日本賞(全参加番組を通じて、最も教育的価値の高い優れた番組)
総務大臣賞(一般教養部門最優秀番組)
音のない世界で

パブリック・ポリシー・プロダクションズ(アメリカ)
[番組の内容]
人工内耳移植により、耳の不自由な人々の聴覚が回復する可能性が広がってきている。聴覚に障害のある幼い子どもに移植を受けさせるか、あるいは、あるがままの姿を尊重すべきか・・・番組は、難しい選択を迫られる二組の夫婦を追ったドキュメンタリーである。
一方の、ともに耳が不自由な夫婦の5歳の長女は、音のある世界に興味を持ち始め、人工内耳の移植を望んでいる。しかし、話し言葉とは違う手話の文化に誇りを持っている両親は、彼女に聾者としてのアイデンティティを持ってほしいと願っている。そして、聾者への理解とおもいやりのある小さな町への移転を決めたのをきっかけに、長女は考えを変える。
もう一組の夫婦は、生まれた息子が難聴であることを知って、人工内耳移植を選択する。聾者の両親のもとで育った妻は、手話の文化を理解していながらも、親として、子どもの可能性をできる限り広げてやることが最善と考えたからだ。
番組は、それぞれの決断に至るまでの、お互いの意見のぶつかり合いや心の葛藤を克明に映し出している。

[審査講評]

「音のない世界で」は優れた教育テレビ番組に対する審査基準をすべて満たしている。
この番組は、聴覚障害者の世界を内面から見たまれな番組である。
二人の聴覚障害児に人工内耳移植手術を施すべきか否かという決定に焦点を絞り、そこから発展して、家族、アイデンティティ、障害、子どもの権利、マイノリティである聾者の文化についてドラマティックに訴えかけてくる。そして、ほとんどの視聴者はテレビ教育番組の望ましい効果のひとつを経験する。つまり徐々に自分自身の姿勢を問い直すのである。
また、この番組は、取材を受ける側と番組を作る側との間に親密な信頼関係が築かれており、ドキュメンタリーを制作する上での理想的なモデルとなっている。



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