ヒバクシャからの手紙 NHK

9月9日(金)


ディレクター柚木です。
8月7日の生放送当日は深夜の放送にも関わらず900通以上の反響を頂きました。
心よりお礼申し上げます。
多くの方から「見てよかった。手紙を書いた被爆者に感謝します」
とのメッセージを頂き、被爆者の声をたくさんの方に聞いて頂けて良かったと、ディレクターとして嬉しく感じました。

今年、この番組の制作がまさにスタートしようとしていた時、
東日本大震災と原発事故がおき、同じ日本でたくさんの方が亡くなり、街に人が住めなくなったという事実に私自身かなり動揺しました。
5月に訪れた名取市、釜石市で見た津波で瓦礫と化した街が、古い写真で見た広島の焼け野原と重なりました。
そして放射線。

被爆地にいる者としてどんなメッセージを伝える事ができるのか。
原爆の放射線被害を伝えることで、原発事故の影響に対する不安を余計に強めてしまうのではないか。私が原発周辺地域に住んでいて今まさに放射線に悩まされていたらこの手紙を聞きたいだろうか。
しかし、被爆による健康不安、差別は実際にあったことであり、
原爆被害の大きな要素なので伝えないわけにはいかない。
・・・とかなり葛藤し、番組の構成も二転三転しました。
最終的には、原爆と原発事故は違うけれど、被害を受けた人々の「放射線への不安」という点では同じであり、その不安と66年間向き合いながら生きてきた被爆者の言葉は、今まさに放射線への不安を抱えている人の励ましになるのではないかと思うに至り、そうした不安が綴られたお手紙も紹介することにしました。
被爆者の方から手紙が届き始めると、その多くに、今も続く放射線への不安について綴られていました。
しかし、手紙の最後には必ず、「原発事故で不安を持つ方々の気持ちを思うと胸がつぶれそうになる。心から応援している。」
といったような励ましの言葉がありました。
被爆者の方の苦しみ、悲しみの深さ、そして優しさに何度も心を揺さぶられました。
私だったらこんなに強く生きられるだろうか・・。
こういう思いもあって、今年番組では、被爆者の方の苦しみだけでなく、被爆者の方の「希望」を綴ったお手紙も何通かご紹介しました。
番組をご覧になった方に少しでも希望を感じて頂けたのならば、幸いです。
東京で育った私にとって「原爆」は教科書の中の、遠い特別な出来事でした。
しかし、去年の番組のアシスタントに就き手紙を読んで、
今の私たちと同じように日常生活を送っていた人々が、ある日突然原爆に遭い、たまたま被害者となってしまったこと。
特別な体験ではあるけれども、「特別な人」の体験ではなかったのだということを強く感じました。
そして、今年の「ヒバクシャからの手紙」のディレクターに手を挙げたのが去年の秋でした。それからは被爆者の方々に激励、お叱りを頂きながらたくさんの事を学んだように思います。

あるときお話をして下さった被爆者の方が、「被爆の記録は残っていくけれども、
"におい"は消えていってしまうんだよね。」とおっしゃっていました。
"におい"とは、嗅覚という意味でのにおいではなく、人の気持ち、という意味なのだそうです。
あの日亡くなった人の気持ち。
それを目の前で見るしかなかった人の気持ち。
その後後遺症に苦しんだ人の気持ち。
差別され続けた人の気持ち。
こうした被爆を体験した人間の気持ちは消えていってしまう。
自分が死んでしまったらこの世になかったことになってしまう。
その虚しさはいかほどかと思い、被爆者が声をあげられなくなってもその記憶は死なせてはならないと感じました。

それでも、一体どうしたら「記憶が生きる」ということになるのか。
するとその方は、
「そうやって考えて頂けているときが、記憶が生きているときだと思います。
きっと答えは出ないのではないかと思います。」
とおっしゃいました。

番組に寄せられた一通一通のお手紙に書いてあったのは、一人間としての被爆者の方々の気持ちでした。
先程の言葉を借りれば、そこには"におい"が詰まっているのではないかと私は思っています。
においは近づいて初めて、感じられるものです。
番組を見て頂いた方が、手紙から"におい"を感じ、被爆者の方の気持ちを身近に感じて頂けたのならば、そこに原爆の記憶は生き始めたのかもしれないと思っています。

ディレクター柚木

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