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「道南スギ」新たな活用にかける

  • 2024年1月11日

「北海道にはスギ花粉がないらしい」とよく言われます。 でも実は、北海道にもスギが生えていることを知っていますか?
伐採期を迎えているにもかかわらず、適切に利用されてきませんでした。 そんな中、このスギの活用方法を20年間考えてきた人がいます。
 近年、街中で使われる事例も増えてきています! さて、みなさんの身の回りのどこにスギが使われているのでしょう?   

▼目次
1. 北海道に生えるスギ「道南スギ」
2. 道南スギが抱える課題
3. 道南スギの普及に尽力する人
4. こんなところにも道南スギ

北海道に生えるスギ「道南スギ」

11月、道南・七飯町の大沼国定公園。カヌーの進水式が行われていました。
カヌーの制作者は、森町の地域おこし協力隊。そして制作に用いたのが、北海道の南・渡島半島に生えていることから名がついた、「道南(どうなん)スギ」です。
スギ産地の北限がこの辺りなので、これより北に行くとスギはほとんど見られません。

カヌーを制作した小川航輝さん
めちゃめちゃ楽しいです!思ったよりも全然普通に浮かんで、ひとことでいうと感無量です。
地元の木材を使って作りたいというのもありましたし、みなさんのご協力あってこの船ができたなって今しみじみ感じています。

北海道のスギは、250年ほど前、本州から植林されました。
およそ50年で成長スピードが緩くなり、その後伐採に適した時期を迎えます。
北海道では電柱や工事現場の足場として使われてきました。

道南スギが抱える課題

実は、この道南スギ、ある課題を抱えています。
以下は、樹齢5年ごとに区切り、それぞれのスギ面積を表したグラフです。
樹齢50年を超え、伐採期を迎えているものがおよそ65%!
山にスギが余っている状態なのです。

これには、主に2つの理由があります。


① 本州と異なり、北海道ではスギが住宅用の建材として使われてこなかった
北海道で建材として使われてきたのは、トドマツなどの白い木材でした。
一方、スギは赤みが特徴。この赤さが使われてこなかった要因の一つだといわれています。
さらに、北海道の南部にしか生えていないため、スギは普及が進みませんでした。

(写真提供:道総研 林産試験場)

道南スギ全体では、4割が道外へ出荷されています。遠くまで運ぶ分、輸送コストがかかり、売れたとしても本州のスギと比較すると利益は少なくなります。

② 近年の住宅価格の高騰
住宅の値段が上がっているため、新規に家を建てたいと考える人が減っています。人口減少も相まって、着工件数が激減。木材の需要が低迷しています。

函館市内でスギを生産している岡田功さん。
岡田さんは、生産者である傍ら、以前から道南スギの活用に力を注いできた方です。例えば、伐採した際に出るスギ丸太の端材で器やアクセサリーを作り、道南スギをアピールしてきました。

岡田さんも、苦しくなっている状況を語ってくれました。
ここにある丸太は、すべて2023年に伐採したものの、去年11月時点では売り先が見つかっていませんでした。

岡田功さん
去年4月からの丸太による売り上げはゼロっていうことに残念ながらなってしまっていますね。雪の下に埋もれさせたくないので、冬を越す前になんとか売りたいなとは思っているんですが・・・

林業の講師をしたり、器やアクセサリーを売ったりしながら生計をたてている状態でした。
(2024年1月現在、無事売り先が見つかったそうです!よかった!)

道南スギの普及に尽力する人

このような現状を抱える道南スギに対し、20年前から普及に尽力してきた人がいます。鈴木正樹さんです。普段は森町にある製材工場で、商品の企画開発をしています。

鈴木正樹さん
入社当時はあまり道南スギって使われていなかったんです。いい香りだし、赤い部分は水に強いし、すごくいい素材なのに、使われていないのはもったいないなと思いました。

スギの外装材・内装材を積極的にアピールし、十分に使えることを訴えてきました。

さらに、道南スギを「まずは知ってもらう」ための取り組みも15年前から重ねています。
この日は、地元の中学生が、道南スギを使った箱作りを体験。
実際に加工する体験を通して、まずは地元の木材の特徴を知るきっかけにしてもらおうというものです。

こんなところにも道南スギ

長年取り組んできた鈴木さんたちの活動が実を結び、私たちの身の回りにも道南スギが使われ始めているケースがあります。
例えば・・・空の玄関、函館空港。

鈴木さんたちが空港で木工体験のイベントを主催したところ、大勢の家族連れが訪れ大盛況!
これがきっかけとなり、空港の3階に道南スギの遊具ができました。

まだまだあります道南スギ!
続いてはこちら、コンビニエンスストアです。
内装や外装材はもちろん、時計や金銭のトレイにまで使われています。

初めて道南スギを使った店舗が作られたのが2022年11月。この1年間あまりで、3店舗にまで増えました。

店舗建設部 浅口和律さん
北海道全体で、北海道産の木材を活用した店舗を作ることを進めています。函館の方ですと道南スギが有名ですので、地産地消につながるということで取り組むこととなりました。北海道の林業の活性化のお手伝いができればと思っています。

最近では、鈴木さんのもとに「道南スギを使って商品をアピールしたい!」という人も訪れるようになりました。
この日は地ビールの箱を作りたいという依頼が持ち込まれました。

建築材としてではなく、こうした小物やノベルティに活用する動きも広まっています。

鈴木正樹さん
道南スギは建築材がメインで、輸入材や本州との材料との戦いで価格はかなり苦しい思いをしてきました。こうして違うマーケットで勝負できるっていうのは面白いですね。
いきなりバンと売れたわけではなくて、すごいじわじわきて今に至っているので、やっとここまで来たかなという感じです。
まだ達成ではないと思うので、これを通過点として、これからもっと頑張っていきたいなと思います。

【取材後記】報告:高橋葉
身近にあるけど、よく知らない「木」。さらに言えば、その樹種まではもっと意識しないと思います。
道南スギは、本州のスギに比べ、消費地(東京)までの距離が長い=輸送費がかかり、林業家や製材会社のもとに入る金額は少ないというのが現状です。だからこそ、道内で地産地消していく大切さを様々な取材先で実感しました。

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