第35回「日本賞」最優秀賞

JAPAN PRIZE 2008 List of Prize

 この作品は、世紀にわたって繰り返された、数学者の痛ましい敗北と畏敬の念を起こさせる勝利の物語で知性の奮闘を描こうとしている。位相幾何学的命題、たとえば「宇宙の形」などを、コンピューター・グラフィックスと実際の写真を効果的に使って説明している。
 宇宙はどういう形をしているのか?・・・ ポアンカレ予想は、フランス人の数学者、哲学者であるポアンカレにより、1904年に提起された数式である。多くの数学者が100年以上にわたって、証明しようと試みたが決して解けなかった高等数学の難問だ。すべてを捧げて、キャリアも捨てて、この数式を解くことに努力した人の中には、どうしても解けないフラストレーションから、狂気の淵まで追いやられた学者もいた。最近になって、孤高のロシア人天才数学者、グレゴリー・ペレリマンが、革新的にこの難解式の証明に成功したにも関わらず、数学者においての最高峰と言われるフィールズ賞を辞退した。しかも、彼は、働いていた研究所まで辞め、すっかり行方をくらましてしまったのである。そして、世紀の素晴らしい解明は、謎を残したまま現在にいたる・・・。
 今回の審査では、異なる地域、年代、文化を越えた幅広い視聴者層に届く、インターネットや双方向性教育メディアの大きな可能性を見ることができました。
 しかし、技術を駆使し、高等数学という難解なテーマに取り組んでいる、この素晴らしいリニアコンテンツは、誰から見ても受賞にふさわしいものでした。制作者による膨大な量のリサーチと取材により明かされた、ある数学者の非凡な人生。CGやアナロジー、ユーモアを絶妙に交えた手法により、私たちは地球を巡る精神的な旅を体験し、100年以上多くの数学者たちを悩まし続けた謎に立ち向かった人々に共感することができます。
 番組は、とてもよいペースで進行し、視聴者が飽きないよう、上手く反復、説明がなされています。この番組は、視聴者が静かに偉大な数学者たちの知性に入り込める、という滅多にできない教育目標を達成しています。
 当初、この番組の企画を提案した時、私たちの周囲には「ポアンカレ予想って一体何なんだ?!」、「それが解けたら何か社会の役にでも立つのか?」、「難問の話が本当にテレビになるのか?」といった、どちらかというとネガティブな反応が溢れました。制作現場は不安に包まれ、何度となく挫けそうになりました。しかし、それを支えてくれたのが、「デザイン・CG・合成チーム」の活躍でした。作りたい映像のイメージの大枠をチームに伝えると、彼らはそれを何コマもの絵コンテに描き、幾晩も徹夜してCGを作り上げ、さらにそれを撮影映像とシームレスに合成し、難解な数学の世界をファンタスティックに可視化してくれたのです。また、横浜国立大学の根上生也教授と東京工業大学の小島定吉教授には何度となく私たちの質問にお答えいただき、多くの映像化のヒントを頂戴しました。
 今回の受賞は、そうした番組を支えて下さった大勢の皆さんと共に喜び合いたいと思います。

チーフ・プロデューサー、NHK
井手真也

TOP