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活動は日中限定!釧路「レタラ救急隊」運用開始のわけは

  • 2024年4月25日

近年、全国的に救急隊の出動件数が増加しています。釧路市でも例外ではありません。出動件数の増加により、救急隊が現場に到着するまでの時間も増加しています。そこで釧路市では、一般的な救急隊とは少し異なる救急隊の運用を開始しました。その名も「レタラ救急隊」。救急隊をめぐる背景も含めて取材しました。
(NHK釧路 竹之内凌)

レタラ:「真っ白」からの挑戦

釧路市消防本部では、4月から「レタラ救急隊」という名前の新たな救急隊の運用を開始しました。

「レタラ」とはアイヌ語で、「白」を意味します。救急車の色や、新たな試みを「真っ白」な状態から始めるという意味が込められています。職員の公募から決まりました。
レタラ救急隊と一般的な救急隊の違いは勤務時間です。
一般的な救急隊は午前9時ごろから24時間勤務したあと、次の日に休みをとる勤務体系です。一方、レタラ救急隊の勤務時間は平日の5日間、午前9時前から午後5時すぎまでの日中に限定しています。勤務時間は一般的な企業と同じと言えます。

年々増加する出動件数

救急隊の運用を日中に限定するのには、救急隊の出動をめぐるさまざまな事情があります。
釧路市内で去年1年間に通報を受け、救急隊が緊急出動した件数は1万1017件。
コロナ禍の期間を除き、出動件数は年々増加しています。高齢化や出動の多様化などが理由と言われています。実際に救急隊員も、出動件数の増加を実感していると話しています。

レタラ救急隊  菖蒲田幸助 隊長
「僕もかれこれ18年ほど救急車に乗っていますが、乗り始めたころに比べるとかなり件数が増えたと実感します。高齢化もありますが、救急車のニーズが増えているんだなとも感じます」

出動件数の増加により、救急車が通報を受けてから、現地に到着するまでの平均時間も10年前と比べて1.8分増えています。救急隊員によると、応急手当が1分遅れることによって、救命率が7%から10%下がることもあるといいます。命の現場において、1.8分の差は非常に重要です。
現場までの到着時間を短くするためには、救急隊の人員を増やし、運用数を増加させれば解決できます。しかし、24時間365日救急隊を運用するためには、最低でも10人ほどの人数が必要になるほか、それに伴う費用もかかってしまいます。

平日の日中に集中

そこで、消防では出動件数の分析を行いました。

すると、去年1年間の1万1017件の出動件数のうち、8割以上が平日の出動でした。さらに、平日の出動のうち、およそ半分が午前9時から午後5時の8時間に集中していました。平日の方が人の流れが多く、交通事故や作業事故などが起きやすいためと見られています。
そこで、救急隊の需要が高い平日の日中だけを増強する形で、新たな救急隊の運用を開始したのです。レタラ救急隊の運用開始により、市内では平日の日中に活動するのは7隊から8隊に増えました。平日の日中のみに活動する救急隊は、道内では旭川市でも、ことし4月から導入されています。

救急隊の新たな働き方にも

新たな救急隊は働き方改革という点でも注目されています。
レタラ救急隊は、一般的な救急隊と違い、土日や夜間が休みとなっています。これまでの24時間勤務では休日や夜間などに家に帰ることができませんでした。また、勤務中はいつ出動があるか分からないため、食事のときなどでも常に緊張感があるといいます。
一方で、レタラ救急隊は勤務時間が特定されています。毎日しっかり家に帰れるため、夜しっかり寝られることがうれしいと隊員は話していました。さらに、子育てや介護など家庭の事情に合わせやすくなることも期待されています。

レタラ救急隊  松本光央 隊員
「救急隊員のなかには、家庭の事情で辞めてしまったり、現場に戻りたくても戻れなかったりする職員もいます。男女問わず24時間勤務が難しいため、救急隊の現場勤務をやりたくてもできないという職員はいると思います。レタラ救急隊を希望する隊員も今後は出てくるのではないかなと思います」

一方で、初めての週5日間の勤務に対して、不安な気持ちもあると隊員たちは話しています。サイレンを鳴らして緊急走行するのは、隊員にとって精神的にも肉体的にも大きなストレスとなります。今までは隔日勤務になっていたため、連続して5日間勤務することはありませんでした。隊員たちは、体力などさまざまな面で不安なところもあるといいます。

しかし、やることは変わらないと隊長は意気込みを語ります。

レタラ救急隊  菖蒲田幸助 隊長
「新たに発足した救急隊なので、隊員がどのように疲労するか、心身ともにそういった変化を見てあげながら運用していきたいと思います。それ以外は本当に今までとスタンスは全く変わらないので、市民のために頑張りたいです」

取材後記

24時間365日対応が基本と思われている救急隊。しかし、出動件数の増加などにより救急隊員たちの使命感だけでは、どうにもならない現場があります。それでも出動の分析などを行い、懸命に試行錯誤して、一つでも多くの命を救おうとしている救急隊の人たちの姿を取材を通して感じました。一方で、救急隊員の働き方を考えることも重要な問題です。日中だけ運用する救急隊は全国的にも広がりを見せています。救急隊員にとって働きやすい勤務になるのか。そして新たな救急隊が釧路市民を助ける一手となるのか、今後を注視していきたいと思います。

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  • 竹之内凌

    釧路局

    竹之内凌

    2023年入局。札幌局を経て、釧路局で警察・消防・水産を取材。 日々事件・事故を追いかけ、道東を走り回っています。

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