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    大火砕流30年 火砕流の脅威と備えを考える

    2021年6月17日

    30年前に長崎県の雲仙・普賢岳で発生し、多くの犠牲者を出した大火砕流。火山を多く抱える鹿児島でも、この10年ほどの間に、桜島・口永良部島・新燃岳など各地で火砕流が発生しています。
    火山ガスや火山灰などが一体となって一気に山を流れ下る火砕流。温度が数百度に達して時速100キロ以上の速さとなることもあり、火山災害の中でも特に危険な現象です。その脅威と備えについて改めて考えます。(鹿児島局記者 津村浩司)

    桜島で“火砕流”流れ下った?

    4月25日未明、桜島で爆発的な噴火が起きました。気象庁は火砕流が流れ下ったと発表。噴火速報が出され警戒が必要な範囲が拡大されました。ところが半日後、気象庁は現地調査で痕跡が確認されなかったとして、「火砕流ではなく噴煙の一部だと考えられる」と発表し直しました。

    結果的には誤っていた気象庁の発表。

    ただ、桜島の噴火活動に詳しい京都大学の井口正人教授は、「火砕流がいろいろな火山災害の中でも一番怖い現象だという理由はその速さにある」として、早い段階で判断したことは評価できるとしています。


    雲仙・普賢岳の大火砕流

    火山学者にとって苦い経験となっているのが、30年前に起きた雲仙・普賢岳の火砕流です。危険性が広く共有されず、取材中の報道関係者や消防団員など43人が犠牲となりました。

    火山噴火予知連絡会の現在の会長で九州大学の清水洋特任教授は、30年前、助手として現地で観測や研究にあたっていました。当時、雲仙・普賢岳では、大火砕流の1週間あまり前から火砕流が繰り返し起きていました。ただ火山学者たちは、パニックになるのをおそれて「小規模な火砕流」と表現していたのです。

    清水洋特任教授

    学術用語としては小規模は正しいんですよね。だけど受け取り側としては、小規模と言ってしまうと『大したことがないんだ』という感覚になって、どうしても防災意識が少し薄くなる。受け取り側のことをきちんと考えながら情報を出さないといけないというのは、雲仙の火砕流災害のひとつの教訓です



    噴火予知の限界

    事態の深刻さを伝える情報の発信。そこには予測の難しさという課題があります。

    雲仙・普賢岳では当時、山頂に溶岩ドームが現れました。マグマが地表に現れて固まったもので、崩れた場合、火砕流を引き起こすおそれがあります。ただ、直近に起きた江戸時代の噴火では、溶岩が現れたものの火砕流は発生しなかったため、明確にリスクを伝えることが難しかったといいます。

    清水洋特任教授

    2回の江戸時代の噴火が、いずれも溶岩が出てきて、そのあとゆっくりとした溶岩流となったんです。火砕流にならずに。火山の噴火については、原理に基づいての予測が現状でもほとんどできない状況なので、どうしても過去の経験に頼ってしまうというところはあります




    予測できない火砕流の影響範囲

    難しさは鹿児島の火山にも共通しています。6年前に起きた口永良部島の爆発的な噴火では、溶岩ドームができなかったものの火砕流が発生。噴煙の一部が山を流れ下ったものでした。

    桜島でも過去に火砕流が発生し研究が進められています。ただ、将来発生する火砕流の影響がどこまで広がるかは、なかなか予測できないと井口教授は指摘しています。

    井口正人教授

    爆発的な火砕流になってくると、火砕流になるマグマの量が事前にわかりません。まったくわからないわけではないんですけど、わかるのはその前の噴出するマグマの量。その中で、どのくらいの量が火砕流になっていくのかどうかというのは、なかなか難しいところもあるので、影響範囲を予測するということは難しい



    火山災害 必要な心構えは

    現在、全国の火山には観測網が敷かれて監視が続けられています。しかし、そもそも噴火のメカニズムはその都度異なり、完全には分かっていないのが実態です。世界的に見ても観測体制が充実しているとされる桜島でさえ、ことし4月に結果的に誤った発表をしたように、火砕流が起きたかどうかを瞬時に判断できるとは限りません。

    井口教授は、明確に分からなくても、影響を考えると早い段階で情報を出したことは評価できると話しています。それでも噴火が起きてから、火砕流が発生したとして噴火速報を出すまでには40分以上かかっていました。

    気象庁が警戒を呼びかける情報を出してから、避難するまでの時間が限られるということもあるかもしれません。気象庁が発表する情報には、噴火速報のほかにも噴火警戒レベルのレベル上げなどがあります。こうした情報が出た場合には、身の安全を確保するといった必要な防災行動をすぐにとる心構えを、日頃から持っておくことが大切だと思います。

    今回の取材で、桜島の南岳火口から最も近い集落で地元の人に話を聞きましたが、噴火速報という情報の発表自体、認識されていませんでした。私たち報道に携わる人間が、火山に関する情報の意味を日頃からしっかりと伝えていくことが必要だと思います。


    雲仙・普賢岳の教訓を引き継いで

    30年前の雲仙・普賢岳の大火砕流をめぐっては、取材や報道のあり方も批判されました。今の安全管理の基準に照らして当時の対応を振り返れば、もっと違う形で行うべきだった点はいくつもあると思います。ただそれは、私たちがこの普賢岳での火砕流を通じてその恐ろしさを知っているからで、その経験がない当時は難しい部分があったのではないかと思います。

    私たちはいま、日々桜島やその他の火山について取材していますが、最先端の研究者でも分からないことが多いという事実を謙虚に受け止めて、火山のリスクを早く、正確に伝えられるよう取り組んでいきたいと思います。