ドイツの数学者、ベルンハルト・リーマンが150年前に発表し、現在も数学史上最難関の難題と怖れられているのが、一見無秩序な数列にしか見えない素数がどのような規則で現れるかという「リーマン予想」だ。素数の規則が明らかにされれば、宇宙を司どるすべての物理法則がおのずと明らかになるかもしれないという。一方、それが私たちの社会に大きな影響を及ぼす危険があることはあまり知られていない。クレジットカード番号や口座番号を暗号化する通信の安全性は、「素数の規則が明らかにならない事」を前提に構築されてきたからだ。素数の謎に挑んだ天才たちの奇想天外なドラマをたどりながら、CGを駆使し難解な理論を視聴者に正確にかつ分かりやすく説明している。

 数学史上最大の難問と言われるリーマン予想と素数の世界を番組化することは大きな夢でした。そこには日常生活からは全く想像もつかない、畏怖の念さえ感じるほどの深遠な宇宙が広がっていると知ったからです。しかし、実際に放送にたどり着くまでにはいくつものチャレンジがありました。リーマン予想とは何かを数学の素人である私たちがどう理解すればいいのか? 数学者が感じているという素数の神秘にどうしたら触れられるのか? 無味乾燥な数の世界をどう映像化すればいいのか? この難問は、数学者を訪ね歩くディレクターやプロデューサーだけでなく、デザインやCG、映像合成を担当するスタッフまでも巻き込む大きな竜巻となって、最後まで私たちを苦しめました。しかしその苦労も、番組を見て下さった多くの方々が、「なんだか全然分からなかったけど、むちゃくちゃ面白かった!」という感想を下さったとたん、吹き飛びました。普通のテレビ番組では伝えられない“何か深いモノ”を届けることが出来たんだと思えたからです。栄えある日本賞のグランプリは、スタッフ全員にとってこの上ない励ましとなりました。最後となりましたが、ご協力下さった多くの数学者、物理学者の皆さまに深く御礼申し上げます。
井手真也 チーフプロデューサー

 私たちはどこから来たのでしょうか、そして私たちは一体何者であり、そしてどこに行こうとしているのでしょう。これは私たちの生命の基本的な疑問です。この背後にはマスタープランがあるのでしょうか。何百年もの間、数学者たちは宇宙のある法則を追い求めてきました。2、3、5、7、11のように1とその数以外に正の約数を持たない簡単な数字、素数、その謎は過去から現在に至るまで、多くの数学者が挑み続ける最も巨大なパズルです。素数は宇宙の創造者の暗号を明らかにできるかも知れない暗号であるとも言われています。
 「素数の魔力に囚われた人々」は多くの科学者が素数の秘密を探ろうとしたドラマティックな歴史をたどっています。
 最も難解な課題を描きながら、視聴者の緊張感、好奇心、興味を引き付けたまま最後まで離さない傑出した作品です。世界を牽引する素数の研究者へのインタビュー、素晴らしいビジュアル表現とオーディオ技術が一体となって、わかりやすくかつスリリングな、まるでミステリーの謎解きのような作品となっています。 この素数をめぐる驚異の物語は、たとえ数学が苦手でも万人が魅了されます。
これは私たちの世界観を変え、若い人たちが明白で既知のものを越えて見ることを後押ししてくれました。

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