることが、社会の理解を促すことです。
奄美大島でのツアーでは、分身ロボットを通じて、地元の子どもたちと交流するイベントも企画しました。

砂浜では、ガラスのかけらを拾って見せてくれる子どもも。佐々木教授とツアーを企画した宇検村の地域おこし協力隊は、村の子どもたちにとっても新たな気づきにつながったと感じています。

宇検村地域おこし協力隊 栄雄大さん

「ここの子どもたちにとって当たり前の体験が、分身ロボットを使って体験する子どもたちにとっては当たり前の体験ではないこともあるし、その逆もあると思います。いろんな人がいて、そういった人たちでお互い協力してやっていくことが大事ということを体験として学んでもらえたらすごくうれしいです」

佐々木  
教授
 

「社会自体が重い障害のお子さんたちが社会に出て行くことについて、まだなじんでいないところもあると思います。最近はICTも使いながらいろんな道が開けていくと感じるので、新しい社会参加のあり方というのも一緒に模索できたらと思います」

取材を終えて

薩摩川内支局で勤務していたときに取材をしたことのある陽菜さんが、分身ロボットを操作しているという話しを聞いて、今回の取材に至りました。
奄美大島のツアーには、陽菜さんだけでなく、県内外から子どもたちが参加していて、その可能性や広がりを実感しました。
もちろん、実際にその場所へ行くことが一番なのは間違いありませんが、この分身ロボットは、旅行だけでなく、仕事など様々な可能性を与えてくれるのではないかと期待しています。
去年9月には「医療的ケア児支援法」が施行されるなど、徐々に支援の動きも始まっていますし、コロナ禍をきっかけにオンラインの導入が進んだ今だからこそ、こうした取り組みが、広がってほしいと思います。
そして、私たちも理解を深めていくことが大事だと改めて感じました。
 

  • 堀川雄太郎

    NHK鹿児島放送局

    堀川雄太郎

    2014年入局 山形局や薩摩川内支局を経て調査報道班のキャップ 種子島のロケットや原発など科学文化も担当

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