第35回「日本賞」最優秀賞

JAPAN PRIZE 2008 List of Prize

  幼児向けの人形劇。主人公のツェハイは、好奇心旺盛な6歳のキリンの子。ペットの蝶が大好きで、大事に虫かごに入れて世話しているが、ある日『愛するものが喜んでくれるように行動しなさい』と、蝶を逃がすように諭される。最初嫌がっていたツェハイだが、父親キリンと一緒に本を読んだ時、ダチョウのお母さんが大事な子どもを喜ばせるために自由に走らせる、というストーリーに影響を受け、蝶を逃がしてやろう、と決心する。父親キリンは、その決断をほめ、代わりにちょうの写真をプレゼントする。「私もお前を愛しているから喜ばせたいんだよ。」
 この番組では、父親キリンとの関わりの中で、愛とはどんな気持ちか、それが何を意味するのか、表現するのがいかに難しいか、が、見慣れている物や動物たちを交えて語られているため、見ている子どもたちはツェハイを通して容易に理解できる。限られた制作費の中で作られている番組だが、ツェハイの声も制作者自身がこなす、など、手作りの温かさが感じられる。
 わたしたちはこの作品を最優秀に選びました。なぜなら、この番組は一見単純に見えますが、実際は決してそうではなかったからです。子ども用メディアにしばしば見落とされがちな人間経験の理解の深さをツェハイは表現しています。その発達段階にいる子どもたちの興味を引くストーリーを使い、「『愛』という複雑な基本感情の理解とその表現」という教育目的に芸術的な方法でチャレンジしています。番組の中の愛情のこもった子どもと父親のやり取りは、ポジティブな親子関係の素晴らしい手本であり、そればかりではなく、アムハラ語アルファベットのつづりを紹介するという言語学習も効果的に行われています。幼児が、自分たちの文化環境が反映された中でもっとも効果的に学習できるのは、周知のことですが、この番組は、子どもが慣れ親しんでいる生活を描写し、人生経験を豊かにするストーリーを魅力的に語り、プライドと尊厳を高めてくれます。
 高名な「日本賞」の幼児向けカテゴリーで最優秀作品に選ばれ、本当にうれしいです。「ツェハイ 愛を学ぶ」は、エチオピアの弱小ながらも献身的な制作チームにより作られた番組です。制作途中、さまざまな障害がありましたので、毎日どこまで制作できるのか、手探りで進んできました。「ツェハイ 愛を学ぶ」は、非常に限られた制作費と機材で作られていましたから、まさか「日本賞」で賞を取るなんて想像すらしていませんでした。幼児用教育メディアにおいて、世界を代表する専門家である審査委員の方々に高い評価をいただき、この上ない達成感を抱き、勇気を与えられました。
 人口の44.5%が15歳以下の国であるエチオピアには、公立の幼稚園も保育園もありません。だからこそ、教育不足を補うため、幼児のための教育番組が必要なのです。テレビは、少なくとも280万人の子どもたちが見ることができます。私たちはその実現に向けて大きな責任を感じています。たとえ、この番組が、どんなにエチオピアの子どもたちに愛されたとしても、世界に知られたとしても、制作費が限られているので、この先どうなるかわからないところはありました。だからこそ、「日本賞」での受賞は私たちにとって大きな意味があるのです。
 第35回「日本賞」そしてNHK、私たちの努力を認めてくださって本当にありがとうございました。「日本賞」で会ったすべての人たちに触発され、ますますのやる気につながりました。ぜひ来年もみなさんにお会いしたいと願います

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