IPCEM&イベント (2013年)

第40回 教育コンテンツ世界制作者会議(IPCEM) 2013.10/22-23 NHK放送センター(東京・渋谷)開催リポート

session5 アニメーションの可能性

誰にでも訪れる「老い」を、温かなアニメーションでコミカルに描いた話題作『しわ』は、昨年の「グランプリ日本賞」に輝いた。また、海外でも人気のあるアニメーション『クレヨンしんちゃん』は、好奇心旺盛な幼稚園児の日常を描きながら、家族や友人との絆の強さを教えてくれる。この2つの作品の監督がアニメーションの表現力を中心に語り合った。

パネリスト

イグナシオ・フェレーラス イグナシオ・フェレーラス
(スペイン)

アニメーション監督
原恵一 原恵一(日本)
映画監督
   

モデレーター

米村みゆき (日本)
専修大学文学部准教授

 まず、アニメーションが社会問題を描くことについて。フェレーラス氏は、『しわ』では、登場人物の生活をリアルに描くことを重視したという。リアリティを追求することは、原氏も『河童のクゥと夏休み』でこだわった部分だ。原氏は、昔のアニメには、主人公が最後に死ぬなど残酷な描写があり、それを見た自分は確かに悲しい思いをしたけれども、それ以上に学ぶものがあった。現代の子どもにも同じ気持ちを味わってほしいので、現実をリアルに描くことに挑戦したいという。フェレーラス氏も、原氏と同様に、アニメを教育に活用する場合、人生の教訓も含めるという意味で、リアルなものが効果的だと語った。

 映画版の『しわ』には原作にはないシーンが含まれているが、その演出についてフェレーラス氏は、映画は異なる媒体なので、映画にふさわしいドラマチックな仕上げが必要だ。大事なのは、原作の精神に忠実であることだという。原氏も、原作をそのまま映像化するのではなく、自分のオリジナリティを加えることが、原作のためにも良い結果を生むと話した。

 また会場では、『しわ』を見て印象に残ったシーンを両監督と観客が画用紙に描き、それについて意見交換するといった場面もあった。
 娯楽性を求める商業映画の世界では、地味な映画には出資者が集まりにくいという厳しい現実があるため、公的資金の援助を受けたと言う。だが、配給会社が観客に抱いている固定観念は正しいとは限らない。観客は監督らが期待している以上の想像力を持って映画を見てくれる。自分たちが描ききれなかった部分も想像してくれるはずだと原氏は語る。

 米村氏は、実写映画は俳優の個性や現実の風景に一定部分が規定されてしまうのと対照的に、アニメは白紙の状態から作るメディア。だからこそ人物描写や表現のディテールに監督のこだわりがより反映されていると語った。それを受けてフェラーレス氏は、『しわ』をアニメにしたのは、監督が物語の細部をコントロールでき、より精密に伝えられるからだと述べた。アニメだからこそ、より鮮明に現実社会を描き出すことができるという。
また原氏は、実写は算数でいうところの引き算だが、アニメは足し算。実写は余計なものを排除していく作業が主になるが、アニメは白紙からスタートして、そこにどんどん絵を足していく作業だとする。しかし最近、自ら実写映画を監督したときに感じたのは、最近の日本のアニメは絵の作りに凝りすぎて足し算が過ぎるのではないか、今後はアニメにも引き算が必要なのかも知れないと語った。

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