「課外授業 ようこそ先輩 みんな生きていればいい」は、さまざまな分野の著名人が自分の母校を訪れて、それぞれの専門や人生を振り返って特別授業をする、ウィークリーのシリーズ番組。 このエピソードでの教師役は、福島智さん。9歳で視力を、18歳で聴力を失った彼は、通常の人間よりずっと多くの困難を経験している。東京大学で助教授を当時務め、障がい者のためのバリアフリー環境の研究をしている。福島先生は、子どもたちに、見えない、聞こえない状態を想像させ、いかにコミュニケーションが難しいか、そして、いかにコミュニケーションが大切かを説いた。生きていることの大切さを語った福島先生のメッセージは、どうしたら、暗闇に光を見つけられるか、どうやって見つけなければいけないか、を教えてくれる。
 日本賞グランプリ受賞作品には、確かに番組制作能力に裏打ちされたいくつかの試みを示してくれました。10代の若者を惹きつけるのは、非常に難しいですが、この番組はいとも簡単に彼らを魅了し、心を捕らえています。「障がい」という扱いの難しいトピックですが、見るものに「かわいそう」と言った気持ちは起きませんし、障がいのある人を「スーパーマン」のように扱ってもいません。
 盲目で耳の聞こえない福島智先生に初めて会った時、カメラは子どもたちの不安げな表情をとらえました。しかし、子どもたちは少しずつ障がいがどのようなものか理解することができ、福島先生とコミュニケーションを取れるようになっていきます。次にカメラは、福島先生の伝えたかったことを心から理解してくれた子どもたちへの感謝の気持ちを具に伝えました。先生と子どもたちの関わりをつぶさに表現することによって、「コミュニケーション」という、人間の生活において非常に大切なものを扱い、どうやって人と関わり、理解し合うのか、を効果的に示しています。この番組が5つの最優秀作品の中からグランプリに選ばれたのは、視聴者である若者や大人に対して、考え方や行動に長期的な変化をもたらす力があったからです。
 僕の友だちの息子が、去年、大学へ入った。その入学式で祝辞をしたのが、福島智教授だった。友だちから電話がかかってきて、「スゴイ人がいるから番組にしてくれないか」と言われた。東大のホームページで、福島さんのスピーチの全文を見つけた。
 そこで福島さんが、若者たちへ夢を語っていた。読んで、泣いた。この番組で、福島さんに初めて会ったとき、「子どもたちへ一番教えたいことは何ですか」って聞いた。「とりあえず生きていればいい」彼は、そう答えた。(とりあえず・・生きていればいい・・・)日本は、今、自殺大国と呼ばれているらしい。この人の存在を子どもたちへ見せるだけでいい、出会って触れ合って感じるだけで授業になると想った。
 「死にたいって思ったことなんか、一度もない。絶望のドン底に沈んだ瞬間、地面を蹴って這い上がっていた。でも何で、そんなことができたのか、僕にもわからないんです。その答えを子どもたちと一緒に探してみたい」
 福島智さんや子どもたちと過ごした数日間、この番組を作って、僕が一番感じたことは、人間って本当にスゴイいんだ、ということ。人間の可能性、人間のすごさを生まれて初めて実感したような気がしている。日本賞のグランプリ、ありがとうございました。

東京ビデオセンター
ディレクター 玄 真行


 『課外授業ようこそ先輩』は、NHK総合テレビで10年間放送している長寿番組です。この度の受賞は大変な栄誉で、長年この番組に関わってきた多くの皆さんに、心からお祝いとお礼を申し上げます。これからも良質の教育コンテンツを生み出し、ふたたび「日本賞」の場でお会いできるように、努力を続けたいと思っています。
 みなさま、ありがとうございました。

NHK編成局編成主幹
喜園 伸一

TOP