第33回「日本賞」<2006年>最優秀番組

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番組部門 一般教養の部
文部科学大臣賞
番組名 ベルダンの戦い〜地獄への降下〜
機関名 第2ドイツ・テレビ協会
国名 ドイツ
番組内容
 1916年、第一次大戦下のドイツとフランスは、フランスの防衛拠点ベルダンで壮絶な攻防戦を繰り広げていた。戦車や催涙ガスなど当時最先端の近代技術を動員したこの戦いは、独仏両軍にけた違いの犠牲を生む。
 この番組は、大規模で堅牢なボー堡塁(ほうるい)とその周辺で対峙する独仏両軍の6人の兵士と軍医の視線で、戦争のもつ限りなく非人間的な側面を描き出す。
 ドイツ軍に包囲された堡塁の中で部下たちが飢えと乾きに苦しみながら極限状態に追いやられるのを見かね、精一杯の抵抗の末、ドイツ軍に降伏するフランスの司令官レナル。目前で朋友や部下を次々に失い、上層部の指令に疑問を募らせていくフランス軍中隊長デルベ(高校の歴史教師)。何のために誰と戦っているのか納得できないまま前線に送られ、地獄を見るドイツ軍の隊長ロズナー(弁護士)。愛する妻子を最後まで想い続けながら敵の銃弾に倒れるフランス軍兵士カテックス(公務員志望)。自らの病も顧みず不眠不休で負傷兵の治療を続けるユダヤ系ドイツ人軍医ストラウス。この戦いで部下の7割を失いながらバイエルンの最高勲章を手に生還するドイツ軍司令官フォン・アンドレアン。
 いずれも、実在した、職位も立場も異なる6人の男たち――この番組は、彼らが残した手紙や日記にもとづいて再現した戦場シーンのドラマ、当時の資料映像、そして、変化する国境線を表わす CG の地図で構成されている。結果として無益な大量殺戮と消耗戦以外の何ものでもなかった「ベルダンの戦い」を今に伝える記録であると同時に、この戦いの中で命を落とし、あるいは心身に深い傷を負いながらその後の人生を送る6人の「個人の物語」でもある。
審査講評
 一般教養番組の部はスウェーデン、韓国、フランス、日本、カナダからの審査委員により有意義な議論が行われ、上映された番組には心を動かすものが数多くありました。「ベルダンの戦い」を見たあと、審査委員の一人が急に席を立ち、部屋の隅で窓の向こうを見ていたのです。携帯電話で話しているのかと思ったのですが違いました。一人静かに泣いていたのです。審査委員一同、あの出来事は忘れられません。
  優れた番組にはそのような力があります。一分のすきもない事前調査や細部へのこだわり、高い演出力は大切です。しかし単に「よくできた番組」と比べ「卓越した番組」は、見る人の気持ちを番組の登場人物と重ね合わせる力があります。制作者の伝えるものに、基本的な人間の価値とは何かと訴えるものがあるからです。
 「ベルダンの戦い〜地獄への降下〜」はそれらを兼ね備えた優れた番組であったため、高く評価され、受賞となりました。
制作者コメント
アネッタ・フォン・ダ・ハイダ
エグゼクティブ・プロデューサー


 私たちのドキュメンタリードラマが名誉ある「日本賞」をいただき、光栄です。ヨーロッパに住む私たちにとって、ベルダンの戦いは近代戦争の狂気のシンボルであり、フランス東部にあるこの町の名前は広く知られています。ベルダンの歴史はフランス、ドイツ両国のナショナリズムと憎しみの歴史ですが、現在のベルダンは和解の象徴でもあります。 1984 年にフランス大統領、フランソワ・ミッテランとドイツ首相、ヘルムート・コートがベルダンの地を訪れ、手と手をとり、両国の犠牲者に哀悼の意をささげました。
 ヨーロッパ以外の地域ではベルダンに対する見識が異なることはよく分かっていました。しかし、世界中から東京に集まった参加者は私たちのメッセージを理解してくれました。上映会の後、スリランカの参加者から、彼らの国で起きた残虐な内戦を思い出させると言われました。また、カナダの参加者は心を動かされたと言ってくれました。「ベルダンの戦い」は戦争を描いた番組ですが、平和へのメッセージを込めた番組なのです。それぞれの文化的背景が異なっていても、メッセージは届いていると強く感じています。
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